第4話ターゲット

 俺のシゴトはターゲットの行動パターンを調べることだ。


 朝は何時に家を出て、何時のどんな交通手段を使って出勤し、昼はどこで何を食べるのか、帰宅する前に立ち寄るとすればそれは何処か、何時に帰宅するのか、帰宅後外出するとすればそれは何処か、そして交遊関係など

三十項目の詳細を三週間程かけて調べる。

 それをティに報告する。

 

 実際にお仕置きをするのは、ティと毎回違う車を用意してやって来るマックだ。


 マックと俺が話すことはほとんどない。

 あくまでも俺はティの助手であり、マックが直接俺に指図することはなかった。

 同じ一室にいても、俺の存在はないかのように、マックはなんでも声にだす。

 しかし俺に不快感はない。


 マックにも俺みたいな助手が何人かいるようだが、話したことはない。


 それにしても、ティとマックはよく似ている。年齢は五十前後、背丈は180前後で、中肉中背、髪は短く耳にも眉毛にもかからず、六対四で白髪が多く、頬から鼻下から顎まで白髪交じりの短い髭がはえている。


 はじめて見たときは兄弟かと思ったほどだが、違うらしい。

 ティとマックは、互いに調べあった情報を突き合わせ、実行方法と実行日を決める。

 実行日が決まると、その当日まで二人が顔を会わせることは殆どない。

 準備品に変更が必要なときは携帯電話を使うが、当日の計画の変更は織り込み済みで、ティの決定は絶対だった。マックが嫌な顔を見せたことはなく、むしろ変更を楽しんで待っているようにも俺にはみえた。


 二人が仕置きを実行しているときの俺のシゴトは、依頼人に渡す証拠映像をカメラに撮ることだ。 

 あとマックの助手もかなり離れた場所から見張りも兼ねてドローンで撮影していた。


 ターゲットが正当な理由もなく被害者にしたように、決して仕置きの理由をターゲットに教えることはしない。


 「突然見知らぬ男から、運悪く悲惨な目にあってその後の人生が予想もしないことになり、どう生きていくかは……彼らの自由だ、因果応報に気づくことはないだろうが……残りの人生がちょっと大変になるのは仕方ないだろう」とティはいう。


 合野寛、年齢二十五、独身、ホテル勤務。

 合野は、週ニ回の彼女とのデートの日以外

は、いつも午後8時前に帰宅して、深夜の0時から1時にかけて、コンビニに行くのが習慣のようになっていた。その際、三回に一回は、使い捨てライターを万引きしていた。


 コンビニからの帰りは近道になるせいか、

古びたアパートの壁に囲まれた、人気のない駐車場を通った。


 合野を追いかけて来たかのように、ティが後ろから声を掛ける。合野は歩きながら一瞬振り返り、戻した頭がマックの肩にぶつかった。マックは合野の首に腕を巻きつけ、駐車場で待っていたミニバンに押し込んだ。

 眼と鼻を布製のガムテープで塞ぐと、開いた口から睡眠薬入りの水をたっぷり流し込む。

 

西陽の射す人混みの駅前のビルとビルの隙間のような路地で、合野は寒さと傷みで眼を覚ました。

手の甲の虫が眼に止まり、あわてて手を振るが取れない、手で祓おうとするが取れない、一瞬、──絵……と思うが、長袖のシャツをたくしあげると、手の甲から上腕まで、蜘蛛や蠍やいろいろな虫のタトゥーが彫られていた。

「……何してるんだ、おれ……」


 合野は何があったのか思い出せない。


「……あぁ仕事は……休みか……いやっ、今日……何の日だ……くっそ、頭がいたい、」


 腕の虫たちは動かない。


 路地に出されたアルミ製の看板に、合野の顔が写る、頬に虫がいるようだ……。


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