第19話 臨時ニュース



 優奈に店の現状を伝えてから、ずっと金庫巡りをしていた。


 金庫に関しての収穫はゼロ。何も進展していない。時間だけが刻一刻と過ぎていく。朝の早くから動いていたのにもう夕暮れ空だ。


 守谷探偵事務所が入っているビルの前に着き、溜息を吐いた。


 あまりにも不甲斐ない。何も出来ていない自分が。


 早く解決しないと、犠牲者が増えていく一方だ。解決しなければ、俺は人殺しと変わらない。


 俺はビルに入り、階段を上り、二階に着いた。

 守谷探偵事務所のドアを開けて、中に入る。


 事務所の中では、守谷が椅子に腰掛けて、ノートパソコンで執筆しながらテレビを見ていた。


 テレビ内容はどうやらニュース番組らしい。

 守谷は帰って来た、俺に気づいたのだろう。こっちを向いてきた。


「どうだった? 収穫は」

「うーん。金庫に関しては収穫なしだな」


「金庫についてと言う事は他にはあるのか」

「おう。違う事件だと思うけど」


「なんだ。言ってみろ」

「俺の知り合いが働いているキャバクラの一位の子が失踪したんだ」


「失踪したキャバ嬢……」

 守谷の表情は真剣なものに変わった。


「そのキャバ嬢、彼氏にやばいものを見てしまったってメッセージを送ったんだ」

「……ヤバイもの?」


「人が死んでる写真を見て喜んでたり、人を殺す話を楽しそうに電話したりしているのを見たらしいんだ」

「……事件の可能性がかなり高いと思うぞ」

 守谷は俺を馬鹿にする事なく答えている。


「あぁ。俺もそう思う」

「犯人だと目星しい人間はいるのか」


「俺はそのキャバ嬢を指名していた金持ちが怪しいと思う。でも、知り合いのキャバ嬢に聞いてもどんな仕事しているかとか身元とか全く分からないらしくて」


「……そうか。こんな事は言いたくないが。その事件に関しては犯人はその金持ちだろう。そして、キャバ嬢はもう……」


「……だよな。でも、まだ生きている可能性を信じるよ。その方がいいと思うんだ」


 俺もそうだと心のどこかで感じていた。けど、まだ死体が見つかっていない。


だから、まだ可能性はある。そう思わないと、心を保てない自分が居る。


「それでいいと思う。死体が見つかっていないから生きている可能性もあるからな」

「……あぁ」


 なんだろう。初めて、こいつに慰められた気がする。いい奴なのか。いや、そうではないと思いたい。


「臨時ニュースです」

 テレビの画面に映るニュースキャスターの声が耳に入って来た。


 俺はテレビの画面を見る。


「先日、怪盗ラウールの名を語り、強盗未遂で捕まった伊賀敏政・遠江秀樹、河内一二三容疑者を乗せた護送車にトラックが激突し、三名が逃亡しました。激突したトラックの運転手・小池恵吾さんは死亡した模様です。繰り返します。先日、怪盗ラウールの名を語り、強盗未遂で捕まった伊賀敏政・遠江秀樹、河内一二三容疑者を乗せた護送車にトラックが激突し、三名が逃亡しました。激突したトラックの運転手・小池恵吾さんは死亡した模様です」


 ニュースキャスターが臨時ニュースを伝えている。


「おい。ちょっと待て。どう言う事だ」


 なんで、小池さんが。死んでしまったら意味がないじゃないか。感情が追いつかない。いや、今は感情を殺すしかない。ここで、涙を流すより事件を解決した方が小池さんの為になるはずだ。


「たしか、逃亡した三人は私がお前を拉致した……いや、誘拐した日の事件の犯人だろ」

「あぁ。その通りだ。そして、トラックの運転手が失踪したキャバ嬢の彼氏だよ」


 拉致と誘拐の件について今は触れない。触れるタイミングではない。


「……それは本当か」

「本当だよ。これって、もしかして」


 二つの事件は繋がっているのか。もし、繋がっていればこいつらが強盗に入ったあの銀行にUSBメモリーが保管されている金庫があるかもしれない。無理やりの推理かもしれないけど。


「思いついた事が二つあるな」

 お前はエスパーなのか。そう言いたいが、今はそんな余裕はない。


「あぁ。一つ目は俺達が追っている事件とキャバ嬢失踪の事件は繋がっていると言う事」

「二つ目は」


「逃亡した三人が侵入した銀行に表崎さんが残したデータがあるって言う事」

「その通りだ。至急、その銀行へ向かえ」


「言われなくてもそのつもりだよ」

 俺は守谷探偵事務所から出る為に、ドアノブを握った。


「さらに臨時ニュースです。先ほどの臨時ニュースでお伝えした三人が強盗に入った銀行・帝都中央銀行が爆発して、燃えているようです。死傷者は現在まだ分かっていません。消防隊員達が消火ならび人名救助に当たっております。繰り返します……」

 テレビのニュースキャスターが新たな情報を伝えた。


「……そんな……終わった」

 俺はその場に膝から崩れ落ちてしまった。


 表崎さんが頑張って残してくれた事件に関する情報が消された。


「まだ終わっていない。キャバ嬢の客を見つけ出せばいい」

 守谷は俺の肩に手を置いた。


「そうかもしれないけどよ」

「明らかに犯人は、もしくは犯人達はボロを出してきている。きっと、事件解決に繋がる証拠がもう少ししたら手に入るはずだ。それまで我慢するんだ」


「……我慢か」

「あぁ、我慢すれば活路は見い出せるはずだ」


「……そうか。そうだよな。諦めたら終わりだもんな」


 どんな事でも自分で敗北を認めたら無条件で終わりだ。でも、どんなに不恰好でも、もがき続ければ勝てる可能性が見えてくるんだ。


俺が諦めたらこれからの人生が奪われる人がいる。そして、これからの人生を奪われた人も居る。全員の為にも敗北宣言はできない。


「その通りだ」

「おう。事件を解決させてみせるさ」


「頼んだぞ」

「任せとけ」


 俺は立ち上がって、ドアを開けて、外に出て、階段を降りた。


 もがいてやろう。泥まみれになってやろう。どこまでも喰らいついてやろう。たとえ、誰かに馬鹿にされても。事件解決を望んでいる人達の美しい笑顔を見る為に。 

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