瞬間思考停止

Hogeko

第1話

 ドンッと胸を叩かれた。ような気がした。

ついに恐れていた言葉を投げかけられてしまった。ずっと避け続けてきたのに。

相手が「なんで?」と言っている。

私は即答した。

「その件につきましては、いい加減なことも言いたくないので、一週間後にお答えいたします」すると、「いつもそうやって先送りするのね」と言ってくる。なんとも心外なことだ。引き伸ばしているのでは無い。これは充分に考えぬいた分析結果なのだ。

なんで?の問いに答える方法として、以下のようなパターンがある。

・知らないと伝える。この場合、自分の無知をさらす恥ずかしさはあるが、誠意ある答えだと思う。さらなる追及もない。

・思いつきの適当な答えをする。この場合、答える者に誠意は無い。お茶をにごして逃げるだけだ。真剣さがないことが伝わるので相手があきらめるに違いない。

・冗談で返す。瞬時にジョークが言えるのは、思考速度が速い人に限られる。一般人には不可能だ。相手も驚き、それ以上の追及はしにくい。

・聞こえないふりをする。スルーしてしまうってこと。歳をとると使えるテクニックです。相手に「この人に聞いても無駄だった」と思わせることができる。

など、人それぞれの性格によって様々な回答法があるが、普通はこれらのことが頭の中を一気に駆け巡り、どの方法を選択するのが適切か混乱する。その結果、ドンッと胸を叩かれたような圧迫感につつまれ、思考停止、言葉に詰まってしまうのだ。

で、対策として、時間的猶予をもらって、回答するのが良いとの結論に達した。

決して「先送り」では無い。誠心誠意の返答なのに……

私は相手に言い返す。

「なんで?僕の気持ちが分からないんだ!」

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