第2話 星座占い

 彼女は、彼がよく知っている少し大げさな笑顔を作りながら、久しぶりね、と言った。

 彼も、やあ、久しぶり、と彼女に応えた。そして、どうしてたの? と尋ねた。

 しかし彼女は彼の質問には答えず、スマートフォンを左手に載せ、右手の人差し指で画面をいじりだした。

 白い指が長くてきれいだった。爪もまるでついさっき手入れしたばかりだというように、きれいに切りそろえられている。マニキュアやネイルでごまかしたりしない、健康的な美しさがあった。

 スマートフォンの画面を見ながら、彼女は、やっぱりな、と言って顔をあげた。


 「思った通りだわ。あなたなんかに会うなんてどんな日かと思ったけど、今日の山羊座の運勢は10位だってさ。」


 直之が膝の上に持っていたスティーブン・キングに視線を移すと、渚紗は彼の目の前にスマートフォンの画面を差し出した。確かに山羊座は10位になっていた。


 相変わらずだね、君は、と彼は言った。


 「でもほら、あなたのしし座は3位になってる。よかったわね。」


 そう言って、彼女は少し居心地が悪そうに足を組み替えた。

 彼女のジーンズは、比較的柔らかそうで、少しゆったりとしていて、適度にラフな感じだった。

 そういえば彼女はあまり締め付けられるような服装が好きじゃなかったことを思いだした。いつか冬の寒い日、襟の大きくあいたセーターを着ている彼女に、マフラーをしないのか?、と聞いたことがあった。そのとき彼女は、マフラーは首が締め付けられて苦しくなってしまう気がするからしない、と言っていた。

 直之がそんなことを目を細めながら思い返していると、電車の中でアナウンスが流れた。

 どこか別の路線で信号の故障があって、電車が停まっているようだった。


 「また信号トラブルか? 昨日も同じようなことがあったし、最近多いよな。」


 直之は言った。


 「そうなんだ」彼女は言い、それから「今何を読んでいるの?」と、別に興味がなさそうな感じで聞いた。


 ホラー小説さ、と彼は答えた。


 「あなたは昔から本を読むのが好きだったものね」彼女は言った。「でもホラー小説なんて面白いの? 私は苦手だけど。」


 「面白いさ。最近気づいたんだけど、ぼくはこういうのも好きだったみたいなんだ。新しい発見だよ。」


 言って彼はその文庫本を胸の前でひらひらさせた。彼女は、ふうん、と何か考えを巡らしているような感じで頭をゆっくり動かした。


 「そうだ、私あなたに借りっぱなしになってる本があったわよね。返さなくちゃいけないかな?」


 彼は、もういいよ、忘れてたし、と答えた。


 「読んだの?」


 「ええ。ついこないだ読んだわ」


 彼女は言った。


 「私も最近は本を読むようになったのよ。」


 「へぇ」


 渚紗に貸した本は、直之が高校生だったころに好きだったアメリカ作家の本だった。でも、彼女にはちょっとつまらなかったかもしれないな、と思っていた。

 忘れたふりをしたけれど、実はずっと覚えていた、というか忘れることができなかった。

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