この花婿は誰のもの?

OH.KAIKON

貴き逃亡劇

第1話 包囲網

 ある旅館の一室にて、書き置きと札束を置いて、人知れず窓から去ろうとする男が一人。


 書き置きには「大変な不躾を承知で、お暇させて頂きます。ありがとうございました」と少々書き殴り気味の字が刻まれていた。


 03:00。


 まだ日が昇らない早朝か深夜かの隙間を縫って脱兎する彼は最寄り駅に走り、そして絶望した。


 パトカーが数台止まっている。


(早いな)


 逃げようとして踵を返すと、元来た道に黒バンが二台、まるで逃げ場を塞ぐかのように横向きに止まっていた。


 バリバリ違法な濃さのスモークフィルムが貼られており、確実に堅気の車では無い。


 そう必死に考えを走らせてる最中、駅側から大量の足音が聞こえ、それと同時に黒バンのスライドドアが勢いよく開いて黒スーツ軍団が飛び出した。


 見渡すと、私は一瞬で警察とヤクザに挟まれてしまった。


楼院松雪ろうのいん まつゆき侯爵閣下・・・・ですね?」

 スキンヘッドのヤクザが黒い不織布マスクを外して口を開く。


「車ァ乗ってもらいます。ちなみに断っても腕ずくで攫いますし、場合によっては痛めつけてでも拉致りますんで、悪しからず」


「侯爵閣下! ヤクザなんかに関わってしまわれたら骨までしゃぶり尽くされますぞ!」


 年配の刑事が口を開くと、スキンヘッドヤクザは年配の刑事に詰め寄って睨みつけ、顎髭をいじる。


「ご挨拶なこって……そういうお宅らは何の目的で侯爵閣下を逮捕パクるっての? 法的根拠は? 令状は?」


「コラヤクザ。何でテメェらが知る必要があるんだ? あ? 公妨で臭い飯食いたくねぇならとっととねよ」


「閣下は柳会ウチの大ィ〜事な役員候補・・・・なんでェ……護送しないと俺らが殺されちまう。俺らが可哀想だと思いません?」


「おぉその調子でバンバン死んだらええやないか。ヤクザがヤクザ殺したって市民と警察俺らは万々歳やけな」


 ピリピリした空気で、自分への気が逸れた瞬間を逃さず、民家の塀を勢い良く登って庭に転がり込む。

「あっ! マジか!」


「ボケっとすんな追え!」


 が、警察ヤクザ双方が庭に雪崩混んだ時には既に誰もいなかった。


「クソっ。パルクールかよ!」


「至急至急。勝宰32より本部宛て。被疑者マル被に職質行うも暴力団マルBの妨害ありまして民家の庭を伝い東進逃走。至急マル援願います」


 パトカー十数台、スモーク張りのバン数台、警暴両方のヘリが一機ずつ、忙しなく動き始める。


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