第20話 友情回
しかし、結菜ちゃんと約束してしまったのも事実だ。こいつと話さないわけにもいかないか。
「ていうか、まず君、喧嘩とかやめなよ。妹にコソコソするくらいならさ。実際、家族に迷惑かけるかもしれないってわかってるってことだろ? いや、豪樹から手を出してるわけじゃないってのは、もうわかってるけどさ……そもそも何であんなカッコいい二つ名とか広まるほどに、不良から目ぇつけられてるんだよ」
覚悟がどうとかいう以前に、まずはそこからだ。
「うん、まずはお前立てよ。いつまで四つん這いになってんだ。あとカッコいいとか皮肉言うのやめろ」
豪樹に手を取ってもらい、立ち上がる僕。確かにまずはそこからだった。皮肉じゃねーよ、カッコいいだろうが。
「いや、まぁ、元はといえばの話をすればな、」
豪樹はどこか気まずげに、そして心底恥ずかしそうに言葉を紡いでいく。
「昔、結菜に告ってフラれたのにしつこい男がいてな、こう、軽く小突いてやったんだ」
「ひぇ……」
だからクマさんの軽く小突くは人にとっては致命傷なんだって。
「そしたらよ、そいつが仲間連れて仕返しに来たんだ。だからちょっと強めに小突いてよ。それで元の男は懲りたんだが、仲間の方が勝手に逆恨みしてきてな。また別の仲間を呼んできて、それをまぁまぁ強めに小突いて、その仲間がまた別の仲間を呼んできたからそこそこ強めに小突いて……ってのを繰り返してるうちに、どんどん誰の連れなのかもわからん輩が襲撃してくるようになってな。知らん間に話も大きくなってて、もはや何の関係もねぇであろう群馬・茨城・福島の喧嘩自慢連中も突っかかってきてよ。そんなこんなで、いつの間にか俺の小突きも本気に近づいていっちまったってわけだ」
もはや小突きって何だ。危ない隠語か何かじゃないよね? そして実は南東北にまで広まっていた、北関東の暴れ馬。もうこの際、東日本のホッキョクグマとかでいいんじゃないかな。怪異の青森侵入を防いでくれ。
「結果的に俺に手出ししてくる輩なんてほぼいなくなったんだが、まぁ、今日みたいな奴らもまだ残ってたみたいだな。やはりお前の言う通り、二度と俺に手出しできないよう、手加減なしでぶっ潰しておくのが、覚悟ってもんだよな」
僕そんなこと言ったっけ。これって殺人教唆罪、成立しちゃう?
「万が一にも家族に危険が及ぶような事態なんて、引き起こすわけにいかねぇからな……元は結菜のためのつもりだったのに、こんな風になっちまうとはな。結局最初からずっと、俺には大切なものを守るための覚悟が足りなかった。お前も白石も、俺のそんな『ざぁこ♪』ぶりを見抜いてたってわけだ」
「君、もう二度と『ざぁこ♪』って言うなよ」
弱さとかでいいだろ、そこは。
「確かにそんなこと口に出してたら、さらに『ざぁこ♪』になっちまいそうだな……俺はもう、覚悟を決めたんだ。何をしてでも、あいつらを守る。結菜のお説教なんか聞いてるのは、俺にまだ余計な未練があったからだ。覚悟が決まってなかった。学校だってさっさと辞めて、どんな仕事でもするべきだった。体力だけは自信あるからな。肉体労働なら、それなりに稼げるはずだ。一太、お前には結菜の説得……は難しいかもしれんが、まぁ俺への愚痴を聞いてやるぐらいのことは、これからし続けてもらいたいんだ。頼む。本当は恋人として支えてやってもらいたかったが贅沢は言わん」
やばい。豪樹の退学を止めたい結菜ちゃんとの約束だったのに、逆に僕の言葉が退学の後押ししたみたいになっちゃってる。そんで何か元はすごいこと頼もうとしてたよ、こいつ。
このままでは、結菜ちゃんへの裏切りみたいになってしまうし、結菜ちゃんと定期的に会って定期的にからかわれて、気づいたら逃げられなくなってるみたいな結末まで見えてきちゃう気もする。
何とかしなければならない! こいつの決心には口出しできないとか言った気もするがやっぱめっちゃ口出しする!
「豪樹、君はやっぱり軟弱者だよ。逃げてるだけだ、それは」
「何だと……?」
ホント、何だと……?だよ。僕も喋りながら喋ること考えてるくらいだからな。
「あのな、豪樹。大切な家族を守るための自己犠牲だとか、それこそ『男の矜持』でしかないだろ。もっと簡単に言えば、ただのカッコつけだよ。君のつまらない人生なんて、捨てたところで、まともな対価を得られるわけないだろ」
って、結菜ちゃんがそんなニュアンスのこと言ってた気がする。
「…………っ!?」
よし、「…………っ!?」ってなってる。あとは勢いで押し切るだけだ。お前倒すためのパターンはもうつかめてんだよ、こっちは。誰か結菜ちゃんの倒し方教えてくれ。
「そんなもので結菜ちゃん悲しませてさ。お母さんだってそれ以上に辛いだろうし、柑菜ちゃんや柚樹くんだって大きくなったら、君に負い目を感じるようになっちゃうかもしれないんだぞ。ふざけんな。君のカッコつけのためだけに、僕の可愛いチビ達に余計なもん背負わせんな。覚悟して自分の人生を生きろよ。喧嘩ばかりのくだらない人生を、大切な仲間に囲まれた最高の人生にしてみせろよ。君みたいな『ざぁこ♪』には難しいことかもしれないけど、それでも逃げるなよ」
「だが……結菜は……」
「結菜ちゃんはちゃんと自分のこと考えてるし、君なんかよりずっと賢くて抜け目のない策士だから大丈夫だよ。って、そんなこと君の方がよく知ってるはずだろ」
「確かに……結菜は可愛いし頭も要領も性格も気立ても良いし……策士とかではないが」
策士なんだよ。実の兄に策士だと気取らせないほどに策士なんだよ。本物なんだよ。早く誰か倒し方。
「それにな、豪樹。愛する人を大切にしようという気持ちは尊いけど、それが、ただの依存になってしまうのはよくないんだ。豪樹はどこまで行っても豪樹でしかないんだから、自分以外のものに依存なんかせず、ちゃんと豪樹の人生を生きるしかないんだよ。結菜ちゃんがお兄ちゃんに求めてるのも、そんな覚悟なんだ」
知らんけど。
「覚悟……そうか、俺はやっぱり、見失っちまってたんだな……やっと気づけたぜ、一太……!」
何か響いちゃってるよ。やっと気づけちゃってるよ。正直言って、僕はかなりフワっとした意味で使ってるからな、覚悟ってワード。僕の中でも全然定義とか定まってないからな。結菜ちゃんの本心なんてマジで知らん。あんな策士の考えを僕が読み切れるわけないだろ。倒すのは諦めたから逃げ方教えてくれ。
ただ一つだけ、僕だからこそ、よく知っていることもある。それだけは僕も本気で豪樹に伝えたかったし、伝えたつもりだ。
僕はこの目で見てるからな、何かに依存し続けてきた人間の末路を。
あんな犠牲者を、もう二度と出してはならないんだ……! 僕たちのこのやり取りも最初からずっと隣の家の二階の窓からじぃーっと見つめている、あの黒髪ロング女のようには絶対なってはならない。あ、目が合っちゃった。なんかめっちゃバリボリしてる。
「そっか、よかったよ、豪樹。学校辞めないでくれて。少なくとも僕は君のことを友達だと思ってるしね」
「一太……」
「まぁこれから遅刻・欠席ゼロにしないと留年だろうけど」
「バイト減らすかぁ……」
なんか照れくさかったので、それだけは忘れずに付け加えておいた。
「念押しだけど学校来ても絶対華乃さんにからかわれるなよ。あと柚樹くんにパカパカしてやれよ、それが兄の覚悟ってもんだろうが、殺すぞ」
これはマジなので本気のトーンで付け加えておいた。
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