12.追跡
◆◇◆
リューゴは相対しているスキンヘッドの男・ゾズマがこちらに向けている拳銃を見て、先ほど黒炎で弾いたはずの弾丸が突然軌道を変えて直撃したことを思い出していた。
(撃たれる前にやるか)
リューゴは黒炎を足にまとうと、横なぎに振り抜いた。
「〈破脚〉!!」
黒炎が波動のように広がり、兵士たちを一掃する。
だが、ゾズマは近くにいた兵士を盾にすることでかわしていた。
「が……は……」
ゾズマが手を離すと、盾にしていた兵士が崩れ落ちる。
他の兵士たちは身につけていた防具が砕け、動けない様子でうめき声をあげていた。
「ば、化け物だ……」
「あんなのに勝てるわけない……」
それを聞いたゾズマがぎろりと兵士たちを睨みつけた。
「今弱音を吐いた者。あなたとあなたですね。今すぐ自害しなさい」
「「!?」」
二人の兵士が息を呑む。
ゾズマは冷たい目を向けた。
「早くしなさい。あなたがたの大切な家族がどうなってもよいのですか?」
「「……!!」」
兵士たちは震える手で銃をこめかみに当てると、発砲した。
血が飛散し、二人は倒れる。
「……!」
リューゴは目を見開き、ゾズマを睨んだ。
「殺す必要があったか?」
「これがわたしのやり方です。敵を前にして怖気付くような弱者、わたしの部下にはいりませんから」
そう言ってゾズマはそばで怯えている兵士の頭を拳銃で撃ち抜いた。
リューゴは拳を握りしめた。
「……テメェをぶっ壊しても罪悪感は湧かなそうだ」
ゾズマが目を細めた。
「わたしは人間が好きでね。特に理解できない人物ほど知りたくなる。ゆえに一つ問います。なぜ人々の命を脅かす破壊士などになったのです?」
「その言葉、そっくりそのまま返すぜ。偽善者ども」
ゾズマの目元がぴくりと動く。
「……なるほど。知ってはならないことを知ってしまったようですね。やはり捕らえるのはやめにします。あなたにはここで消えてもらいましょう」
ゾズマが銃を構える。
だが、引き金を引く様子はなかった。
「それにしても……間近で見るとよく似ていますね。五年前、”あの方”が壁の向こうから連れてきた”子供”に」
「!!」
リューゴは息を呑み、静かに問いかけた。
「……その子供は今どこにいる」
「ふむ……どうやら繋がりがあるようですね。やはりあなたは興味深い人物だ」
「どこにいるかって聞いてんだッ!!」
リューゴが怒鳴ると、ゾズマは淡々と答えた。
「私程度の辺境再生士には知る由もありませんよ。少なくとも”地上”にはいないでしょうがね。さて、無駄話はここまでです」
言うや否や、ゾズマが引き金を引いた。
閃光が数度弾け、銃弾が飛んでくる。
リューゴは兵士たちの防具の”破壊エネルギー”を黒炎に変えて”盾”を作り出した。だが、
「!?」
銃弾は”盾”の隙間を縫うようにして軌道を変え、リューゴの腕や足に直撃した。
「ぐああっ!!」
倒れそうになる身体を黒炎で支え、体勢を立て直す。
リューゴは足元にあった石を拾って黒炎をまとわせると、ゾズマに向かって投げた。
”破壊エネルギー”を乗せた豪速球が顔面に当たる直前、ゾズマは首を軽く傾けた。
すると石はゾズマの脇をすり抜け、後方のフェンスを破壊した。
「ッ――!?」
リューゴは異変を感じつつも素早い動きで近くにあった岩場に身を隠し、今の光景を思い出す。
(あの動き……まるでオレが石をどの場所に投げるかをわかってたみてェだった)
考えを巡らせていると、岩の裏から銃声が聞こえる。
この場所にいれば当たるはずがない。だが、
「!?」
突然銃弾が岩の横から現れ、吸い込まれるように軌道を変えながらリューゴに迫ってくる。
咄嗟に黒炎をまとい二発破壊することに成功するが、一発は脇腹に命中した。
「ぐっ!!」
(ちくしょう、隠れてても追ってくるのかよ……ッ!)
リューゴは脇腹を抑え、足に力が入りづらくなっていることに気づき舌打ちした。
ゾズマの足音が近づいてくる。
「――あなたの体も限界が近づいているようですね」
「!」
(オレの身体のことに気づいてやがる。曲がる弾丸といい……間違いなくあいつの能力(バース)だ)
リューゴは一度深呼吸をすると、岩場から飛び出した。
地面を蹴り、ゾズマに突進する。
「愚かな。撃たれるだけだというのに」
(覚悟の上だ! テメェの能力(バース)を暴いてやるッ!!)
リューゴは黒炎を使って砂埃を巻き起こし、視界を遮る。
直後、銃声が鳴る。
銃弾は寸分違わずリューゴのもとに飛んでくる。
「チッ――」
リューゴは黒炎で銃弾を打ち落としながら走るが、いくつか破壊しきれずに直撃する。
やがてゾズマの銃撃がやんだ。弾切れだ。
「〈破拳〉ッ!!」
黒炎の拳を放つ。
だが、ゾズマはまるで予言していたかのように余裕の態度で横にかわした。
「だろうと思ったぜ」
その瞬間、黒炎の影から石が飛び出し、ゾズマの側頭部に直撃した。
「がっ!!」
ゾズマがよろめく。
リューゴは片膝をつきながら言った。
「わかったぜ。テメェのバースは、オレの動きを”追跡"する能力だ。それならオレの攻撃が当たらなかったり、逆に避けたはずの弾がオレに命中したりしたのにも合点がいく。……国境を目指すオレたちの動きがずっと読まれていたのも妙だと思ってたんだ」
そう言って、リューゴはにやりと笑った。
「人を値踏みするような物言いばかりしやがって。テメェごときがオレを測るなんざ百年はえェんだよ、ハゲ」
するとゾズマは自分の頭を触り、手についた血を見て口元を緩めた。
「ふふ……確かにあなたのことをみくびっていたのかもしれませんね」
直後、ゾズマの表情が豹変した。
「――舐めた口を利いてんじゃないぞッ! このクソカスがッ!」
ゾズマが顔を怒りに歪め、拳銃に弾をこめる。
「犯罪者の分際でこのわたしに血を流させるなど、あってはならんのだッ!!」
銃弾を連発してくるゾズマ。
リューゴは黒炎で全身を包み、顔の前に一箇所小さな穴を開けた。
すると銃弾は吸い込まれるようにして穴の中に入っていく。
黒炎が解けると、リューゴは黒炎をまとった手で銃弾を全て受け止めていた。
握り潰した弾丸をその場に捨てる。
「お前の攻撃が障害物を避けて必ずオレに当たるっていうなら、穴を開けて優しく誘導してやりゃいいだけだ」
ゾズマが舌打ちをする。
「……だが、お前の行動は全てお見通しだ。お前の攻撃は決してわたしには当たらぬ」
「本当にそうか?」
リューゴは銃を模した右手をゾズマに向けた。
指先から黒炎の弾丸が発射されるが、ゾズマは横に転がってかわした。
「当たらんと言っただろう!」
「足元に気をつけろよ」
「! しまっ――」
リューゴが足を振り下ろすと、最初の攻撃で割れた地面がめくれ上がり、シーソーのようにゾズマの身体が浮き上がった。
リューゴは拳を引き絞った。
「オレの行動が見えてるんだろ? だったら目に焼き付けとけ」
「おい、やめ――」
「〈破拳〉!!」
黒炎の拳が宙に浮かぶゾズマを殴り飛ばす。
ゾズマは錐揉みしながら地面に落下し、ピクピクと痙攣していた。
「身体を捻って直撃は避けたか」
「ぐ、ぐうぅ……! ゆ、ゆるさん……!!」
その時、森の方からヘリコプターや飛行バイクが飛んできているのが見えた。
ゾズマはボロボロの状態になりながら笑みを浮かべた。
「ふはは……お前たちに逃げ場などないのだ……! 仲間もすでにサダルバリに殺されているだろう……!」
リューゴは鼻を鳴らした。
「逃げるつもりならハナからねェし、アズールも死んじゃいねェ。オレはあいつを信じてるし、あいつもオレを信じてる」
「チィッ……すぐにそんな強がりも言ってられなくなるぞ……」
その時だった。
上空で爆発音が鳴り響き、ヘリコプターや飛行バイクが次々と落ちていく。
そして、そのうちの飛行バイク一台がリューゴのもとに降りてきた。
「リューゴ!」
運転席に座っていたのは、青髪の少年。
「アズ!」
次いでバイクの横を浮遊している赤髪の少女を見た瞬間、リューゴは大きく目を見開いた。
「ロゼ!?」
アズールの双子の姉であり、リューゴの悪友だ。
だが、ロゼは七年前に交通事故で死んでいる。
ロゼの姿をした少女が叫んだ。
「そうよ! 話はあと! 乗りなさい!」
「あ、ああ!」
リューゴは混乱しつつも少女の手を取り、バイクに飛び乗る。
「ま、待て! おい貴様ら、撃ち落とせ!!」
ゾズマが慌てた様子で兵士たちに命じる。
アズールは巧みなバイクの操作技術で飛んでくる弾丸をかわしながら上空に上がる。
ゾズマが放った弾丸は脇に逸れていった。
「さすがに銃の射程外までは届かねェか」
リューゴは息を吐き、バイクの横を飛ぶ少女を見た。
「ロゼ……なんだよな?」
「そうだって言ってるじゃない。バカなのは変わってないみたいね」
「……お前も変わってなさそうだな」
やりとりの最中にバイクはフェンスと堀を越え、国境手前にある重要警備地帯に突入した。
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