第5話モデル

 黒丘玖仁彦、年齢二十六、独身、モデル。

 百九十センチの長身で、茶髪の長髪が肩に微かにかかっている。アイドルグループの中に入てもおかしくない外見に欠点はない。


 同僚が俳優やタレントへの転身をとげるなか、訛りと吃音が酷い黒丘に声が掛かることはなかった

 ファション雑誌専門のモデルとして、そこそこの収入を得ていた。


 黒丘には、同時進行で付き合っている女が三人いた。


 そんな黒丘が、一人でいること事態少なかったが、日曜日から土曜日まで、仕事があるときはマネージャーの運転するミニバンで現地まで行き、帰りはタクシーを使って三人の内の一人と会って夜を過ごしていた。


 しかし火曜日だけは一人で、愛車のポルシェ911を運転して来て、自宅のマンションに帰ることがわかっていた。


 黒丘の棲むマンションは、片側二車線の国道に面していた。

 平日の深夜、その国道は黒丘の愛車がかなりのスピードをだして走っても、すれ違う車は殆どない。

黒丘にとって、火曜日の夜の唯一の楽しみのために、愛車のポルシェ911を維持しているかのようだ。


 その国道の二百メートルの直線に信号機は無い。


 一方通行で国道に入る脇道で、バキュームカーに乗ったマックが待機。

 黒丘がやって来る方向と逆の車線に白いクラウンに乗ったティが路駐待機。


 三十分後、もうスピードでティの白いクラウンに気付くことなく、すれ違った赤い黒丘のポルシェを、ティは車をU-turnさせて追いかける。

マックによって拡声器機能を備わったクラウンが、二分後黒丘のポルシェを左脇に停車させた。

 予想もしていなかった不運に不機嫌を露にして、黒丘は運転席のパワーウィンドウをさげた。

正面を向いたまま差し出された左手指先には、運転免許証が挟まれていた。

 ニセ警官のティは運転免許証を受け取ると、黒丘に背中を向けてしゃがみ、道路端の側溝にそっと落とした。


 ティは立ち上がりながら、左運転席に座る黒丘の顔面を大型のペンチで三度殴ると、鼻血を滴らせながらハンドルにうずくまる黒丘、気絶したようだ。


 ティが右手で黒丘の長髪を掴んで引き上げ、倒したシートに抑えつけ半開きになった口に、ちょっと赤い血のついたペンチを捩じ込んで、前歯を二本挟むと、力任せに二、三度前後に揺らして一気に引き抜いた。

 激痛で、黒丘が眼を覚ますが鼻と口から血を滴らせながら、何がどうなってどうすればいいのか解らないという感じで動きがない。


 ティがシゴトをしている間に、ポルシェに横付けされたバキュームカーで、マックが黒丘の愛車の車中を糞尿で満たしていた。


 黒丘は、激痛で諦めかけたかのように動きが止まっていたが、悪臭でさすがに車から脱出を試みるが、開いていた筈の運転席の窓は閉められ、鍵もない。車中は糞尿で満たされ、黒丘は天井近くの隙間に激痛で麻痺ている顔面を糞尿から出して、「助けて」と呟いていた。

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