第27話 二人の英傑
「貴様ら、ここで何をしている……」
兜で籠った声が響く。
「貴様らは確か、外の警備で雇った傭兵だったな。何故ここにいる?それにこの有様は……」
ブレイグは辺りに転がる男共の死体を見て言う。
まずいと思った。
「こ、これには深い事情が……」
しかしブレイグはズカズカと鎧を鳴らしながらこちらへと歩み寄ってくると、
「あれ程に余計なことはするなと言っておいたはずだ。まさか容疑者を全員殺すとは」
「ぜ、全員じゃない。それにリーダーの男は生かしてある。それに俺達もたまたまここに居合わせただけで」
「たまたまだと……?」
「あ、ああそう……ほんとに偶然。そしたら奴らが人身売買をしてるのを見て……」
「それで殺したのか……?」
「殺すつもりはなかった……でも殺らなきゃ俺達が殺られてた……」
ブレイグが兜越しでもわかるくらい遠夜達を睨みつけている。
それに対して遠夜は幾ばくかの恐怖心すら覚えた。
するとブレイグが、
「こいつらの殆どは、頭部を一撃で破壊されて死んでいる。抵抗する間もなく一瞬でだ。これをやった者は相当殺しに慣れている……」
しまった。
「これを本当に貴様がやったのだとしたら、貴様は一体何者だ」
ブレイグが再び腰の剣を引き抜いた。
殺したのは俺達じゃないと言えばよかったと、遠夜は後悔する。
「ま、待ってくれ!俺達は――」
「何だこれは!?」
大きな男の声が倉庫内に響いた。
振り返って見ると、そこには先程会場で遠夜達の斜め前の席で騒いでいた太ったオヤジだった。
赤茶髪の傍付きも一緒だ。
「何が起こっとる!?ワシの奴隷はどこだ!?」
「閣下、危険ですので私の後ろに」
「ええいうるさい!ワシに指図するな!」
騒ぎ散らす二人を見て、ブレイグが呟いた。
「まさか……ホルマン公爵閣下?何故ここに?」
――公爵だと?貴族っぽいとは思ったがやはりか。
すると公爵はこちらの存在に気付いたようで、ズカズカと歩いてきた。
「なんだ、奴隷どもはここにいるではないか。おい貴様」
遠夜とアルテなど居ないかのように、公爵はブレイグに向かって言った。
「はっ、閣下……」
ブレイグは兜を外し強面の顔を見せて頭を下げた。
「まったく、ワシの楽しみを台無しにしおって。お前達憲兵のせいでオークションは滅茶苦茶だ」
「はっ、し、しかし……奴隷の売買は法律で禁止のはず……この様なオークションに何故閣下が」
「そんなのオークションに参加していたからに決まっておろう」
「ご、ご冗談を」
「ついさっき奴隷を五匹落札したところだ。その内の一匹はなんとエルフぞ。エルフの奴隷は初めてだわい。良い買い物をした」
「……っ」
ブレイグが酷く同様した表情をしている。
国が奴隷売買禁止を掲げてるくせに、その国のトップ貴族がこれだ。正義を元に取り締まってた騎士隊長からすれば、このリアクションは妥当だった。
「おいギード、ワシが買った奴隷達を拘束して連れて行け。くれぐれも丁重にな」
「はーい」
ギードと呼ばれた赤茶髪の傍付きがこちらへ近づくと、少女達が小さく悲鳴を上げて再び恐怖に怯えた表情に戻った。
アルテが少女達を庇う様に立ちはだかり、近づく男をキッと睨みつける。
「ん?何だお前も奴隷か?こんな金髪の獣人いたっけか?」
「奴隷なんかじゃない!私も、この子達も!」
するとブレイグが怖い顔をしてそこへ割って入る。
「待てギード……説明しろ。何故憲兵第二の隊長であるお前が、ホルマン公爵と共にここにいる。まさか以前から知っていたのか……!」
「ブレイグ……硬っ苦しいのは昔から変わらないな。わかるだろ?少しは大人になれって」
「そんなことを聞いているのでは無い……!」
「ここで俺の邪魔をすれば、お前の爵位は剥奪になるかもしれない。見習いの時に誓ったろ?」
「ああ、共に騎士の高みを目指すと誓った……だがこれがお前の言う騎士なのか……?」
「俺だってやりたかない。けどこれで昇進できるなら俺はやる。俺の目標は憲兵じゃない、銀翼の騎士団に入って
「バカげたことを……」
するとホルマン公爵が言う。
「おい貴様、先程から邪魔ばかりしおってからに。言っておくがワシに逆らえば爵位剥奪ではすまんと思え。貴様の親兄弟も今の生活を遅れるとは思うな」
「まあまあ閣下、その辺で勘弁してやってくださいよ。こいつ、ブレイグとは昔馴染みなんです。少し頭が堅いところはありますが優秀な男ですよ」
偉そうに言い放つ公爵をギードが宥め、小声でブレイグに向けて言う。
「ブレイグ……ここは従っておけ。お前のプライドの為に家族まで犠牲にすることは無いだろ」
「……くっ」
苦虫を噛み潰した様にブレイグが表情を曇らせる。
そんな最中、
「んん〜!?ちょっと待て!」
突然公爵が大声で騒ぎ出した。
全員が驚いて顔を上げる。
「そこの金髪の獣人……!お前も奴隷か!?」
公爵はアルテを指さしている。
それにアルテがキレて返す。
「だから!奴隷じゃないって言ってんでしょ!」
「おほ〜う、気が強いの〜いいの〜」
公爵は不快な表情と足取りで遠夜達の元へと近づいてくる。
アルテがゾッとした表情で身を竦めた。
「決めた、お前もワシが飼ってやろう」
「はあ!?ふざけないでよこの豚男!」
「ぶっ――何じゃと!?」
ギードが思わず吹き出しそうになっている。
「豚男って言ったのよこの変態公爵!」
「何と生意気な……この下等な半獣が!貴様ら獣人など人間の道具でしかないと言うに!」
公爵の酷い罵声にアルテの肩が揺れる。
「下等な半獣如きがこのワシに逆らったらどうなるかその身に教え込んでやるわ!ギード捕まろ!屋敷の地下で縛り付けて三日三晩拷問し犯し倒してやる!まずは磔にして爪を一枚一枚剥がしてやろう……ふへへへ」
アルテは涙目で、酷く怯えた表情で震えている。人間の怖さを一番良く理解しているのは彼女だ。
「他の獣人同士で殺し合いをさせるのも悪くないなぁ……それとも、貴様の親を目の前に連れてきて拷問するのもいい……はははっどうだぁ?」
「ひっ――」
アルテが小さく悲鳴をあげた。
――ああ、これ以上はいけない。
「さあどっちがいい?ん?」
「……っ」
「答えぬかバカ半獣が。おいギード何をモタモタしておる。早く捕まえろ」
そんな最中、遠夜は震えるアルテの前に割り込んで彼女の肩にそっと手を触れた。
「アルテ、大丈夫だ」
「あ?何じゃ貴様は〜?邪魔をするなら貴様も――ごブッ!?」
変態公爵が言葉を紡ぎ終える前に、遠夜の渾身の右ストレートが公爵の鼻先を捻り潰し、前歯を数本道連れにしながら壁際まで奴を吹っ飛ばした。
「俺のツレに気色悪いこと言ってんじゃねぇよ……!」
完全にノックアウトされた公爵。
それを見てギードが賞賛するみたいに口笛を吹いた。
しかしその次の瞬間には、背後から遠夜の首元へロングブレードが宛がわれていた。
「如何なる理由があろうと、貴族に暴行を働いた罪は重い。法に則り、貴様をこの場で処罰する」
ブレイグが凄まじい殺気を放ちそう言った。
すると今度は目の前のギードが遠夜の首元へ刃を向けた。
「ま、そーいうことだ。この国で貴族を攻撃することは即ち国への反逆。いいもん見せてくれてありがとよ。おかげでスカッとした。あとは任せて、大人しくここで死にな」
前後からの強烈な殺気に挟まれる。
異常な緊張感の中、ブレイグが殺気を少し弛めて言う。
「お前には悪いが、閣下をのしてくれて正直助かった。おかげで俺は己の信念を曲げずに済む。奴隷となった少女達は我々憲兵騎士団が責任を持って保護する。決して悪いようにはしないと約束しよう」
――ま、こうなるよな。
勢い余って殴り飛ばしてしまったが、致し方ない。それに公爵を殴ろうが殴らまいが、この騎士二人との衝突は避けられなかったろう。
だがブレイグが奴隷の少女達は保護してくれると言ってくれたのは、遠夜にとっては非常にありがたい。この男の性格からして嘘はないと思って良いだろうし。問題はアルテを守りながらこの二人を相手しなければならないこの状況にあった。
遠夜は肌で感じていた。このギードとか言う男、おそらくブレイグと同格、間違いなくグランドナイトだ。
グランドナイトを二人同時、笑えない冗談だ。
だが、彼らも待ってはくれないだろう。
――やるしかねえ。
先に動いた。
一瞬の動作でホルスターに手を掛け、銃を抜くと同時にトリガーを引いた。
早撃ちされたエナジーバレットが前方のギードの土手っ腹に直撃し、その身体を弾き飛ばした。
しかしそれと全くの同時、背後からブレイグによる身の毛もよだつ斬撃が迫る。
だが初めから来るとわかっていれば対処出来る。
遠夜は頭を下げて斬撃を回避しながら、後ろに向けていた手からエナジーフォースを放出、衝撃波を利用して背後のブレイグから距離を取る。
すぐに体勢を立て直して叫んだ。
「アルテ!逃げろ!」
「で、でも……」
「いいから、取り敢えず外に出てどこか安全な場所に隠れてろ!隠れたらその場を動かずじっとしてるんだ!あんまり遠くへは行くなよ!」
「こ、この子達は?!」
「その子達は憲兵騎士団が保護してくれる。そうだよな……!」
「さっきも言っただろう。約束は違えない」
するとアルテは少しの間迷った素振りを見せたが、その後小さく頷くとすぐに駆けだした。
「気をつけなさいよトーヤ!!」
その言葉を残して走り去る。
「アルテを追わなくていいのか?」
「彼女は法を犯した訳では無い。それにどうやら、貴様の相手をしながらではそれも無理そうだ」
ブレイグもまた、遠夜の実力を肌で感じとっていた。
そんな時、吹き飛ばされたギードが瓦礫を押しのけて立ち上がり、首をゴキゴキと鳴らしながら歩いてきた。
――無傷……やはりチャージが足りなかったか。
先程の一撃は銃を抜くと同時に速射したため、十分なエネルギーを溜める暇が無かった。
本来なら今の一撃で仕留めてしまいたかったのだが、どうやら一筋縄ではいかない。
「ははっ、はははっ!すげぇすげえ!ひっさびさに吹っ飛ばされたぜ!何だ今の魔法、速すぎて一瞬反応が遅れちまった。強そうだとは思ってたがお前、マジに強ぇなあ!!」
髪をかきあげながら、狂った様なテンションでギードが叫ぶ。
「サラ、起きてるよな」
『警戒レベルFIVE、ASの解放を推奨します』
「却下だ。お前がいればやれるだろ」
『了解、全開でサポートします』
「よしいくぞ……!」
〈ブースト〉
全身の細胞から溢れるエネルギーによって筋肉組織を強化、運動能力が向上する。
同時に右手に握るAT9にフォースをチャージ、高威力の一発をブレイグに向けた。
その瞬間、
「その杖に気をつけろ……!!」
ギードが叫ぶ。
音速を超えて撃ち放たれた光弾がブレイグに差し迫る。
が、間一髪で剣で弾く様に軌道を逸らされた。
外れた光弾は倉庫の天井を大きくぶち破る。
――バカな……二撃目から対応してきた……!?どんな動体視力してやがる。俺でも今の解放率じゃ避けられねぇぞ!?身体能力だけなら今の俺以上か……!?
しかしその驚愕の一瞬を突き、ギードが剣を振るった。
まさか、斬撃が飛来するとは考えもしなかった。
「――っく、」
輝く斬撃が遠夜の頬を掠める。
僅かに血が舞う中、斬撃に乗じて飛び込んで来たギード。それに合わせて遠夜の背後からブレイグが仕掛ける。斬撃を避けたことで遠夜は今、体勢を崩している。
――避けられない、バリア……間に合わない……!
その瞬間、全身の細胞が熱を帯びた。
「――っ!」
地面を蹴りつけ同時にフォースを放出、〈アクセル〉を使った真横への緊急回避で波状攻撃を紙一重で躱した。
それと同時にAT9を連射し両騎士の追撃を牽制する。
パワーが弱くて効いてはないが、何発か着弾してる。やはりまだ銃撃の速度には付いてこられてない。
『AS解放率16%』
「サラ!勝手なことをするな……!」
『解放しなければ致命傷でした』
――いつから命令を無視するようになったんだコイツは。
しかし結果的には助かった。
たかが1%の上昇量と侮ってはいけない。
細胞の抑制を1%解放するということは、単にエネルギーの生成量が増えるだけでは無い。それは普段から細胞の活動を抑制していたことで生まれていた身体の枷が解き放たれるということ。つまり筋肉や神経組織が細胞レベルで強化されるということだ。
「ははっ、何だよまだ上がるのか……!」
「ギード、合わせろ。この男はグランドナイト級以上の実力だ」
「お前が合わせろブレイグッ……!」
再び両騎士が仕掛けてくる。
後方へ下がることで、両者を視界に映しながら迎え撃つ。
またギードの剣が輝いた。飛ぶ斬撃がくる。
この技は先程ブレイグが怪物を仕留めた際に使用したものと同じだろう。至近距離で放てば凄まじい威力だが、遠距離から斬撃を飛ばした場合には威力が大幅に落ちる。
――あれくらいなら、問題ない。
予想通りギードが斬撃を放った。
同時に、遠夜は左手からフォースを放出しながら振り抜いた。
「マナブレイド!」
「ストライク!」
衝撃のぶつかり合い。
両エネルギーが宙に霧散する。
そのタイミングに合わせて再びギードとブレイグが飛び込んできた。
遠夜はこの動きも読んでいた。だから対策済みだ。二度も同じ手には掛からない。
既にフルチャージされたAT9の銃口を向けて、躊躇なく撃ち放つ。
先に飛び込んで来たギードに直撃――。
否、間一髪剣で受けた。
しかし高威力の光弾に押し飛ばされギードは瓦礫の中へと突っ込んでいく。
一瞬遅れてブレイグが飛び込んできた。
「その魔術、今の威力で連続して撃てないのはわかっている……!」
再チャージに起こる数秒のタイムラグを見抜かれている。
「そうだ、だからこっちを溜めていた……!」
「……っ!?」
左手に集めたフォースを解き放つ。
「ストライク……!」
エナジーフォースによる衝撃波がブレイグを襲う、その直前――ブレイグは一瞬の動きで右に身体を仰け反らし回避を試みていた。
だが避けきれずブレイグの左篭手が粉微塵に破壊されるが、奴は構わずその流れのままロングブレードによる強引な斬り上げを行使した。
奴の剣は光り輝いている。
――至近距離でのマナブレイド……当たったら死ぬ……!
〈バリア〉
全身からのフォース放出によって簡易的な障壁を展開。
〈アクセル〉
同時に足裏に集めたフォースの解放、
弾け飛ぶ様に後方へ跳躍する――だがマナブレイドの間合いが予想以上に伸びてくる。
爆発の様な衝撃が砂煙を巻き上げ、遠夜の身体を空中へと吹き飛ばす。
宙に舞う身体、研ぎ澄まされた集中、スローに見える視界の中で、思考だけが加速する。
腹部を大きく斜めに斬られた。だが傷自体は浅い。出血も大したことない。問題は――今尚追撃に向かってくるブレイグ。
――強い……接近戦で俺が押されるなんて考えたこともなかった。
ブレイグが地面を蹴ってこちらへ飛び込んでくるのが見えている。
――空中で奴の剣撃を捌き切るのは不可能。それに認めたくはないが、接近戦では俺が不利。ここは一旦、離脱する!
空中でアクセルを使用して空気を蹴り、大穴の空いた天井から外へと抜け出した。
飛び出した先、赤瓦の屋根上へと着地する。
〈サーチ〉
周囲に広げたフォースの波動で周辺の人の気配を探る。
――どこだ……近くにいるはずだ。
気配のする場所を片っ端に探し回る。
見つけた。
マーケット裏路地の樽の後ろから、アルテがひょっこり顔を覗かせた。
――あいつあれで隠れてるつもりか。しかし分かりやすい場所で助かった。
呪いの制約がある以上、遠夜は彼女から離れられない。アルテの居場所を把握しておかなければまともに勝負も出来やしない。
以前アシュリーに呪いの解呪を試してもらった際、解呪こそ失敗に終わったが呪いの制約は確かに弱まった。
その距離824メートル。この距離を超えると呪いが発動しアルテの首が絞まる。既に実験済だ。
だが最近分かってきたことがある。呪い発動の際、その起こりは遠夜にも伝わるのだ。初めは慣れない感覚で気付かなかったが、呪い発動の直前に直感的にそれを予期することが出来る。
この感覚が呪い発動の前兆だと明確に気付いたのはごく最近だが、実際東ラブニの村でアルテが攫われそうになった際にはその予感を感じていた。
この前兆を頼りに、遠夜は移動範囲を絞って戦う必要がある。
「――っ!」
突如爆発するかのように後方の屋根が破壊され、ブレイグが飛び出すように屋根上に現れた。
「逃がさんぞ……!」
そう言ったブレイグの左腕は負傷したままだ。
奴にしては追いかけて来るのが少し遅かった。遠夜はてっきり腕の治療かギードの救出でもしてると思っていたが。
「遅かったな。てっきりスペアの鎧を取りに家に帰ったのかと思ったぜ」
「ふん、この程度の負傷は問題にならん。救出した子供達の保護を部下に指示していただけだ。貴様こそ今の一瞬に逃げなかったことを後悔するぞ」
――逃げられねーんだっつの。
だが。
屋根上から周囲を見渡す。
赤い民家の屋根が足場としてそこら中に乱立するこの地形。
――俺に有利だ。
足場の悪い屋根の上、踏み込みが重要な剣士にとっては嘸やりにくいだろう。それに純粋な身体能力はブレイグに分があるとは言え、〈アクセル〉による空中移動と瞬発力、すなわちスピードに関しては遠夜が勝る。
アルテの居場所は把握済み。この広い空間でなら距離を取りながら戦える。
そして中長距離戦においては――
「銃を持ってる俺の圧勝だ……!!」
〈アクセル〉を使用し屋根の上から上へと飛び回る。
すかさずブレイグが後を追う。
奴も距離を取られるとキツいと理解っている。思い通りにさせるつもりは無いのだろう。遠夜の速度に食らいついてくる。
屋根の上を跳ね回る度、赤褐色の瓦が弾け飛ぶ。
屋根から飛び降り、民家の壁を蹴りつけて跳躍し、吊されたロープを掴んで回転、窓を突破ってショートカットする。
しかしブレイグは遠夜の高速移動やパルクールにしっかりと張り付いてくる。
どう考えてもスピードは遠夜の方が早い。なのに振り切れない。
「くそ……!」
飛んだ先で身体を回転させながら銃を乱射する。
当たらなくてもいい。少しでも奴の動きを乱せればそれでいい。だがブレイグは構わず最短距離で遠夜に向かってくる。
「やっべ」
空中でブレイグの剣が遠夜の首に差し掛かった。
咄嗟に右手の銃で剣撃を受け止める。
歪な金属音が鳴り響き、火花と共に遠夜の身体が弾き飛ばされ民家の屋根に着地した。
その衝撃でガラッと赤い瓦が落っこちる。
「何と……恐ろしく頑丈な杖だな」
遠夜より少し高い位置に着地したブレイグが驚いて見せた。
「新プロテウス製だからな。あんまり叩くとあんたの自慢の剣がお釈迦になるぜ」
「鉄をも斬る俺の剣を止めるとは。貴様には驚かされてばかりだ」
「それはこっちのセリフだ。あんたジャングルで育ったのか?俺のスピードに着いてくるなんて……いや、と言うより俺の動きを先読みしてるみたいな……」
「俺の天啓のひとつだ。俺は貴様の動きを一瞬だけ早く感知出来る」
「なっ」
そういうことか、と遠夜は思う。
ブレイグは遠夜の移動先を読んで最短ルートで追いかけて来ていたのだ。先程遠夜の銃撃を剣で弾いたのもそれだ。
――納得がいったぜ……しっかし。
「そんなのありかよ」
「ふん、グランドナイトともなればこの程度の天啓の一つや二つ、持っていて何ら不思議は無いだろう。貴様こそ、どれ程の天啓を持っているのか計り知れんな」
「んなもん持ってねーっての」
「なに?」
「だからずりーって言ってんだよ」
「隠すつもりか。だがそんなもの知らずとも、我が剣で押し切って見せよう」
ブレイグが腰を落として構えた。
その直後、遠夜の背後から物凄い勢いで何かが近付いてくるのを悪寒と共に感じ取った。
即座に振り返り、それを銃身で受け止める。
剣と銃が迫り合い、火花が散る。
狂気じみた笑顔で背後から斬り掛かって来たのは血塗れのギードだった。
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