第19話 お姉ちゃん
「それで? ピーチの任務って何なんだ? 聞いても良いなら知っておきたい」
食事が終わりティータイムへと移行した後、そんな質問を投げ掛けてみる。
知れるなら知っておいた方がオレとしても動きやすく、サポート出来る可能性も増えると思ったからだ。
「任務内容そのものは単純なんだけど、方法が難しいんだよね」
「と言うと?」
「この国の調査。短期間でここまで発展した理由の解明。それが女王様からアタシに与えられた任務だよ」
「……そんな事だろうと思った」
急成長した例外的な国。女王様が気にしないわけがない。
ありとあらゆる国の技術を獲得し、影の中で最大の勢力を有している組織。組織の在り方からしてもこの国、中でも魔装具に対する興味は計り知れないはずだ。
……でも、一つだけ考えている事があった。
「なあピーチ。魔装具は本当にこの国の技術か?」
「それってどういう事?」
「組織が使う道具と類似点がある。もしかして——」
「それは違うよ。タルトが考えた道具とは全くの別物だよ。魔装具は羽森家が作り出したオリジナルの新武装。そこまでの調査は終わってるんだけど、肝心な製造方法はまるでわかってないんだよね」
返ってきたのは強い否定の言葉だった。
おそらくピーチもオレと同じような事を考えたんだろうか。
女王様の部下が技術を持ち出し、新国の発展に関与しているって。
ピーチは中位の中でも忠誠心が高い。だからこそ裏切り者に対して強い憎悪を発揮する性質がある。
女王様に救われ、女王様のために生きる事を強いられる。その運命を受け入れた者に対しては祝福という絶大な恩恵を与えてくれる。
強いられるとはいえ、十分過ぎる自由は与えられる。位を拒否すれば普通に生きる事だって出来るんだ。
だからこそピーチは許さない。
選択肢を与えられたというのに、適当な感情で選択し、その後に裏切る半端者を。
短期間で急成長した国。十中八九女王様が、いや、その部下がその可能性を危惧したんだろうな。そしてピーチに任務を通達した。
裏切りに反応するのはピーチたち女王様の酔狂者たちだ。主たる女王様はそんな事を考えない。何故ならあの人は、例外的な存在だから。
世が世なら神とされる存在だ。そんな小さな事なんて気にしない。
ピーチが違うという結論を出したのならば、高確率でそうなんだろう。……でも。
「ゼロからこいつを作ったって言うのか?」
オレの中指に嵌められた指輪、魔装具を見せながら問う。
「そうだよ。正直アタシも信じられなかったけど、この国に組織の影はなかった。だから魔装具は本当にこの国の人たちが作り上げたオリジナル。……もしかすると、何処かで見た事があって、それを独自のシステムで再現してるって可能性はあるかな。仮にそうだとしても完成度が凄いのは事実だよ」
「……マジか」
頭のネジが外れているというか、常識を捨ててるというか、世界中の知識と技術を集めては独自に進化させ続けている組織の研究所で作られた道具。その模倣品だと? こんな小さくて出来たばかりの国に出来るはずがない。仮に可能なのだとすれば、一体どれほどの頭脳が揃っているんだ。
「タルト。世の中には例外的な能力を持っている人がいる。それは知ってるよね?」
「ああ、嫌ってくらいな」
主に組織の上位とかな。敵対しようとは思えない文字通りの別格だ。
「その全てが女王様に忠誠を誓っているわけじゃないよ。女王様が知らない場所で、女王様が干渉する事なく、独自に才能を目覚めさせた人だって大勢いるの」
「一人や二人でここまで発展するのか?」
「どうだろうね。才能の種類によってはもしかするかもしれないでしょう?」
「才能次第……確かにそうか」
模倣する才能。発明する才能。そこらへんの例外性を獲得すれば不可能ではないのか。
「女王様は勧誘するつもりなのか?
「多分それはないと思うよ? 発明者が女性だとわかっているわけじゃないし、基本的に女王様 は迷子を導く人だから。既に自分の道を見つけた人に干渉する事は滅多にないから」
「技術だけは回収するつもりだろ?」
「あはは……」
気まずそうに乾いた笑みをこぼすピーチ。
発明者に興味はないけど、その技術は貰うぞって事か。
魔装具の原理を解明し、研究所に持ち込まれたらその先はどんな進化をするんだろう。
「この国の発展は魔装具と共にある。だから魔装具について調べるのが最適かな。そ、それでね? タルトにお願いがあるんだけど……」
両手を合わせてあざとくお願いをしようとするピーチ。こいつが最後まで言い切るより先にオレは口を開いた。
「羽森と仲良くしろだろ?」
「えっ、なんでわかったの!?」
立ち上がるほどに驚いているピーチ。
「さっき言ってただろ。魔装具は羽森家が作り出したってさ」
「あっ」
こいつ、忘れてたな?
「その、アタシと羽森さんとの状況は知ってるよね?」
「ああ、だからこそ喧嘩売ったからな」
「やっぱりそうだったんだ。でもクソビッチは酷くない?」
「事実だろ。男に囲まれて楽しそうにしやがって痴女が」
「違うよぉ。色々あったんだよぉ」
力無くテーブルに突っ伏したピーチ。……珍しい。オレが思っていた以上に大変だったみたいだな。
「アタシだってこの状況は想定外だったんだよぉ。情報収集のために交友を広げようと努力していたら、気が付けば今みたいになってて、羽森さんに近付けなくなったのぉ。女の子たちからも避けられるし、それどころか睨まれるし、うわぁーんっ」
あーあ、泣いちゃった。
ピーチからすればこの一年は地獄みたいだったろうな。なんせこいつは女の子を愛でるのが好きなお姉さん性質だ。
男たちにちやほらされるよりも、女の子たちと仲良く喋ったり遊んだりお世話したいって奴だからな。
オレも長らくお世話になった経験がある。だからこそ食堂で見かけた時には苛立ったんだけどな。この一年で変わったのかと思えば、そんな事はなかったらしい。
「お疲れ」
「た、タルト?」
我ながららしくない事をしている自覚はある。だけど昔は世話になった先輩が疲れているんだ。頭を撫でるくらいしてやろう。
「えへへぇ、ありがとぉ」
「だらしない顔しやがって」
「だって嬉しくてぇ」
まったく。手の掛かる……お姉ちゃんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます