魔法少女ハソラカケル

閑古鳥百貨店

第1話

怪物が現れれば、魔法少女が現れる。

少女が怪物を倒して、世界は守られる。

世界はそうやって怪物から守られてきたが、しかしその因果は逆なのではないか、と我々は考えた。

「魔法少女が現れる」と世界のどこかに「怪物が現れる」のではないか?

運命じみた何かが決まった瞬間に怪物が発生するのではないか?

光を当てれば影ができるように。

人を救うには救われる人が必要なように。

その発想に到った我々は、魔法少女がどうして生まれるのかを探り、日々考察を重ねた。


結論に至った。

「魔法少女」が現れて「魔法少女の敵」が現れるのであれば――

どこかに「魔法少女を敵とする魔法少女」がいたから、魔法少女が現れるのだ。

魔法少女が未だに現れる以上、「彼女」はおそらく、まだ生きている。

魔法少女が生まれて怪物が現れてを繰り返していては、その争いに巻き込まれる世界の身が保たない。

これを読んだ者がいるなら、どうか私の意志を継いでほしい。

人々を。世界を。

助けてくれ。救ってくれ。

「最初の魔法少女」を――

殺してくれ。




光を見た。

それはとても暖かくて、鮮烈で、網膜に焼き付いて離れない、奇跡みたいな、光――――。




「はああ…!」


雨に打たれながら、1人の魔法少女――絆木(キズナギ)リョウは走っていた。彼女は認めないだろうが、それはただ走るというより逃げている、に近い。


「くっそー…!誰か助けてくれないかなぁ!」


そんなものはないと分かっていながら、泣き言を言うリョウ。その後を追うのは無数の影。それらは光が遮られてできたものではなく、影そのものが質量を持っていた。魔法少女の敵、アンコークの尖兵たち。名前をヤミー。人の形をしてはいるが、それはあくまでシルエットだけの形であり、魔法少女の身体能力で発揮される逃走についていくためか、その形すら崩していた。


濡れた草木をかき分けてしばらく少女と影は走っていたが、その動きは少し開けた場所に着くと共に少女から止まった。


「よっし。この辺りなら、いいかな」


そのままくるりと振り向き影と向き合う。

地面から立ち上るような影たちは、改めて人の形を取り少女を囲むように数を増していく。

魔法少女に変身して身体能力が上がってはいるが、リョウの主な武器は徒手空拳――つまり、素手。

走っていたとはいえ、雨に打たれて体も冷え切っている。さらに言えば空手や柔道といった武道の心得があるわけでもないし、そういったことを教えてくれる先生はいないし、戦い方を教えてくれる妖精ファミリアがいるような変身タイプでもない。

多勢に無勢。それでもリョウはほほ笑む。


元々ヤミーたちを引き離すつもりはなかった。リョウが全力で、本気で走ったらギリギリ振り切れてしまう。振り切られたヤミーたちは無関係な人間に襲い掛かってしまうかもしれない。それはリョウの願うところではなかった。故に振り切れない程度の速度で――かと言って手が抜けないため全力には近かったが――走っていた。

だからある程度の覚悟はしていたし望むところだったが、しかし。


「やっぱり多いな…」


その数に思わず呻く。少しくじけそうになる。とはいえ、ずっとここで待っていてもじわじわと包囲を狭められてしまうだけだ。リョウが意を決して足を踏み出した時。


――光が世界を埋め尽くした。


「うっ!な、何…!?」


体を襲う衝撃に備えて構えてみても、何も起こらない。雷が空気を引き裂くような轟音も、地面を激しく叩くような衝撃も、何も起こらない。

雷でもないなら何が起こったのかとリョウが目を開けると、漂う塵の中に少女が立っていた。

ヤミーの成れ果てだろう黒い塵と魔法残滓の白い塵の中で、金髪がたなびく。少女の目がゆっくりと開けば、鮮やかな翡翠色の目がリョウを見る。何かの一枚絵のような一瞬のなかで、そのなによりも目を引いたのは――


――少女が、生まれたままの姿。つまり、全裸であることだった。


「な、ああ、あっえ?全、え?え?」

何を言えばいいのか、思わず挙動不審になるリョウを少女はただ静かに見つめる。

どういった意味を持つ視線なのかは分からなかったが、とにかく待たせるのはよくないと思い、リョウはすーはーすーはーと息だけでもと整えて会話を始める。


「あ、あーっと、ごめん!落ち着くまで待ってくれてありがとう!それと、助けてくれてありがとう!」


「うん」


意を決して始めた会話は無表情の少女がただうなずき、それで終わってしまった。勿論それで終わっていい訳もないので、リョウは二の矢を放つ。即ち、自己紹介だ。


「……あっ、僕は絆木リョウ!魔法少女だよ。君もそうだよね?それで、えーっと…君の名前も、聞いていい?」


とりあえずで放つにはちょうどいい二の矢に対する少女の回答はしかし――


「――多分阿闍梨(アジャリ)ヒカリ。私も多分魔法少女。それで、魔法少女ってなに?」


あまりにも不安な会話の始まりになってしまった。

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魔法少女ハソラカケル 閑古鳥百貨店 @huhudori_kumadori

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