幕間その四
女王は晩餐会の会場を見渡す。しかし、お目当ての探している人物が見つからず、一旦意識をセツナの方に向ける。そのことに気づいたセツナは女王に問いかける。
「どんな人なんですか?」
「私の娘です。名はヴァネッサと言いまして、今年で十六歳になったばかりです」
王女の話を聞いて、セツナはかなり驚いた。
何故なら、女王のことをその外見から二十代中頃から後半と判断していたからだ。
アメスさんの
判断に迷うところだった
「つかぬ事をお聞きしますが、フェイトさんとはお知り合いですか?」
「幼少からのお付き合いですけれど、それが何か?」
セツナの気のせいか、とても腑に落ちた。
それともこのセカイにはセツナの元いた世界より美容技術が盛んなのか、と思うくらいだ。魔法という便利なモノがあり一般人でも使える魔道具まで存在しているくらいだ。若作りの妙薬があっても信じてしまうくらいだ。
「アメスちゃんと一緒にいるはずですが……」
「アメスさんならあっちの方にいますよ」
セツナはそう言うと、人混みの中を指差す。
その方向からアメスの気配を感じていた。
「そうですか、ありがとうございますカミシロ殿。では少しばかり一緒についてきて貰えませんか? いま機会を逃すといつ会わせることができるか分かりませんから」
「はぁ……、別に無理してまで会わなくてもいいですよ?」
確かに王族という身分上、会う機会は確かにないかもしれませんが、逆を言えば会う必要がないとも言えなくない。ましてや昨日のお礼という形で晩餐会に呼ばれているのだ。挨拶はともかく、会う必要性を感じられない。
「いいえ。カミシロ殿には是非会ってもらいたいのです!」
女王はキッパリと断言してくる。そのことに怪しさを感じたセツナは謎の焦燥感に駆られる。
「なかなか面白い殿方と会えたのです。手放すのは惜しい……」
(……!? いま、ボソッと恐ろしいこと言ってなかったか!)
女王の独り言なので詳細な部分は聞えなかったが、いわゆる本能からの警鐘だと直感的に悟る。この先は危ない、と。だからこそ真意を問いたい、と思うセツナは言葉を発しようとするが、女王に先手を取られる。
「見つけました! アメスさんと一緒にいるようです!! ……おや? どうやら厄介な相手と話している見たいですね」
セツナはその厄介な相手に少しばかり興味を覚えた。この女王が発した初めて聞く否定的な言葉だったからだ。ゆえにヴァネッサ皇女とアメスさんのいる方向に意識を傾けた。
♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎
そこにはアメスさんと一緒に、一人の少女と男性がいた。
少女の方は母親である女王とよく似た顔立ちをしていて、いわゆる『美少女』という分類にカテゴライズされても申し分な容姿だった。違いといえば、髪の色と瞳の色くらいだ。皇女の髪色は銀髪で瞳の色もライトグリーンといった感じの色合いを有していた。女王と並べば、少し歳の離れた姉妹で通るかもしれない。
片や男性の方は、二十代後半。ともすれば三十路に入っているだろう。容姿も世間一般で言うところの『そこそこ美形』と言ったところ。
しかし、セツナの印象は違っていて一言で例えるなら『結婚詐欺師』と言うのがしっくりくる。何やら熱い手振りや口ぶりで皇女と話してはいるものの、その目は獲物を狙う獣のような感じがする。少し耳を傾けると会話の詳細が耳に入ってくる。
「ヴァネッサ皇女、今宵こそ良いお返事を頂けるものと確信しています」
「だから何度も言っているではありませんか! お断りしますと!!」
皇女ははっきりキッパリと返答していた。もうそれは清々しいくらいに。
「またまた、そんなに照れずとも。そこもまた魅力的です」
「照れてなどいません!」
「私の興味を引こうと本心とは真逆のことを言っているのでしょう? 何とも奥ゆかしい方だ。貴女こそ我が妻に相応しい!」
「
「明日にでも盛大に婚約発表でも致しましょう。なんなら今ここででも。この場にいる王族の方や貴族の方々が証人になってくれるでしょう!」
「人の話を聞きなさい!!」
♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎
皇女と男性の会話は全くと言って良いほど話が噛み合っていない。いや噛み合わないように男性がしているのか。どう考えてもわざとしか考えられない。そう言う意味では男の頭の回転率はなかなかとも言える。
皇女の隣にいるアメスさんもうんざりとした表情でつかず離れずの距離で立っていた。ずっとあんな話を聞いていたら精神的に参ってしまうのも仕方のないことだろう、とセツナは感じ取っていた。
(しかし、一体誰だ? 女王が厄介だと言うからにはそれなりの権力の持ち主なのは自分でもわかる。アメスさんが間に入れないのも分かる)
そんなセツナの思考が伝わったのか、
「いま皇女と話しているのはジャッカルと言ってね、隣国の王家の第三王位継承者よ。まあ早い話、ただの三男坊って訳。ここ最近になって果敢にヴァネッサ皇女にアタックしているの」
隣に来たフローネちゃんがセツナにだけ聞こえるように、小さな声で皇女に話しかけている男性の素性を教えてくれた。
「アタックしてるって……かなり一方的に見えるんだけど?」
「まあね、根本的に皇女は嫌いみたいよ。その上、アイツの本心を知っているからね、尚のこと」
隣国の第三王子とこの国の一人娘。
ここから導き出せることは容易にできた。
「セツナの思う通りよ。本人はバレてないつもりかも知れないけれど、アイツはかなり権力に固執しているのよ。だから権力から一番遠い三男坊は今の地位に不満な訳なのよ。一応、隣国の王家
確かにお互いの立場上、揉め事を起こすのは拙いわけだ。
下手しなくても国家間同士の諍いの火種になる。最悪の場合、戦争もありえる、という訳か。これでアメスさんが動けないことに納得するセツナだった。
(兎にも角にも、部外者の自分が口を挟める問題じゃないな……ん?!)
何やら不気味な視線をセツナは感じたので、その出どころを探すと、女王にぶち当たる。そして、目線が合うと、ニヤリ、とまるで計画が進んでいることを喜ぶ女王の不適な笑みを垣間見る。
その瞬間、セツナの背中にこのセカイにきて、一番の危機感を本能的に捉えた。そして、理性はこの場からの速やかな撤退をセツナに命じる。
それに従って緊急離脱をしようとした、その瞬間!
「どこに行こうとしているのですか? カミシロ殿」
女王に襟首を掴まれて撤退できない状態に陥ってしまった。
戦闘力ではセツナと女王の間には隔絶した差があるのに関わらず、なぜか逆らえなかった。
「少々、カミシロ殿のお名前をお借りしますがよろしいですか?」
「……一体どんなことに使うのですか?」
「娘に言い寄ってくる悪い虫を追い払おうと思いまして」
果たして、この質問と提案に反論する拒否権が己にあるのだろうか……いや、ない。それゆえに、答える言葉は一つしか残されていなく、
「……どうぞ、ご自由に……」
「ありがとうございます、ご協力に感謝します」
女王はそういうと、娘の元へと近づいていく。だが、セツナにとっては墓場まで一歩ずつ近づいている気分であった。
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