第27話 怪盗レザー・エプロンの亡霊


松田が住む高級マンションの前に着いた。


 家賃だけで何十万するんだろうな。いいものいっぱい食べて、自分の欲しいものを自由に買って、女遊びしているんだろうな。まぁ、羨ましくはない。


女遊びしている奴にろくなやつなんていないからな。


 ズボンのポケットからスマホを取り出して、ホーム画面を見る。


 ホーム画面に0時33分と表示されている。

 日をまたいでしまったな。今日で事件を解決しないと。


 キャップを深く被り、ウーバーイーツの箱を背負って、高級マンションに入って行く。防犯カメラの位置とかは把握済み。


 まぁ、防犯カメラに映る顔は梶野の顔なんだけど。

 俺は共有玄関にあるテンキーに暗証番号を入力する。


 共有玄関のドアが開いた。

 俺は共有玄関のドアを開けて、エレベーターへ向かう。


 暗証番号って何であんなに簡単に手に入れる事ができるんだろう。企業秘密だから何も言わないけど。教える気もないし。


 エレベーターの乗場ボタンを押す。すると、エレベーターのドアが開いた。


 エレベーターに乗り、かご操作盤の行き先ボタンの「30」を押す。


 エレベーターのドアが自動で閉じて、上昇をしていく。


 このまま誰も乗ってこない事を祈る。乗ってきたら色々と面倒だ。この顔だし。

 エレベータが30階で止まり、ドアが自動で開く。


 ラッキー。誰も乗ってこなくて。

 エレベーターから降りて、松田が住む「3023」の部屋に向かう。


 この情報の仕入れ先も企業秘密ってやつだ。怪盗はつくづく秘密が多い仕事だ。仕事と言って、いいかは分からないが。


 ドアに「3023」と刻まれた部屋の前に着いた。


 ここが松田の部屋か。ドアのポストの位置を確認っと。えーっと、普通に中央ちょい下ぐらいだな。それにしても、角部屋とはいい身分だな。まぁ、そのおかげで、逃走しやすいんだけどな。


 俺はインターホンを鳴らした。


「誰だ。今何時だと思ってる」

 インターホンから松田の声が聞こえる。まだ、俺の顔、梶野の顔に気づいていないようだ。


「えーっと、ウーバーイーツでーす」

 ふざけた声で返答する。もちろん、声は梶野のものにしている。


「ふざけているのか。俺は頼んだ覚えないぞ。帰れ」

 おーっと、松田さんは激おこぷんぷんまるのようだ。この表現だいぶ古いな。気をつけないと。


流行に置いていかれる。いや、流行なんて気にした事なんかなかったな。どうでもいいや。


「帰れないですよ。この顔を覚えだしてくれるまでは」

 俺は深く被っていたキャップを外した。


「な、なぁんで貴様が生きているんだ」

 松田の驚いた声が聞こえる。そりゃそうだろ。死んだはずの人間が目の前に現れたら、誰だって驚く。


「死の淵から復讐に舞い戻ってきました」

 背負っているウーバーイーツのリュックを床に置いて、ファスナーを開ける。


「う、噓だ。そこで待ってろ」

「いやー、時間がないんでポストカードを置いていきますね」


 俺はウーバーイーツの箱の中から、黒いポストカードを取り出して、ポストに入れた。


 黒いポストカードには「東京港の「302」の倉庫に本日午前4時、もう一人のお仲間とご一緒に来てください。来られない場合は、貴方達が俺の名前を使って、殺した者達のリストと貴方達が犯人である証拠動画のオリジナルデータを警察にお渡しします。怪盗レザー・エプロン」と書いてある。


 部屋の中からこちらに近づく足音が聞こえる。

 地上に誰も居ない事を確認して、ウーバーイーツのリュックを投げ捨てる。


 ドアの施錠を開ける音が聞こえる。

 もうそこまで来てるんだな。


 俺は手すり壁の上に乗り、ドアが開くのを待つ。

 ドアが開き、松田が出てきた。


「貴様、なぜ生きてる?」

 鬼の形相をした松田が訊ねて来た。


「いやー、殺し損なったんじゃないですか。アンタももう一人のお仲間もお馬鹿だから」

 煽るだけ煽った方がいい。平常心を消させる為にも。より、本能だけで動くようにする為に。


「貴様、ここで撃ち殺してやる」

 松田は拳銃の銃口を向けてきた。


 殺す気満々じゃないですか。それに銃刀法違反ですよ。この人殺し野郎。


「大丈夫ですかー。こんな所で銃を使っても」

「お前が殺せるなら、どうだっていい」


「あー止めた方がいいっすよ。俺を殺した瞬間、あんたらがやった殺人のデータは警察やマスコミに流れるようにしているんで」


「……なんだと」

 松田は拳銃を降ろした。


 賢い判断だ。一応、大企業の専務になるだけあるな。


「まぁ、アンタと1人だけ話しても意味ないからもう一人連れて来いよ」

「どこに行けばいいんだ?」


「そんな事言わないと駄目なの。お馬鹿ちゃんね」

 俺は煽り続ける。煽れば煽るだけ相手は怒り、ちゃんとした判断が出来なくなる。感情が考える力を超えるまで。


「訂正しろ」

 松田は拳銃の銃口をまた向けてきた。


「お、怖いでちゅね」

「撃つぞ」 

「はいはい、ごめんなさい。失礼しました。場所はポストの中に入れた黒いポストカードでご確認お願いしまーす」

「今、言え」


「嫌ですね。この人殺しでしか出世できないろくでなし馬鹿野郎。さいなら」と言って、俺は背中から飛び降りた。


 身体がどんどん地上へ向かっていく。

 松田が手すり壁から身を乗り出して、俺を見ている。

 俺は体勢を変えて、装着していたパラシュートを開く。


 パラシュートのおかげで落下速度が落ち、地面に無事着陸した。

 松田が降りてくる可能性があるから、パラシュートを急いで外して、投げ捨てたウーバーイーツのリュックに入れる。その後、そのウーバーイーツのリュックを背負い、逃走する。


 あー練習せずに成功してよかった。まぁ、失敗する気は全くしなかったんだけど。これで、松田は頭に血が上っているだろう。古本を連れて、倉庫に来てくれ。

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