あら、なにかしら。

昼星石夢

第1話あら、なにかしら。

 けほっ、けほっ。あーーほこりだらけ。

 夏場にゴキブリが出たし、今のうちに少しは掃除しておかなくちゃと思ったけど、なあにこれ。こんなにゴミだらけ、なにが入っているの、この押入れ。

 えっと、壊れかけのアイロンに、古い炊飯器に、二十年前の私のコート……は、いいとして、これ息子のランドセル? いらないでしょ、社会人にもなって。

 ん? ああ、寄せ書きみたいにお友達のメッセージが書いてあるのね。いらないと思うけどねえ。

 こっちは? ちょっと、こんなにいらないでしょ、ゴルフボール。お父さんのね、もう。使わないクラブは大型ごみ。こっちの箱は? 本? ん? ああ、お父さん、大学の時、演劇サークル入ってたんだっけ。その時の台本ね。こんなの大事にしまってどうするのかしら。

 あら、これは? まあ、高校の学生証。卒業証書も。あらあ、髪がふさふさ。お父さんも若い時はそれなりだったのにねえ。あ、アルバムじゃない、どれどれ?

 ――って、あら、なにかしら。手紙? 

『香川優子様

 ずっと好きでした。

 君には他に好きな人がいることは知っています。だから卒業まで言わなかったけど、最後だから言います。

 好きです!

 君の未来に幸あれ!!

 中山信五』

 え。なに。中山信五ってお父さんよね? お父さんが書いたってことよね? どうしてお父さんが書いた手紙がこんなところで黄ばんでいるのかしら……送り先の、香川さん? の手元になくて。なんでアルバムにはさまっているのかしら。

 ――いや、それより、せっかくアルバムがあるんだから。ええっと、香川、香川。香川優子は、っと。あ、いた。ああよかった。隣の子、とっても可愛いのね、この子だったらどうしようと思ったわ。まあ、この子と比べると……うん。ぱっとしないわね。そうね、年相応の可愛らしさ、って感じかしら。

 ――って、別にどうでもいいじゃないの。私ったら、なにをムキになっているの。

 そうだ、お父さんに知らせてあげよう。スマホ、スマホっと、ええっと、ラインを開いて、写真を撮って、紙飛行機のマークを押してっと。

『押し入れの片付けをしていたら、こんなものが出てきました』

 うーーん、絵文字は……ちょうどいい顔がないわね。あ、これがいいわ、黒目が上を向いてあきれているような顔だし。

 さて、片付けの続きをしましょうかね。

 でもこんな感じの子が好きだったなんてね。もっとりんとして、しゃきっとした私みたいな子とか、この隣のフランス人形みたいな子とかじゃないの?

 どうしてこんな、のぺっとした、ぼんやりさんな感じの子なのかしら。

 幼馴染おさななじみとか? 

 個人写真以外にあるかしら。こういう子は、あんまり写ってないでしょうね……。

 あら、あった。まあ、なにこれ。修学旅行? ちゃっかりお父さんの下にかがんじゃって。なに、そのちょっと困った顔。

 他には……流石にないかし……あった。あら、この子、お父さんのレスリング部のマネージャーだったのね。まあ、今度は隣に。ちょっと、腕触れてない? 他の部活の人達の写真を見なさいよ、そんなに選手と近くないでしょ。いやあねえ。

 ――あら、ラインの音? お父さんじゃない。まあ、珍しい。いっつも見ないくせに、こういうどうでもいいラインには返事をするのね。

『懐かしいな。

 渡しそびれたまま、どこかへいったと思っていたが。

 どうせ今更言っても無駄だと思うけど、そんなものを読むなよ。』

 だって。渡しそびれたですって、なあに言ってるのかしら、笑っちゃうわ。わかってるわよ、渡せなかったくせに。お父さんにそんな度胸どきょうはありませんものね。

 ……私の時も、関係をいい加減はっきりさせたくて、結局私から切り出したんですから。

 って、どうせ今更言っても無駄って、人をデリカシーがない、みたいに言って。失礼しちゃうわ。

 あぁあ、くだらない。ゴミ箱に丸めて捨ててやりましょうか。

 ……ま、いいわ。お父さんのなさけない歴史として、元の場所に挟んでおきましょう。

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