マグロ

兼穂しい

第1話

その店は港町の一角にあった。


マグロ専門店「超時空惣菜マグロス」


木造の立派な店構えが年季を感じさせ、大きな暖簾をくぐると柔らかな暖色系の照明が迎えてくれた。


壁には何枚もの大漁旗が貼られている。


従業員に案内されたオーシャンビューの個室からは青い海が果てしなく広がり、太陽の光が水面にキラキラと反射していた。


部屋と部屋を仕切るのは薄い障子で、両隣の客たちの楽しげな声が聞こえる。


なかなかの繁盛店である。


タッチパネルで注文を終えると、ほどなくして女性従業員が現れた。


挨拶もそこそこにソソクサと脱ぎ始め、一糸纏わぬ姿になるとマットレスに横たわる嬢。



・唇を重ねる。→ 無反応


・胸を揉む。→ 無反応


・性器をいぢる。→ 無反応


・挿入する。→ 無反応


・激しく腰を動かす。→ 無反応




聞きしに勝る消極的な態度は「看板に偽りなし」である。




・四つん這いにして尻の穴に挿入を図る。→ 死にもの狂いの抵抗




* * *




ひとしきり楽しんだ後に会計を済ませて店を出ると、嬢に引っ叩かれて赤く腫れた頬を誤魔化すように茜色の夕陽が顔を照らした。


「マグロのたたき」ならぬ「マグロに叩かれ」の終わりを迎え、嬢が渡してくれた次回割引に使える名刺に目を凝らす。


源氏名「芭瑠樹 莉依(ばるき りい)」の下に紫のペンで「アナル厳禁!!」と殴り書きされていた。


心地良い春の風を受けながら思案の末、回れ右して再入店する。


再指名された嬢の顔は若干血の気が引いているようだった。


それはあたかも冷凍マグロのように。


さあ、解凍を始めようか。



~ Fin ~

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マグロ 兼穂しい @KanehoShii

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