第185話 俺達は道半ばで終われない。夜霧、やれるな?

 翌日の6月4日、歩は午前中に自宅で心理学の講義を受けて昼食を取り、望愛と共に臣宿の塔に向かう。


 チャーハンと霙と合流してから、塔の地下89階層に転移した。


 雲上の砦という内装は変わらないが、雲の色が黒くて雷を帯びていた。


 歩はワイバミミックを召喚し、通路の両脇の暗雲を見る。


「落ちたらランダム転移だけじゃ済まないな」


「気をつけないとね」


「落ちないようにするのも大事ッスけど、あれもなかなかヤバいと思うんス」


「マンドラゴラの亜種ですかね?」


 通路の両脇の危険度が上がっているのもそうだが、チャーハンが指差し霙が告げたワイバーンを模したマンドラゴラの群れも危険だろう。


 マンドラゴラと戦った時の記憶があれば、まともに前方にいる敵の叫び声を聞いてはいけない。


「マンドラゴンだ。マンドラゴラ同様に音を武器にするが、木属性と土属性の攻撃も使って来る。ということで」


 歩は夜霧を歌響旋棍チューントンファーに変形させる。


「音をもって音を制す」


「なるぼどね。歩の曲でバフもかかるし一石二鳥だわ」


 望愛は歩の考えを聞き、良い考えだと賛同した。


 チャーハンと霙も歩の考えに賛成する。


 歩が夜霧を叩いて鳴らせば、マンドラゴン達は自分達の叫び声以外の声に反応し、負けじと叫び始める。


「雑音は要らないわ」


 望愛は歩の「守破離」を聞いてバフを受け、強化された吹雪ブリザードでマンドラゴンの群れを一気に凍らせる。


 凍らせてしまえばこっちのものだから、歩とチャーハンが手分けして解体してはとどめを刺す作業を行う。


 歌響旋棍チューントンファーでマンドラゴンの絶叫に対抗し、響き渡る曲のバフで強化された吹雪ブリザードで凍らせることで、マンドラゴンは何もできないまま倒された。


 歩と望愛が揃って初めて実現可能であり、他の探索者達には真似できない方法と言えよう。


 作業を終えて歩達が探索を再開すると、通路の両脇の暗雲がゴロゴロと鳴り出す。


 その音に反応してマンドラゴンが叫び始める前に、歩は歌響旋棍チューントンファーでマンドラゴンの絶叫を無意味にさせる。


 (当然の如く招集センサーも発動してるし、1つ対応を間違えるとマンドラゴンの絶叫で身動きが取れなくなる。まったく、ふざけた階層だよ)


 そんなことを思いつつ、歩はマンドラゴンの絶叫を直に聞かないように対処していく。


 歩と望愛の活躍でマンドラゴンの群れを完封し、4人はボス部屋に辿り着く。


 小休止したいところだが、ボス部屋の前で休憩するとマンドラゴンがどんどん湧いてしまう。


 マンドラゴンの相手はうんざりしていたから、歩達はボス部屋に突入する。


 ボス部屋は地下88階層と同じく吹き抜けの塔になっており、その上空には渦巻く暗雲があった。


「ニンバスドレイクだ。通常は水属性と風属性で攻撃するが、怒ると雷属性や氷属性も使う」


 歩が説明しているうちに、ニンバスドレイクはとぐろを巻いた状態から、動きやすい状態に変わる。


 侵入者の存在が不快なようで、ニンバスドレイクは竜巻トルネードを発動する。


「私が破るわ!」


 望愛が竜巻刃トルネードエッジを放ち、ニンバスドレイクの竜巻トルネードを相殺した。


「俺っちもやるッス!」


 チャーハンは相邁の突撃槍ランスを高速射出するが、ニンバスドレイクは風の鎧を纏っており、それを突き破れずに弾かれてしまう。


「チャーハン、相邁を飛ばすだけじゃ厳しい。霙と協力して射程圏まで誘き出せ。ディオメデブーツの性能を使うんだ」


「了解ッス。霙、幻影を頼むッス」


「わかったわ」


 霙は憎悪幻影ヘイトシルエットを発動し、チャーハンの幻影を創り出す。


 その瞬間、ニンバスドレイクの全身が雷を帯び、怒ったことがわかる。


「兄さんの存在がよっぽど気に食わないのね」


「俺っちが何かしたッスか!?」


 ショックを受けるチャーハンだが、ニンバスドレイクはチャーハンの幻影に雷撃サンダーボルトを落とす。


 霙は魔盾マジックシールド攻撃反射アタックリフレクトを発動し、雷撃サンダーボルトを跳ね返す。


 しかし、ニンバスドレイクがダメージを負った様子はなく、先程までよりも激しい雷を帯びていた。


「すみません、やっちゃったかもしれません」


 次の瞬間、威力マシマシの放電ディスチャージが放たれる。


 放電ディスチャージは範囲技ゆえに、ニンバスドレイクの攻撃対象はチャーハンの幻影に限られず、歩達全員を襲う。


「俺が斬る」


「「「え?」」」


 広範囲に広がる雷をどうやって斬るのかという疑問を抱くのは当然のことで、望愛達は歩がどんな原理で雷を斬るつもりなのかわからず首を傾げる。


 歩は仕込み杖の夜霧を納刀し、夜霧を雷属性に切り替える。


 雷属性の夜霧に広がっていた雷が収束しながら迫る。


 (俺達は道半ばで終われない。夜霧、やれるな?)


『当然なのよっ。神器になるなら雷ぐらいぶった斬るわっ』


 歩は闘気付与オーラエンチャントの出力を限界まで引き上げて両手と夜霧を守り、落ちて来る雷を抜刀術で斬る。


 その時、歩の体はマイナによって疑似的に探索者レベル7になった状態を再現できていた。


 本人が狙って起こした事態ではないが、歩はこの感覚が次なるレベルに至るために重要だと理解できた。


 渾身の力を振り絞った抜刀術は斬撃を発生させ、それが梟形態の夜霧を彷彿とさせる形状に変化してニンバスドレイクを真っ二つにする。


 ただの物理攻撃なら効かなかっただろうが、歩は夜霧を雷属性に切り替えた上に闘気付与オーラエンチャントまで発動していたから、ニンバスドレイクに大ダメージが入ったのだ。


 ニンバスドレイクが消えて魔石とドロップアイテムが出現したら、チャーハンと霙が感動した気持ちを我慢できずに騒ぎ出す。


「やべえッス! 師匠が雷とボスの両方を斬ったッス! これぞ雷切ッス!」


「すごいです! まさかボスまで一刀両断しちゃうなんてすご過ぎます!」


「ありがとう」


 駆け寄るチャーハンと霙に短く礼を言った歩に、望愛は心配そうな眼差しを向ける。


「歩、大丈夫? 無理してない?」


「大丈夫だ。問題ない」


「それなら良かった。…歩、カッコ良かったわ」


「ありがとう」


 安心した表情を望愛が見せれば、歩もホッとして微笑んだ。


 それから、歩はニンバスドレイクのドロップアイテムを調べようとして【解析アナライズ】を発動したのだが、歩は自分が新たな称号を獲得していることに気づいた。


 (開闢かいびゃくの剣聖…だと…? しかもユニーク称号だなんて知らないぞ?)


 回帰前の歩の知識では、称号は条件さえ満たせばだれでも等しく得られるものだった。


 ところが、歩がニンバスドレイクを倒して獲得した開闢の剣聖はユニーク称号であり、誰か1人でも獲得したら他には誰も獲得できないことがわかった。


 (マジかよ…。専用技で雷切を会得してるじゃんか…)


 雷切は雷すら一刀両断する抜刀術であり、歩の全力を引き出して実体のないものすら梟型の斬撃で切断するとんでもない技だった。


 もしも歩の使っている武器が夜霧じゃなかったなら、一撃発動しただけで砕け散ってしまうだろう。


 そう考えると、歩と夜霧が揃って始めて使える技と言える。


 歩がユニーク称号と専用技のことを知って固まっているように見えたから、望愛はやはり先程の戦いで歩が無理をしてたのではと心配になる。


「歩、本当に大丈夫?」


「あぁ、ごめん。ちょっとユニーク称号の獲得と専用技の会得って事実に驚いてたんだ」


「ユニーク称号? 専用技?」


 望愛が首を傾げるから、歩は望愛達に自分の置かれた状況を説明した。


「高難易度な試練にクリアすれば、歩に追いつけるのかしら?」


「ユニーク称号も専用技も羨ましいッスねぇ。俺っちも欲しいッス」


「兄さん、現実を見よう?」


「ちょっ、なんてこと言うんスか霙!?」


 望愛は歩の隣に並び立ちたいと思っており、チャーハンはカッコ良いから自分も欲しいという浅い理由が透けて見えてしまい、霙から直接的表現よりもエッジの鋭いナイフのような言葉を貰った。


 開闢の剣聖と雷切による衝撃が落ち着いてから、歩は改めてニンバスドレイクのドロップアイテムを調べる。


 (雲玉うんぎょく。これはヤバいアイテムだわ。悪用されたら面倒なことになる)


 雲玉は大気中の雲を操作できるアイテムであり、これを悪用すれば他国に降るはずの雨を奪えてしまう。


『ご主人っ、雲玉はアタシが貰うわっ。アタシが神器になるのに必要だわっ』


 (ちょっと待っててくれ。望愛達に確認するから)


 歩は望愛達に雲玉の説明と夜霧に捧げたいと伝えたところ、売り出したら不味いアイテムだと同意を得られて歩の意見が通った。


 夜霧に雲玉を捧げた結果、夜霧は雲を操作する力を得た。


 もっとも、歩にこの力を悪用するつもりは微塵もないから、地星は戦争を回避することに成功したのだが。


 とりあえず、歩達はこの階層でやるべきことをやり終えたので、地下90階層に降りた。

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