エマのオタ活日記

咲間ユウリ

第1話 私の天使、降臨!?

「エマ!もう12時なんだけど!起きなさい!」

 近隣住民に迷惑がかかりそうなほどの大音量で叫ぶ母の声を目覚まし代わりに起き上がる。眠い目をこすりながらさっきの母の言葉を思い返す。12時…?あれ、叙任式の開始時間…

「12時半…って、ちょっと!10時には起こしてって言ったよね!?」

いや起こしたけど。とあきれながらボソッと言う母。そんな母を尻目にとりあえず間に合え!と勢いで身支度も何もせず家を飛び出した。あーあ、せっかく用意した参戦服が無駄になっちゃったな…と思いつつもう戻る時間はないので前だけ見ることにした。真昼間で街はにぎわっており天気も今日の叙任式を祝うかのように燦燦と照らしている。私は俊足だという可能性にかけて全速力でにぎわう人だかりをすり抜け、推し達の待つ楽園へと急いだ。

 街を駆け抜け、叙任式が行われる大聖堂に着くともう叙任式は始まっていた。最初に行われる彼らの宣誓が聞けなかったことを悔やみつつ通路を挟んで2列ある席のうち、どの聖騎士も見える真ん中の席の通路側に座った。さて、今年の新しい聖騎士様はどんな人かなとあたりを見回すと、叙任式などの厳かな儀式でしか使用しない傷一つない儀式用の純白の鎧を全身にまとった聖騎士を見つけた。見た感じ、背丈は私と同じぐらいだから女性の聖騎士様だろうかと考えているうちに今回のメインディッシュが運ばれてきた。そう、彼女が教皇から聖騎士の証たる「天使の翼」を受け取る時が来たのだ。生唾を飲み込みその瞬間を見届けようとした瞬間、世界が、壊れて…?

 気づいたときには大聖堂が跡形もなくなっていた。そして、空は光を失い悪魔に囲まれていた。あれ、聖騎士様は?と考えているうちに今度は世界が、白くなった…?いや、違う、これは

「聖騎士様…いや、天使…?」

周りから感嘆の声が上がり空を見上げている。私はそれに倣い天を仰いだ。そこにいたのは純白の鎧を脱ぎ捨てた、月の光に照らされた天使だった。


「闇よ、我が月光の前にひれ伏せ。」

「永遠の光で汝らに終焉を迎えさせよう。」

「――Lux Aeterna《ルクス・エテルナ》」


その瞬間月光が彼女の手の中に集まり、悪魔どもに向かって一振り。

――天使の、裁きだった。

 その後の私は放心状態でよく覚えていない。記憶がはっきりしてきたのは家の前に帰ってきた辺りだ。玄関の扉を開けると両親が心配そうにこちらに駆け寄ってきた。どうやら悪魔達による街中の奇襲により大聖堂一帯が甚大な被害を受けたらしい。しかしあんなに聖騎士様がこの日のために警戒していたというのにそんなことが起きるだろうか…?まあ、聖騎士様ならどうにかしてくれるでしょ!あんなに強いんだから!そう思いながら自室に戻り今日の叙任式を振り返る。

 ――でもやっぱり今回の目玉は新しい聖騎士様でしょ!月光に照らされる雪のように白く輝く髪、瑞々しい桃色の唇、悪魔どもに対しても分け隔てなく微笑をたたえる慈愛、そして一振りで悪魔どもを全て葬る人を超越した力。…うん。聖騎士様にふさわしい。どころかもはや天使!彼女を思い返すたびに私の細胞の全てが彼女の魅力に昂って沸騰しそう!彼女以外のことが考えられない!息が、できない…!

「こんなに、推せそうなの、久しぶりすぎ…!」

その日私は結局一睡もできず、彼女を一生推すという決意を固めるには十分すぎる時間であった。


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