遥かなる水の歌
四季織姫
第1話 女子校へ編入⁉︎
俺は今、とんでもない難問にぶつかっている。難問といっても数学や物理の問題じゃない。精神的な問題である。その問題は簡単なものではなかった。まぁ難問というからには当然である。特に俺にとってこれは難しすぎる。その問題とは女子校での挨拶だった。挨拶というのはもちろん編入の挨拶だった。なぜ女子校で編入の挨拶をしているのかという理由を話していこう。
「湊、私の高校に入りなさい」
突然、母親から意味不明な言葉を聞かされた。
「はい?母さんの高校って女子校じゃなかった?」
「そうよ。だからよ」
「意味不明だよ。俺は男だ」
「それも知っているわ」
だめだ、話が通じない。こんなに母さんってバカだったのだろうか。
「それで?正直に話してよ。なんで俺が女子校へ行くことになるんだよ」
「簡単よ。北城家の後継者としていろいろ会社を背負っていかなければいけないのよ。なのにあなたは女子が苦手じゃない。うちの会社は女性社員も多いし、女性客がターゲット層なのよ。そして、化粧品なんかの知識もない。どうやってうちを継ぐ気なの?」
「だからって、いきなり女子校か」
酷い話である。
「いきなりじゃないわよ。いろいろ教えてあげたじゃない。化粧も女性服も。なのにいきなりだなんて」
そうだった。母さんもいろいろ手は尽くしていたのか。
「わかった、俺が悪かった。でも、女子校はないだろう」
「行きなさい。当主命令よ」
「…はい」
というのが、今回の経緯である。そして、今三十人くらいの生徒の前に立っている。横には先生がいる。
「こちらの子は北城学院長の御息女である。いろいろ聞きたいこともあるだろうが先に挨拶聞いてからな」
「俺、ああ、いやその」
「俺っ子?意外!」
「ちょっと可愛いかも」
先生が間に入る。
「はいはい、騒ぐな。北城、さっさと挨拶」
「はい。私の名前は北城湊と言います。母のことは皆さんご存知だと思いますが私はただの一生徒ですのでどうかよろしくお願いします」
皆さんから拍手が起こった。
「北城は奥の窓側の席だ。隣の席は南雲だな。いろいろ教えてやってくれ」
「はい」
私が奥の席へ移動する中で周りの生徒が「これからよろしく」なんて声をかけてくれた。
「これからよろしくお願いします。南雲さん」
「うん、よろしくね。北城さん」
そこからは普通に授業を受けることになった。それぞれの授業の先生に挨拶をして、四限目が終わった時、隣の席の南雲さんに誘われて、購買でパンを買って、屋上に向かった。
「南雲さんはお弁当なんだね。おいしそう」
「これは寮母さんが作ってくれるの。予約すると多分北城さんも作ってもらえるよ」
「寮ってルナ寮っていうところ?」
「私はそうだけど、え、北城さんもルナ寮なの?」
「そうだけど、普通は違うの?」
「普通はステラ寮ってところだよ。あれかなもう満員なのかな?」
「あー、私が学園長の娘だからじゃない?」
「あ、それもあるかもね。それでね、少し聞きたいことがあるんだ」
「何?」
南雲さんの顔が真剣な表情になる。
「北城さんって男じゃない?」
え、いきなりばれたんですけど。お母様―。
「なんでそう思うの?」
「まず、今日の朝の挨拶。俺って言っていたよね。そして、君は北城家の人でしょ。私は南雲。わからない?君と私は親戚なんだよ。そして、私の知っている限り、明さんのお子さんはご子息だったはずなんだよね。どう?間違っている?」
「いや、全然」
南雲さんのいうことは全然間違っていない。
「それでどうするの?学院側に訴える?」
「ううん、興味ないしそういうこと。それに君との生活のほうが面白そうじゃない?学院長にはお世話になっているしね」
よかった、ここで人生詰むところだった。
「それで北城さんはなんでこの聖マリア女学院なんかに?ここ、女子校だよ」
「うん、親戚の人ならわかっていると思うけどね。私は最終的に母さんの仕事を継ぐことになるんだけど、それには女性のなんたるかをわかっていないって言われてね。なんかここにくることになった」
「なるほど、確かに北城さん、メイクも適当だもんね。元が女顔なんだね。普通男の人がそんな化粧していたらすぐばれちゃうよ」
それは確かにその通りだけど、どうにも自分の顔を描くということが慣れない。そのことを南雲さんに伝える。
「それならさ、私が教えてあげようか?仕事柄、流行なんかには聡いんだ。女の子のメイクや服なんかの選び方やこなし方教えられるよ」
「いいの、すごくありがたいんだけど」
そういえば仕事柄?
「もしかして南雲さんって、アイドルの遥ちゃん⁉︎」
「あ、やっとバレた?そうだよ。アイドルの南雲遥です。よろしくね」
「あ、あの、遥ちゃんって呼んでもいいかな」
「いいよ、みんなそう呼んでいるしね」
そこでチャイムが鳴った。予鈴だそうだ。
「鳴っちゃったね。そろそろ行こうか」
「うん、ちょっと待って準備する」
遥ちゃんの隣に並んで教室へ向かう。午後の授業も遥ちゃんに教科書を見せてもらってぎなぎなこなす。二つの授業を終える。午後は午前の半分しか授業がないので楽であった。
「北城さん、帰ろうか」
「うん、遥ちゃん」
そこにクラスメイトがやってきた。
「あれ〜、北城さん。遥のこと名前で呼ぶようになったんだ」
「もしかして、遥のファンだったりする?」
可愛いクラスメイトたちがキャッキャとイチャイチャしている。確かに遥ちゃんは推しのアイドルである。
「うん、昔から好きだったの。遥ちゃん可愛いから」
二人は「そうなんだぁ」と言って帰って行く。
「私たちも帰ろうか」
「うん」
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