しあわせのかたち

鳴宮琥珀

アイビー


※暴力描写が出てきます。苦手な方は注意してください。

※この作品は決して、暴力・DVを助長するものではありません。
















 俺にはとっても可愛い恋人がいる。




伊緒いお、一緒に帰ろう」



 そう呼びかけると、嬉しそうな顔で俺を見る、俺の恋人。

 ああ、可愛い。



永和とわくん、時間あるならどこかに寄っていかない?」



 そこで、俺に近寄って二人の女の子が話しかけてきた。黒髪ロングと茶髪ボブの清楚系女子たちだ。



「ええ、どうしようかな~」



 俺は迷う素振りを見せる。


 可愛い女の子は好きだ。

 丸い瞳、ぷっくりとした唇、ピンク色に染まった頬、華奢な身体、どれをとっても可愛いらしい。



「だ、ダメだよ」



 伊緒が焦ったように俺の手を引っ張り、自分の方へと引き寄せる。

 嫉妬しているのだろう。


 可愛い女の子もいいけれど、やっぱり俺にとって一番可愛いのは伊緒だ。


 がっしりとした身体も、切れ長な瞳も、どれも女の子とはかけ離れているけれど、どうしてか俺を惹きつける。飽きさせない。

 が可愛くて仕方ないのだ。



「じゃあ、そういうことだから…ごめんね」



 俺は女の子たちにニッコリと微笑んで手を振りながら、伊緒に手を引かれ、その場を後にした。









「永和、あーゆーのはやめてって言ってるよね」



 俺の手を引きながら前を歩いていてた伊緒が、歩みを止めて俺の方を見た。



「やきもち? ……嫌だった?」



 俺は意地悪く、そんな質問をする。



「………」



 伊緒は目を逸らして何も言わなかったけれど、その顔で何を考えているのかは大体分かった。


 可愛いやつめ。俺が女の子と話していると、いつもこうだ。



「ごめんね、早く帰ろうか」



 だから俺は彼の耳元で、優しくそう囁いた。











 俺と伊緒は幼馴染だ。


 家が近所だったこともあり仲良くなったが、好奇心旺盛な俺と違って、伊緒は俺の後ろに隠れて様子を伺っているようなタイプだった。

 正反対な俺たちだけど、不思議と一緒にいて落ち着いた。




 高校生になったころ、伊緒に告白された。

 驚いたけれど、当時は彼女もいなかったし、二つ返事で快諾した。

 伊緒は俺の返事に驚きつつ、どこか安心した顔をしていた。




 それからずっと、俺と伊緒は付き合っている。

 喧嘩もするけれど、相性がいいのと、何より伊緒が俺のことが好きすぎるのとで、俺たちの関係はかなり上手くいっている。



 大学生になるのと同時に俺たちは同棲を始め、帰る場所が同じになった。












 家に入るなり、物欲しそうに俺を見つめる伊緒。


 黒い髪に黒い瞳。少し潤んでいる。

 可愛い。


 今日はとことん甘やかしてあげよう。

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