第6話
明日香の家に向かう途中にある商店街に、洒落たワイン専門店がある。バーも併設されていて、前に一度明日香と入ったことがあり、店内には手頃なものから高価なものまで幅広く取り揃えられているのを知っていた。貴也は今日そこで、少し奮発してワインを買うつもりでいた。それから、花屋に寄って薔薇の花束を用意しようと考えていた。
ちょうど店の前に到着したところで、貴也は少し先の方に明日香の姿を見付けた。咄嗟に声を掛けそうになったが、堪える。貴也が定時に退社したことを明日香は知らない。残業になりそうだ、と伝えておき、明日香を驚かせようと計画していたのだ。
たかがそんなことだが、たかがそんなことでも、明日香は無垢な笑顔を浮かべて喜ぶような彼女なのだ。
明日香は買い物袋を両手にぶら下げて、店から出てきたところだった。貴也には気付かず、そのまま背を向け自宅の方へと歩いていく。
荷物が重そうで手を貸してあげたいところだが、その気持ちを押し殺して明日香の後ろ姿を見送った。
ワインと花束を購入して明日香の家へ向かおうと歩き出した貴也は、ふと、先程明日香が出てきた店の前で立ち止まった。
高級そうな店構えだが、ガラス張りの店内を覗くと、そこは惣菜屋らしかった。
今日は惣菜を買ったのだろうか。明日香にしては珍しいと思い、どんなものがあるのだろう、と貴也は店に入って少し見て回った。
そこは、貴也が普段利用している惣菜屋とは全く違い、高級レストランで出てきそうな洒落たものばかりが並んでいた。金額も少し高めだ。手ぶらで店を出るのは気が引け、貴也はワインに合いそうなチーズを数種類購入して店を出た。
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