シゴト

フシ

第1話出会い

 携帯の電波も途切れがちな山奥の寂れた温泉地に来て三日目の午後。

 俺の気分には関係なく、雲一つない洗濯指数100の炎天下を歩いているときだった。

 ガッチリとした体格の四十代後半から五十代に見えたその男は、俺の右横に並んで歩くと拳一つ分上に肩がきた。

 

突然、「シゴトを手伝え……」と言った。

 かなり強引な言い方に訝っていると、呟くように話し始めた。


 「おまえはまだ死ぬ価値なんてないね、誰かおまえが死んで喜んでくれるか……そんな奴がいるんだったら教えな、たんまりとふんだくってやる……死ぬのはその後にしてくれよ」

 

「はぁ……」

 俺は惚けてみせたが、男の自信に満ちた声は更に続けた。

 

「人は必ずいつか死ぬ、心配するな……、

死ぬ努力なんてしなくても必ず経験できることだから……無駄なことに時間を使うな、あの世にも迷惑がられるぞ……予定より勝手に早く行っても居場所がなくて、あの世とこの世を彷徨って不成仏霊になるらしいぞ……」

 ―あの世にも迷惑か……、なんか可笑しくなった。

 「不成仏霊……」思わず呟いていた。

 

男に聞こえたようだ、一瞬俺の方をみたが話を続けた。

 「わしのシゴトを手伝え……、傷つけられて大切なものを失って、それでも何とか生きてる人の怨みはらしてあげるなんて良いと思わないか…依頼人からは僅かでも喜ばれ、こんな世の中で何とか生きていく力になるなんて……」

 この男のいう仕事の手伝いが―殺し…なのかと咄嗟に思った。

 

「自殺は駄目で、人殺しはいいのか……」

 「はぁ……いまにも死のうとしていた奴が説教するんか……」

 「……」


 「まあいい、これから永い付き合いになるんだ、お互いの考えを知っとくのも悪くない、わしが人の怨みをはらすのは仕置き屋だからだ……だが殺しはしない」

 俺は男の答えに少しほっとした。

 

「でも仕置きなんて、あんたにする権利

あるのか……」

 


 

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