第24話 警察のマーク


万美の服を買い終えて、優奈の家に行き、服とお金を渡した。それから、守谷探偵事務所に向かっていた。


 すっかり、夕暮れ空だ。


 古本は一体裏で何をしているんだ。あんな大金が手に入る仕事なんて、そうはないぞ。危ない事に手を出している。


そうとしか考えられない。じゃあ、そんな危ない事ってなんだ。反社会的な仕事とかか。もしかして……いや、そんなはず。


 走行している内に守谷探偵事務所が入っているビルの前に着いた。


 階段を上り、2階へ行き、守谷探偵事務所のドアを開けて、中に入る。


「帰って来たか」

 守谷は俺に気づき、ノートパソコンのキーボードを叩くのを止めた。


「一つ質問していいか?」

「なんだ? 言ってみろ」


「若手警察が短期間で超高級時計を2本も買えると思うか?」

「超高級時計はそれぞれいくらなんだ」


「600万と800万」

「不可能だな」

 守谷は即答した。


「だよな。ありえないよな」

「何かあったんだな」


「あぁ。深山さんと一緒にここに来た古本ってやつが居ただろ」

「あの無能そうなやつか」


 結構酷い事言うな。ちょっと思ってたけど。


「そうだ。その古本がその超高級時計を2本を買ったんだ。ここ数週間の間に」

「実家が金持ちならありえない話ではないと思うが」


「いや、それがな。大きな仕事をこなした記念に買ってるらしいんだよ」

「大きな仕事をこなした記念……」


 守谷が真剣に何かを考えているようだ。


「意味が分からないんだよ。本当に」

「確実に何か隠しているはずだ。探りを入れるべきだ。お前が追っている事件に関わっているかは分からんが」


「だよな。アンタがそう言ってくれて安心したよ。探りを入れてみる」

 守谷が同意見でよかった。これで何も心配せずに古本を疑う事が出来る。


 突然、固定電話が鳴った。


 俺は守谷に電話に出るか確かめずに自分で固定電話の受話器を手に取り、電話に出る。


「もしもし、こちら守谷探偵事務所の有瀬です」

「強行犯係の深山です。守谷さんに代わってください」


「はい。少々お待ちを」

 俺は受話器から耳を外して、心の中で5秒数えた。その後、また受話器を耳に当てる。


「電話代わりました。守谷です。事件ですか?」

 守谷の声を出すのはだいぶ慣れた。


「はい。先ほどYM社社長の道川康利さんが遺体で見つかりました」

「そうですか」


 う、噓だろ。あの社長が殺されるなんて。


「遺体が見つかった公園へご一緒に行っていただけませんか」

「分かりました。ご同行しましょう」


 事件現場に行けば何か分かるかもしれない。

 まだ、道川社長が亡くなった事を信じられない。あの人も良い人そうだったのに。


「ありがとうございます。それでは30分後の18時にそちらに着くようにしますね」


「はい。それでお願いします」

「では失礼致します」

 電話が切れた。


「深山さんか?」

「あぁ、そうだ。YM社の社長が殺された」


「それじゃ、YM社の現在のトップは専務の松田義正になるな」

「言われてみればそうなるな」


 社長と副社長が居なくなれば流動的にそうなる。


「上手く出来すぎじゃないか」

「たしかに。もし、これで事件が終われば得をするのは松田だ」


 普通に考えたらそうだ。それにこのまま事件が続けば、次に狙われるのは松田になってもおかしくない。


「事件で一番得をするのが犯人とよく言うからな。断定はできないが、犯人候補の1人だな」

「梶野だけの犯行って考えるのも難しくなってきたよな」


 梶野が快楽の為にしているなら、説明出来ない事がたくさんある。


「そうだな。快楽犯の犯行には思えないな」

「だよな。松田の事も色々と調べてみる。でも、その前に今から社長の遺体が見つかった公園に行くことになったから。服とか借りるぞ」


「どうぞ。ご自由に」

 衣裳部屋へ向かう。絶対に炙りだしてやる。犯人さん、犯人さん達よ。




 深山さんが運転するパトカーで道川さんの遺体が見つかった公園に向かっている。


 スマホで正体がばれたくないから、右腕に付けているデジタル腕時計で時間を確認する。


 デジタル腕時計は18時18分と表示している。


「今日、彼は居ないんですね」

 守谷を演じて、訊ねる。


「彼? あー古本の事ですね。はい。今日は非番なんですよ」

「そうなんですか」 


 探りを入れるチャンスが今日はないってことか。探りを入れるチャンスだと思っていたのに。くそ、ついてないな。


「はい。あいつは仕事を舐め腐っているからしごいてやらないといけないんですよ」

「まぁ、ほどほどに」


 ――5分程が経った。 


 パトカーは公園の前で停まった。


 公園の入り口には「立ち入り禁止」のテープでバリケードが作られており、公園の中を見せないようにブルーシートを暖簾のように設置している。その前には左右1人ずつ警察が立っている。


 野次馬は殆どいないようだ。


「着きました」

「ありがとうございます」


 俺と深山さんはパトカーから降りて、公園の入り口へ行く。

 深山さんは警察手帳を入り口に立っている警察二人に見せた。


「ちょっと見せてもらっていいですか? 深山さん」

 警察手帳のマークが気になった。どこかで最近見た覚えがあるような気がした。 


「何をです」

 深山さんは驚いているようだ。


「あ、警察手帳を」

 主語を言うのを忘れていた。


「構いませんが」

 深山さんから警察手帳を借りる。


 警察手帳のマークをよく見る。どこで見たんだ。思い出せ。思い出すんだ。 


「あの、このマークの意味と言うか成り立ちとかって知ってます」

 思い出すきっかけになればいい。


「えーっと、たしか昇る朝日と太陽光をかたどったマークだったと思いますが」

「昇る朝日と太陽光……そうか」


 千尋さんが残したリストに載っていたひまわりのマークだ。ひまわりはたしか英語でsunflower。もしかしたら、あのひまわりのマークは警察関係者が殺した人ってことか。


「どうかしましたか?」

「いえ、何でもないです」


 今はまだ仮定の話でしかない。まだ情報が足りない。


「そうですか」

「すみません。お返しします」

 俺は深山さんに警察手帳を返した。


「どうも」

「それじゃ、道川さんの遺体を見せていただいてもよろしいでしょうか」


「はい」

 俺と深山さんはブルーシートを持ち上げて、公園の中に入る。


 公園の中では鑑識や警察が色々と調べている。

 俺は深山さんに案内されて、遺体収納袋の方へ向かう。 


 あの袋の中に道川さんの遺体が入っているのか。

 嫌われるような人じゃなかったのにな。なんで、こんなに意図も簡単に人を殺せるのだろうか。殺人犯の気持ちは一生理解できないな。


 深山さんは屈んで、遺体収納袋のファスナーを開けた。遺体収納袋の中には額を拳銃の弾丸で貫かれた道川さんの遺体が入っていた。

 

なんとも惨い。遺体を見ると、心の中のどこかが欠けた気がする。その欠けた部分は一生埋まらないと思う。そんな気がする。


「ありがとうございます。もういいです」

 もう見てられない。


「了解です」

 深山さんは遺体収納袋のファスナーを閉めた。


「失礼ですが道川さんにお家族は?」

「妻と子供3人です」


「……そうですか」

 道川さんの家族は、路頭に迷うのだろうか。殺人犯は1人の人生を終わらせたら、どれだけの人の人生が変わるかを全く理解していないのだろう。


妻からすれば愛する夫が目の前から消え、子供達からすれば大切なたった一人の父親が居なくなる。


 これからの人生だって変わる。今まで考えていた人生設計が大幅に変わってしまう。精神面でも、ショックに耐え切れるか分からない。様々な問題が出てくるはず。


 人を殺すと言う事は、殺した相手の家族や友人の人生を破壊するって事だ。


「お顔の色が悪そうですが」

 深山さんは心配そうに聞いてきた。


「だ、大丈夫です」

 色々と考えすぎた。


「そうですか。ちょっと失礼」

 深山さんは俺から離れて、ズボンのポケットからスマホを取り出して、電話に出た。


「そ、それは本当か。わ、わかった。今すぐ行く」

 深山さんは慌しいような気がする。何か他の事件か。もしくは新たな被害者か。


 深山さんはスマホをズボンのポケットに入れて、戻って来た。 


「事件ですか?」

「事件と言えば事件です」


「どう言う意味ですか?」

「……梶野蓮の遺体が発見されました」


「え? もう一回言って下さい」

 聞き間違いか。今、梶野蓮の遺体が発見されたって言ったよな。


「道川さんを含めた一連の事件の容疑者と思われる梶野蓮が遺体で見つかりました」


「……梶野蓮の遺体」

 聞き間違いではなかった。梶野蓮の遺体が見つかった。


 このタイミングで遺体が見つかった。それは梶野が犯人ではない。用済みだと言う事だ。


 真犯人が居る。


「今から遺体が見つかった廃ビルへ向かいますが行かれますか」

「もちろん。行かせていただきます」

 真犯人に繋がるヒントがあってくれ。些細な事でもいいから。

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