第14話 国の再建と魔族対策

「そろそろ良いかね、諸君」


 アルベルト将軍の言葉に、ハッとするセツナたち。

 将軍と一番付き合いがあるクロエが五人を代表して謝る。


「すみません」


 クロエが謝罪の言葉を紡ぐと同時に頭を下げる。他の四人もクロエと同じように頭を下げ謝罪の意を示した。

 それを受けてアルベルト将軍は破顔する。


「いや、一向に構わんよ。久しぶりに会った仲だ。積もる話はあろう。本来であればゆっくりとおもてなしをしたかったのだがな……状況が状況ゆえ本題に入る前に、そこの青年に自己紹介をしようか。

 私がアロンダイト帝国で将軍の職に就いている、アルベルトというものだ」

「初めまして。セツナ=カミシロという者です。よろしくお願いします」」


 アルベルト将軍とセツナが挨拶を交わすのを見て、クロエはアルベルト将軍が初めて会った時より人が丸くなったように感じた。事件で人間として大きくなったのだろうと推察する。


「うむ、お主も良い目をしておる若者だな。こちらこそよろしく頼む。それでは本題に入ろうか。クロエ殿とシグルド殿に来て貰ったのは理由は聞いておろうと思うが、デビルの襲撃、それを率いていたのが【バーシア】だったということなのだ」

「それは本当にバーシアだったの?」

「ああ、面識のあった騎士たちは皆そう言っておった」

「……少なくともはって事か」


 アルベルト将軍とクロエが情報交換をして状況整理に務めていた。


「……見た目がそっくりと云うことは何者かが化けていたとしても乙型以上の持ち主ってことになるのか」


 セツナも一緒に聞いていて、ここにくる前にアメスさんから訊いていた魔族に関する知識を思い出す。

 魔族というのは姿形を自在に変えることができると言う。また、階級と云うものも存在し、大きく分けて三つの型に分類されるとの事。


 まず、最初に魔族の中で最高位に当たる甲型の高位魔族。

 魔族の頂点に君臨する『蒼き巨人の魔王 セルシウス』は勿論のこと、その配下たる六人の腹心などや直属の配下たる役職付きの魔族がこれに該当する。

 人間が出会うことは皆無と言っていい。一部の例外を除いて、人の身で正面切って戦うと云うことは『死』と同義語と言っても過言ではない。


 次に乙型魔族。

 これは魔族の中でそれなりの力を持っている。ちなみに乙型から上の魔族は人の形をとる物が殆ど。ただし、乙型はある程度のダメージを受けたら人の姿を簡単に止めるものが殆どらしい。

 この型でも人間が戦うのは自殺に近い。ほとんどの人間が相手にならない。


 最後に丙型魔族。世間一般で『魔族』といえばこの型を指し示す。

 姿などはグロテクスなタイプが多い。間違っても人間と見分けがつくので判断が容易である。超一流と言われる魔導士や威力の高い魔法武器を持った熟練の剣士は楽勝とはいかないまでも勝てる可能性は何とかあるとの事。


 そうセツナは思い出すと同時に、改めてクロエたちの実力が高いことを再認識した次第であった。


「ああ、クロエ、そのことなんだが……」

「なに、ルシード?」

くだんの魔族、一体どう云うやつなんだ? たとえ見た目が別でも本人の情報を知っておきたい」

「まあ、平たく言えばジュラクの同類。魔族の階級的に言えば、、と云うことよ」

「「な!?」」


 クロエの一言により絶叫するシェリルとルシード。

 それを見て、クロエは思案する。


(確かに、件の魔族が本人ならば二人だけでは絶対に勝てない。姉ちゃんの修行をこなして力を上げた私たちでさえ危険なことに変わりはない)


「クロエさん達、よく生き残れましたね。でも……」

「聞いた話ではそのバーシアはクロエ達が倒したそうじゃないか。そうなると今襲っている魔族は――」

「――間違いなくバーシアの姿を借りた魔族、と云うことになるかしら」


 ルシードの言葉を受け、クロエは断言する。

 クロエの言葉は信用しているが、セツナはどうしても聞いておきたいことがあった。万が一の為に。


「そのバーシアという魔族が滅びたのは確かなのかい? クロエちゃん」

「それは間違い無いと思うわ。確かにあの時バーシアがスピリチュアル・サイドから消滅するのを感じたから」

「そうか、ありがとうクロエちゃん。……うん?」


 セツナは不意に言葉を途切らせる。

 どうかしたかと思って視線の先を見ると、そこには目を丸くして驚いてるシェリルとルシードの二人がいた。


「どうしたんだ、二人とも? 二人とも愉快な顔をして」

「……ああ、いや、もの凄く珍しい言葉を聞いたものでな」

「クロエさんを『ちゃん』付で呼ぶ人がいるとは思わなくって。しかも、クロエさんは黙認しているし」


 笑いを堪えきれない、と言った形で腹を抱えているシェリルとルシードの仕草にクロエが怒ろうとした時、


「オッホン! ワシの話を続けて良いだろうか?」


 わざとらしい咳で四人を諌めるアルベルト将軍。

 またもや話が脱線しかけていたことに一同は反省の色を示す。


「ここの処、魔族による被害が甚大でな。『何か防ぐ手はないか』と考えておったのだ。そこで議会で話し合った結果、フォスター聖国の様に都市を魔法陣の形にする計画を立案と可決がなされた。……とは言ってもワシが半ば強引に押し通したのが、本当のところだがな」

「ちょ、ちょっと待って!? それってかなりの金額がかかるんじゃ……」


 クロエはアルベルト将軍の話にとても驚いていた。

 何故なら、ただ単に都市の整備をするだけでも洒落にならない金額が動くのに、今さら一から造ろうとすれば、それこそ天文学的なお金が掛かるからだ。


「ああ、全部わかっておる。冗談ではなく国は傾くだろう。完成した暁にはワシはまた無職になるだろう」

「では、なぜ?」

「こんなことを言うと偽善に聞こえるかもしれんが、この国に住んでいるもの達の為だ。国とはそこに住んでくれている民がおってこそ成り立つもの。その為、国が一時的に傾こうが、民の安全を守らねばならぬのだ為政者は!」


 そこまでの信念と覚悟をアルベルト将軍から感じてクロエ達は言葉が無かった。


「フォスター聖国のように六芒星の形に?」

「いや、の形に造りかえる」


 その言葉を聞き、クロエは本当の本気で魔族対策に取り組むことを痛感する。

 六芒星は世界の均衡を表し、その都市の中では白魔法以外の魔法は軒並み威力が落ちる。その効力は魔族といえども例外ではない。

 それが五芒星になると更に魔族対策になる。五芒星とは破邪を意味し、下手な三流魔導士なら魔法の行使ですら危うくなる。それほどの強力な区画だ。


 アルベルト将軍の決意に執務室に静寂が支配する。

 だが、それを破るかのように、事態が動き始めた。

 いきなり執務室の扉が蹴破られるかのように大きな音を立てて開かれる!!


「アルベルト将軍、大変です!」

「どうした!?」

「街の外にデビルの群れを確認いたしました! それに監視兵の報告によると、バーシアの姿があったと言うことです!! 今警戒している兵たちでなんとか抑えていますが、破られるのも時間の問題です!!」


 血相を変えた兵士の伝令に執務室が緊張の空気に変わる!


「来て貰って早々で申し訳ないが、クロエ殿、頼む!」

「分かりました! 兵士の皆さんには下がる様に指示を。側にいると大きな呪文が使えませんから!!」


 相手はルシードとシェリルのペアを退けるほどの高位魔族。

 味方の兵士に遠慮して魔法を躊躇したら負けるのはこっちだから。


「シグルド! 行くわよ!」

「おう!!」


 そう言って飛び出そうとする二人に、セツナを含めた三人も言葉を言葉を投げかける。


「自分も手伝う! いないよりはマシだろうからね」

「ありがとう、恩に切るわ!」

「いいって、クロエちゃん。自分はその為に来たのだから」

「俺たちもいくぞ、シェリル。やられたままだと言うのはどうにも腹の虫が収まらん!」

「えぇ、ルシードさんの言う通りです! 正義は必ず勝つんです!!」


 五者五様の掛け合いの元、五人は戦場へと向かっていった。

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