異世界に来たとき、俺は高校生だった。

オニキ ヨウ

異世界に来たとき、俺は高校生だった。

異世界に来たとき、俺はまだ高校生だった。

魔王を倒したのは、大学生くらいだった。


くらい、というのは、大学に行かずに魔王を倒したからだ。


そもそも異世界に大学はない。


俺の飛ばされた異世界は、中世のヨーロッパに似た世界観で、文化や学問は発展途中だった。


電気はなく、魔法が主な動力で、魔法を使う魔物や魔族がいて……まあ、その辺は書かなくても分かるだろ。


俺の組んだパーティは、言わずもがな、女だらけだった。性格も体型も様々だが、とにかく美人揃い。それも言わなくてもわかるだろ。


そして俺は魔王を倒して、ちやほやされた。


旅の道中で既にちやほやされていたんだが、世界を救うとその比ではなくなった。


俺は色々な種族の女から求愛された。


言葉は悪いが、入れ食い状態だった。


だからありがたくその恩恵に預かった。


結果、俺の子孫は増えまくった。

女たちは英雄の遺伝子が欲しいのだ。

俺の子供は百人を越える。人間×エルフでは絶対できないはずのハーフエルフも五、六人生まれた。


魔王城で謀叛を企んでいた魔族の女も仲間に引き入れており、その女との間にも半魔族の子供が十人生まれた(魔族は多産だ)。


三十代に上がる頃には、各種族に一人は俺の子供がいた。

人間と亜人の間には雌しか生まれないのか、半種の子供はどれも女の子だった。


しかし、どの種族の長も喜んでくれた。

一家に一台の家電みたいだな、と俺は思った。


一応、魔王討伐を打診してきた国王の姫君が俺の正妻ということになっていて、その女との間にも七子をもうけた。表向きこの七人の皇子が勇者の正式な子供という体だったので、魔王が復活したときは、七人の勇者が討伐へと旅だった。


もちろんあいつらがパーティにくわえるエルフやドワーフも俺の子供だ。


なにせ勇者の血を引く子供はこういった有事の際の秘蔵っ子として育てられているのだ。

皇子と各種族の女の子たちが仲良く旅立つのを見送りつつ、このままではまずいんじゃないかと俺は思った。


彼らは腹の違う兄妹。

もちろん、大人の事情で女側は父親の正体を知らない。


魔王を討伐されると、魔王よりもやばい代物が生まれてしまう。その結末はマジでエグい。


昔取った杵柄で、俺はどのパーティよりも先に魔王城へ辿り着いた。かつてともに旅をした、亜人族の女たちも一緒だ。さらに俺の妻である王女(今は女王の身分)もついてきた。


復活した魔王はそれなりに強かったが、数の上では俺たちが勝った。なにせ俺の元カノ軍団は、五十人を越える大所帯だ。


圧倒的な数で捩じ伏せ、魔王と会話ができる状態になった。


豪華絢爛な魔王城の座卓を囲んで俺たちは話し合った。倫理と道徳の問題について。

おどろおどろしい大広間がPTAの会議室の様相を呈した。


魔族に倫理道徳は通用しない。

しかし、何度も事情を説明するうちに、勇者の血族が倍々に増えると魔族側が不利になる、と損得感情で理解したらしい。


魔王は、勇者の交配がすすみ、その遺伝子が薄くなるまで魔界の果てで隠居すると約束した。


一万年くらい先になるかもね、と言ったのはエルフだ。王家の血も絶えませんよ、と王女が少しむくれて言った。


ドワーフが力技で魔王城を破壊し、味方についた魔族がその土地の言葉で魔族の幹部に魔王のおふれを伝えた。僧侶は祈りの言葉で土地を清めたが、俺はこいつの性の奔放さを知っているので、本当に瘴気が晴れたか疑わしい。


かくして、世界に平和がもたらされた……のだが、俺の子供は誰一人として戻らなかった。


冒険の途中で死んだかと思ったが、目撃者によると、大きな風が吹いてどこかに飛ばされたんだとか。


俺が異世界に来た時と同じパターンだ。

ということは、俺の子供たちは全員、現代日本に行ったのか?


どうする? あちら側の世界で俺の子供が恋仲になってしまったら?


それは、もう、なんというか、創作ジャンルが違う。ちょっと大人向けの恋愛漫画か、一昔前の韓国ドラマが担うテーマだろう。


どちらにしても俺の手の届くところではない。放っておくことにする。



ひとまず魔王もいなくなったことだし、俺は新たな子孫繁栄に挑戦しようと思う。

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