貢ぎオセロ(願い、渇き、熱)
@lemonade_pie
貢ぎオセロ(完敗) 色摩凛 SFW
「負ける、ということについて、どう思っていますか?」
オセロ盤は白石で埋め尽くされていた。坂本の完敗。圧倒的であった。色摩は、勝利に酔いしれることなどなく、冷静なまま、氷のような声で問いかけた。
坂本は深呼吸をし、頭の中で論理的に返答を考えようとする。負ける、とは。自分の敗因のことだろうか、いや、違う、そんなことを聞くわけがない。一瞬、色摩と目が合うと、その視線に押しつぶされそうになり、瞬間的に思考が霧散した。重圧の苦しみから逃げ出すように、目の前に転がっていた「楽」をつい、掴んでしまった。
「つまり……僕のような人間は、色摩さんのような方には一生勝てない……ということです……」
その瞬間、色摩の目が鋭く光った。部屋の空気が一変する。空気が熱くなり、重くなり、密度が高まる。
「……馬鹿を言わないで」
無意識の呟きであった。本人ですら意識していない、小さな声。感情の残滓。
「このゲームは、一瞬一瞬の選択の集積。たった60手に満たない限られた手数。たかだか、それだけの遊びです。」
色摩の声は段々と研ぎ澄まされていく。
「そんな遊びにおけるこの盤面、この瞬間が、なぜ私とあなたの優劣の比較になるのですか。劣っているというのは、いったい何を以て言うのでしょうか?いったい何の了見を得て言っているのですか?」
坂本は少し身を引いた。色摩の言葉が、まるで彫刻刀のように自分の内面を切り裂いていく。
「あなたは、何も見えていない。表面的なものだけを見て、それで私に返事をしようとした。」色摩の声に、抑圧されていた感情が滲み出す。「このゲームで、人間の価値を測ろうとする、その安易さに、私は怒りを感じます」
色摩は一歩、また一歩と近づく。声は低くなり、しかし一層鋭さを増していく。
「勝利、敗北、それ自体にそんなに意味があるのでしょうか。それだけで誰かに認められたり、存在価値が高まったりありえますか。」
部屋の空気が、凍りつくように静まり返る。
「いいえ、絶対にありえません。」
突然、色摩は自分の言葉の激しさに気づいた。深呼吸をし、いつもの冷静さを取り戻そうとする。
「……失礼いたしました」
オセロ盤を見つめながら、静かに付け加えた。
「もう一度、やり直しましょう」
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