FREE ALIENS

齋藤景広

侵略者じゃないのに

 皆さんは、宇宙人に対してこんな先入観を持っていないだろうか?「宇宙人は地球を侵略する者」と。宇宙人が本当にいたとしても、全員が地球を侵略するなどという目的を持っているわけではないだろう。その先入観のせいで、宇宙人は苦しめられることになってしまったのである…。


 地球の隣の火星に、自由主義の共和制国家があった。その名をマルス共和国という。その他の惑星の宇宙人たちも地球に向かっているのだ、宇宙空間を行進するような形で。マルス共和国のリーダー、クレイグ・アクトン(Craig Acton)首相が仲間に言う。

「地球はもう、すぐそこにある。その引力に引っ張られてしまうはずだ。着陸するのではなく、海に落ちて泳ごう。地球は水の惑星だからな」

 一行は地球の表面に向かって急降下を始めた。

「摩擦熱がすごいな、火傷しそうだ!」

「地球の方がずっと環境はマシなんだからいーじゃん」


 地球は、宇宙人からは「第九帝国」と呼ばれている。その第九帝国のリーダーであるクイーン・フラウネ(Queen Flaune)のもとに、このような知らせが届いた。

「上空に謎の飛行物体発見 宇宙人実在か」

「宇宙人…奴らは地球を侵略するに違いない。地球のあちこちに収容所を作りそこに押し込めればよい」

 家臣たちは心配そうだ。

「それでは、どこぞの美大落ちと同じではありませんか。ヨーロッパなどから反感を買うのでは?」

「私には圧倒的な演説力がある。その能力をもってして、全ての地球人を説得させる。これは地球を守るためなのだ、と」

「ならば、地球にある国全部に収容所を建設することを命じましょう」


 その命令は、各国の首脳のもとに届いた。フラウネはテレビで演説している。

「みな、宇宙人は地球を侵略するものだと考えています。もし植民地化されてしまったら、我々は奴隷になってしまう。地球を、地球人を守るためにも、宇宙人を倒すべきです」

 アメリカ大統領、

「それは良い!私の国民も宇宙人は侵略者だと考えている。賛成だ」

 イギリス首相、

「国民だけでなく他国の人々も守ることができるんだな。国民が喜ぶはず」

 ポーランド大統領、

「ポーランドは何度も分割されてきた。宇宙人に地球を分割されてはならない」

 みんな、フラウネの意見に賛成しているように見えた。


 しかし、少ないながら反対する人々もいるようだ。

「は?宇宙人を殲滅するから収容所を作れ?そんなことできるものか!」

「ユダヤ人の悲劇を知らないのか?」

 そう、反対したのはドイツとイスラエルだった。両国は孤立無援である。


 フラウネは演説を続ける。

「この一ヶ月間は、誰であろうと海で泳ぐことを禁じます。宇宙人は海を漂っている人型の生物であると聞きました。海にいる人間は直ちに収容所送りです。地球人万歳!」

「万歳!!!」

 民衆はヒューヒュー言っている。


 宇宙人は海で泳いでいる。クレイグは言う。

「この海、なんかすごい汚いな。まあ、地球以外の惑星の過酷な環境に比べればずっといいものか」

「なんか向こうに巨大な船が見える。なんだろう」

 その船からは放送が鳴った。

「地球を守るため、宇宙人は収容所送りにする。地球人よ、全ての物の上にあれ」

「全ての物の上にあれ?なんか聞いたことある」

「首相、収容所送りと!あの船は宇宙人を捕まえるためのものです」

「私たちは収容所に行くから、首相だけでも逃げて!」

 宇宙人は網に捕まってしまった。

「みんな!」

「首相だけでも無事なら、私たちは大丈夫です……」


 クレイグは陸に上がることができた。人々が話しかけてくる。

「もしかして宇宙人?もしそうなら、東京駅で丸ノ内線に乗って、隣の大手町って駅で降りて」

 少し歩くと東京駅があった。

(これは罠だ。大手町には収容所があり、地球人はそこで虐殺を行うに違いない)

 クレイグはその立派な駅舎から目をそらし、歩き出した。


 息も切れてきた頃だ。辺りを見回している。

「どこまで歩いたんだろうか。座って休もう」

 向こうからセーラーブレザーのジャケットを着た女の子が歩いてきた。青いリボンを付けている。

「疲れてそうですね。よかったら、私の家で休まない?」

「……ありがとうございます」

 しばらく歩くと、それはそれは見事な大豪邸があった。

「これが私の家。さあ、お入りになって」

「お邪魔します」

 大豪邸というだけあり、執事やメイドが迎え入れてくれた。彼がソファーに座ると、執事は紅茶を入れてくれた。

「いや、そんなことしなくていいんです。……すぐ帰りますから」

「申し遅れました。私は、星空学院中学校の二年生、銀河アリアです。こちらは執事のブライアンよ。あなたは?」

「マルス共和国首相、クレイグ・アクトンです。火星人なんだ」

「火星人?最近、収容所ができるという噂を聞いて。宇宙人がそこで迫害されると言われてる。怖いよね」

「ではこれにて。仲間が収容所で苦しんでいると思うと気が気で無い」

「首相、って言ったね?国民を助けたいという気持ちはわかる。でもあなたも収容所に入れられたら、国民の希望はなくなってしまう。仲間が無事に生きているという」

「それは確かにそうだ」

「あの独裁政権が崩壊するまで、ここでかくまってあげる」

「ということは、ここに居候すると?」

「簡単に言えばそう。ブライアン、それでも大丈夫?」

「無論にございます」


 というわけで、クレイグは銀河家に居候することになった。

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