第2話 街へ飛び出そうっ!!

歌子うたこちゃん! こっち、手伝って!」

「はい、今、行きますっ!」


 あぁ、今日も、忙しいっ!

 そう思いながら、歌子はバタバタと立ち上がって、声のしたほうへ向かっていく。


 あ! みんな、久しぶりだね! わたし、歌子だよ。 みんなと会うのは、あの散歩のとき以来かな? いくらか日にちが経って、今日は違う日なんだけどね。 いま、私は仕事をしてて、あとちょっとで終わるから、ちょっと待ってて……。


「歌子ちゃん! こっち頼む!」

「はい、分かりましたっ!」


 あぁ、もう、話してる途中なのにっ! 今度は急いで、別の場所へと走りだす。


 いま、私の周りには、たくさんの石板せきばんが、並んでるよ。 すっごく大きな部屋の中なんだけどね。 石板をよく見ると、文字がびっしりと書かれてる。 この街の、過去のできごとが、書かれてるんだ。 なんと! 1000年以上ぶんの記録が、ぜんぶ書かれてるんだ。

 ここは、歴史を記録する、公的な場所なの。 私は、いつも、ここで働いてるんだ。


 この街には、幽霊ゆうれいがたくさん住んでる。 過去に生きた人たちがいるってことだから、むかし、どんなことが起こったかは、ぜーんぶ分かっちゃうんだ。 みんなに、直接聞いて回ればいいだけだからね。

 ほら、私のまわりでも、話してる人がいるよ。


「ねえ、430年前ってさ、イワシは取れてた?」

「この事件って、900年前ぐらいだよね」


 色んな時代のことを、話してるね。 私たちにとっては、これが日常なんだ。 もし、700年前の殺人事件が、知りたかったら? 『あ、おじちゃん。 あなたが殺された時のこと、教えてくれない?』 『あぁ、いいぜ。 そこに座ってな、茶でも持ってくるぜ』なんて、変な会話なのかな? 慣れちゃった私には、もう、分かんないけど。


 私たちの街に、幽霊をろすには、儀式ぎしきみたいなことをするんだ。 霊を降ろす、『降霊術こうれいじゅつ』っていうんだけどね。 それを使って、たくさんの幽霊たちを、死者の国から、この世界に呼び寄せてるの。

 呼ばれた幽霊たちは、『ここが現代よ』って説明を受けて、『うんうん、なるほど! よっしゃ、新しい幽霊の生活を始めるぜっ!』 って感じで、街に住み始めるんだ。

 そんな感じで、どんどん幽霊が増えて、こんな社会になっちゃったみたい。



 さて、そろそろ、仕事も終わりの時間かな? そう思いながら、歌子はチラッチラッと、外のほうを見る。 何かを待ってるみたいだ……来た! ♪♪♪~ 歌を歌っているのが、遠くから聞こえてきた。

 これは、終業しゅうぎょうの歌なんだ。 今日はもう、仕事を終わりなさいっていう、合図なの。 やったっ! これで一日の仕事が、終わるっ!


「歌子ちゃん、これ、片づけておいて」

「はい、分かりましたっ!」


 帰ろうとしたら呼び止められて、片付けを頼まれちゃった。 あぁ、しょうがないなあっ! 歌子は返事をして、言われたものを、片づけにかかる。


 幽霊の人は、ものにさわれないからね。 ものを動かしたいときは、私みたいに、生きてて生身なまみの体を持った人に『動かして』って頼まなきゃいけないの。 ちょっと、面倒だよね。


 さあ! 片付けも終わったし、外に飛び出そうっ!




 外に出ていくと、爽やかな空気が感じられた。 あぁ、気持ちいい! 目の前には、街の景色が見える。 青空の下で、生き生きと輝いてる、街の姿だ! 山の斜面に、街が作られてて、見上げるところまで高く、たくさん建物がならんでる。 階段がたくさんあって、上ったり下りたりするのが大変だけど、街のどこにいても、眺めはすごくいいんだ!


 建物は、大きく分けて2つあってね。 わらと木を組み合わせて作ったような家と、もう一つは、岩を組み合わせて作った家なんだ。

 え? それショボそうだなって? そんなことないよ! これらの建物は、意外と大きくてね。

 わらぶきの家は、ビル2階分ぐらいの高さがあるし、岩の一つ一つも、私たちの身長の何倍もあるから、迫力満点なんだ。


汁物しるもの、いらないかーい!」


 お! おじさんが、道を歩きながら、料理を売ってる。 まわりを見ると、みんなそんな風に、料理を売ってるよ。

 それに、道のあちこちで、歌を歌ってる人がいる。 街を歩くと、色んな音楽が聞こえてきて、料理を歩きながら売ってる人がいて! にぎやかだけど、この街では、ふつうの光景なんだ。


「おじさん、一杯ちょうだい!」


 私が声をかけると、おじさんはこっちに気づいて、元気に答えてくれた。


「はいよ! 20ね」


 この20っていうのは、値段のことだよ。 ……でも、私はお金を払わずに、汁物を受け取っていく。 あれ? どうして? それでいいの、私っ?!


 ……じつは、これでいいんだ。

 みんなの世界みたいに、100円玉や、1000円札があっても、どうせ幽霊の人は、さわれないからね。 お互いにどれだけ支払って、どれだけ受け取ったかを、憶えておくしかないんだ。


 私はふところから、自分のうつわを取り出して、おじさんに手渡していく。 おじさんは、大きな入れ物から、私の器に汁物を注いでくれた。

 湯気が出てて……お味噌汁みたいなものだ! おいしそう。


 私は歩きだしながら、さっそくずずっと、飲んでいく。 ん! おいしい。


 さあ、今日はこれから、行きたいところがあるんだ。 さっそく、行ってみよう!

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