第268話 度重なる困難を乗り越え、これからも逞しく和国を支える探索者達に乾杯!
7月19日、探索者ギルド主催のパーティー当日の今日、探索者ギルドにいつもの装備ではなく、正装に身を包んだ探索者達が集まっていた。
慰労会ということで、探索者ギルド本部と探索者ギルド南葉支部のそれぞれの会場で行われる。
臣宿を拠点にする探索者と南葉を拠点にする探索者の両方を同時に労うため、テレビ会議の要領でお互いの会場を映して同時開催するのだ。
どちらも探索者ギルドの講堂一番大きな部屋を歌詞きりにして、立食形式のパーティーの準備が終わっている。
既に探索者達は開場した会場に入り、慰労会が始まるまでに歓談を始めていた。
その頃、黎明の梟の6人は小会議室に案内されていた。
南葉に溢れたボスモンスターを倒し、南葉の塔を踏破した黎明の梟の入場は箔をつけたいと的場が考えており、歩達は頼んでいないが黎明の梟は慰労会が始まった後、入場の演出が求められている。
「師匠と望愛さんの衣装、滅茶苦茶決まってるッス」
「ありがとう。望愛のドレスはロンドの塔で掃除屋を倒した時のドロップアイテムで、俺の方はドロップアイテム群をリサイクルボックスに投入した結果だよ。チャーハン達も決まってるじゃないか」
「そうッスか? 1着ぐらい持ってた方が良いと思って買ったスーツなんすけど、なかなか着る機会がなかったので違和感バリバリッス」
「その割にはスーツに名前が入ってるけどね」
チャーハンは間に合わせの1着だと言っているが、霙は本当のところを知っているからネタばらしした。
霙にしてやられたチャーハンだが、今日は言われっ放しではない。
「それぐらい入れたって良いじゃないッスか。霙だって師匠に見せるためにとっておきのドレスを着てるんだからおあいこッス」
霙のドレスだが、ターミナル症候群が治った直後だったらサイズが合っていなかったけれど、復帰して栄養のある物をしっかり食べて探索者レベル6になった今、ピッタリなサイズになっている。
いつも白をベースとした清楚なHYビショップを着ているから、大人らしい印象を感じさせるドレスを着た霙は間違いなくパーティーの華と言えよう。
「兄さん、当たり前なこと言わないでよ。歩さんと一緒のパーティーに出るんだよ? 気合を入れないと失礼だわ」
「そーですよ、チャーハンさーん。それに、こういうパーティーはギャップ萌えさせる絶好の機会なんですからー、アピールしないなんて勿体ないじゃないですかー」
ねぼすけもいつもは軽装に近い装備だから、ドレスを着るとかなり印象が変わる。
改めてチャーハンに自分の良さをアピールするべく、倹約家なねぼすけもここぞという時のドレスは持っていたらしい。
ドーナツはシンプルイズベストなスーツだが、良い生地で仕立てられていることを歩の【
そこに高峰がノックして小会議室のドアを開ける。
「黎明の梟のみなさん、そろそろお時間なのでお願いします」
高峰の先導で会場に連れて行かれると、会場内から黄瀬の声が聞こえて来た。
「それでは皆さん、開始時刻が迫って来たのでこちらの方々をお呼びしましょう。黎明の梟のみなさん、お入り下さい!」
高峰ともう1人の職員がドアを開ければ、スポットライトが向けられた状態で歩達は入場する。
BGMには怪物フェスタが流れ、歩達が的場や黄瀬の待つ壇上に通される。
「うわっ、すげぇ…」
「綺麗…」
「タキシードとドレスなのになんて存在感なんだ」
歩と望愛の姿を見て、参加している探索者達は思わず声を漏らしてしまう。
Ippoとしての活動で大勢の人を前に歌うことはあれど、実際に大勢の人から視線が集中する機会はそこまでないから、歩は隠者の仮面を着けて慰労会に出られてホッとした。
オウルという名前はIppoに直接結びつかないが、本名である
それゆえ、歩だけが正体を隠したまま参加している訳だが、回帰直後は自分がここまで有名になると思っていなかったので、覆面シンガーとしての名前も捻らなかった。
こればかりは読みが甘かったとしか言えないが、逆にそこもしっかり読んでいたならばそれはそれで自意識過剰と取られる可能性もあるので、今の選択をするのが無難だったのだ。
歩達が壇上に揃ったところで、的場がマイクを持って話し始める。
「
こちらの会場と南葉の会場で拍手が一斉に起こった。
「ギルド長、ありがとうございました。続いて、今回の
職員からマイクを渡された歩は、黄瀬に話を振られてマイクのスイッチを入れる。
「東西の会場にいる皆さん、
歩の発言を聞き、参加者達は的場の挨拶に負けないぐらい大きな拍手を歩に向けた。
全員が頑張ったからと歩は言ったが、客観的に見て黎明の梟の負担はエグい。
仮に黎明の梟以外が黎明の梟と同じ役割を任されたら、大半が無理と即答して残りもチャレンジして途中で進捗が鈍化したに違いない。
それがわかっているからこそ、歩があれだけ動いたのにこんなスピーチをできることを拍手で称賛したのだ。
待機していた職員達が的場や黄瀬、黎明の梟にグラスを手渡して的場が乾杯の発声をする。
「度重なる困難を乗り越え、これからも逞しく和国を支える探索者達に乾杯!」
「「「…「「乾杯!」」…」」」
歩は成人しているが、酒は得意ではないのでオレンジジュースで乾杯した。
立食形式であり、黎明の梟と乾杯したい探索者や職員は多かったから、歩達がグラスに入った飲み物を飲むまで乾杯から5分以上かかった。
食事と歓談の時間ということで、料理をこれから取りに行こうとした訳だが、歩達と話したいらしいエニグマの探索者2人が待っていたため、歩は望愛と顔を見合わせる。
「チャーハン達は先に料理を取ってらっしゃい」
「そうだな。エニグマの皆さんの用事はどちらかと言うと俺達2人にあるだろうから。そうですよね、元木さん?」
「ええ。皆さん全員とお話したいところですが、メインはオウルさんと黒羽女史です」
エニグマのクランマスターの本名は元木忍であり、掲示板では野生のまとめ職人のコテハンを使っている。
探索者としての実力と情報の取り扱いに長けた元木は、どうしても歩と望愛に話をしたくてこの機会にアタックしたのである。
「わかりました。そちらの女性はサブマスターですか?」
「お初にお目にかかります。エニグマのサブマスターを任されております、山岸香奈です。よろしくお願いします」
「黎明の梟クランマスターのオウルです」
「同じくサブマスターの黒羽です」
歩も望愛も掲示板はサラッとしか見ないが、エニグマのサブマスターが愉悦する探索者のコテハンであることは知っているため、顔にこそ出さなかったが掲示板とリアルのギャップに驚かされた。
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