第6話 はじめての事件現場
翌日の朝。
深山さんが守谷に事件現場に来るように要請した。守谷はそれを承諾した。しかし、行くのは守谷じゃない。
俺だ。
守谷に変装して、事件現場に向かっている。
まだこの姿で歩くのは慣れないな。他人から見たら普通に歩いているように見えると思うが。これは明日も筋肉痛だな。
事件現場の公園の傍に着いた。
公園の前にはブルーシートでバリケードが作られている。その前には野次馬達が公園に入れないように警察が二人立っている。
野次馬達は事件が起こった公園をスマホで撮影しようとしている。これをきっと動画投稿サイトやSNSに載せるのだろう。「近所で事件発生ww」みたいなタイトルを付けて。
軽蔑するよ。本当に。
他人の不幸で再生回数を稼ぎ自己顕示欲を満たそうとする下衆達を。なぜ、他人の立場になってものを考えられないのだろうか。
化学や技術が発展した代わりに人間は理性を持たない本能だけの獣に成り下がりつつあると思ってしまう。
俺は野次馬達の間をするりするりと通って行き、公園の入り口の前に到着した。
「守谷鍵です。深山さんから連絡を受けて来ました」
「あ、どうぞ。お入りください」
公園の入り口に立っている警察の1人が言った。
「あれって、守谷鍵じゃねぇ」
「本物? やばくねぇ」
後方から野次馬達の声が聞こえる。
俺は振り返り、スマホを構えている野次馬達を睨む。
野次馬達は俺の表情に恐れをなしたのかスマホをズボンやかばんに入れた。
「それじゃ、失礼します」
警察の1人がブルーシートを暖簾のように少し上げた。
俺は屈んで、公園の中に入った。
警察は俺が入ったのを確認してから、ブルーシートを下げた。
後方からはまた野次馬達の声が聞こえてくる。
耳栓があるなら付けたい。
公園中央の噴水の前にブルーシートが掛けられている。きっと、あのブルーシートの下に遺体があるのだろう。
そのブルーシートの周りには大勢の警察達が居る。その中に昨日会った深山さんと古本が居た。
こちらから話に行くべきか、あっちが気づくまでここに居るべきか迷うな。守谷に事件現場での振舞い方を聞くべきだった。
深山さんが俺に気づき、駆け寄ってくる。古本は深山さんが動いた事に気づき、後を追ってこちらに向かって来る。
「守谷さん。お忙しい中来ていただいてありがとうございます」
深山さんと古本は頭を下げてきた。
残念ですけど、ここに居るのは守谷じゃなくて守谷に変装した有瀬です。
「いえ、仕事ですから。それで事件内容は」
守谷のように振舞う。
「はい。殺されたの岩野聡史さん・42歳です。YM社の副社長のようです。死因は大量出血です。拳銃で何回も撃たれたようです」
拳銃か。ここは日本だぞ。物騒だな。
……YM社と言えば超有名なIT企業だ。ここ数年で劇的に数字を上げて大企業になった。その副社長が亡くなったら色々な人の人生が変わるはず。
「そうですか」
「遺体を見られますか」
「……はい」
嫌だと答えたいが守谷だったら見るはずだから「はい」としか答えられない。この探偵代行は思った以上にハードなのかもしれない。
「それじゃ、こちらへ」
俺は深山さんに案内されて、噴水前のブルーシートの前に行く。
深山さんはブルーシートを捲った。
ブルーシートの下には中年男性の遺体が置かれている。
この遺体が岩野聡史さんか。
……これは数日ご飯を食べられる気がしない。ドラマや映画とは話が違う。本物の遺体は頭にこびりつくほどインパクトがある。
「ありがとうございます。もういいです」
「そうですか。分かりました」
深山さんは遺体にブルーシートを掛けた。
警察はこんなショッキングな光景を毎日のように見ないといけないのか。メンタルが強くないとやっていけないな。もしくは慣れていくのかもしれない。
まぁ、どっちにしても警察になるのは無理だ。警察になる予定はないが。
「……私を呼び出したと言う事はあれが落ちていたんですか」
「さすが名探偵ですね。その通りです」
深山さんは鑑識から黒いポストカードが入ったジッパー付きのビニール袋を借りて、俺に手渡してきた。
俺は黒いポストカードが入ったジッパー付きのビニール袋を受け取る。
黒いポストカードには赤字で「お命頂戴した。怪盗レザー・エプロン」と書かれている。
「今までの被害者と接点は?」
怒りなどの感情を抑えて、訊ねる。
「無いですね」
「それでは、梶野蓮との接点は?」
「それもないです」
「……殺害動機が全く分からない状態ですね」
一連の事件が線に繋がらない。点だらけだ。梶野蓮はなぜこれほどの人を殺す。考えれば考える程分からない。
「……はい。今からYM社に行こうと思っているのですがご一緒に来られますか」
「お願いします」
何か情報を得られるかもしれない。
「じゃあ、一緒に行きましょう」
「はい」
「古本も一緒に行くぞ」
「分かりました」
俺と深山さんと古本はパトカーのもとへ向かう。
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