魔法勇者ロボ少女☆アイリス

大星雲進次郎

第1話 エアプレーン・ガール

 アイリスが目を覚ましたら、自分が飛行機になっていることに気が付いた。

 いや、それはちょっと違う。アイリスは元から飛行機だったのだから。

 ついさっき、格納庫に何かが落ちてきて、ピカ~っと格納庫全体が光るとこうなっていた。

 何かが落ちてきたという記憶も、持ち合わせていない筈なのに知っている。

 広い格納庫だ。アイリスの巨体がすっぽり入って、まだ余裕がある。

 ただの飛行機だったハズのアイリスはこうやって考えることが出来るようになった。

「不思議なこともあるものね」

 全くそう思っていなさそうなアイリス。

「……変形トランスフォーム

 いかなる仕組みか、およそ40メートルの巨大な機械が人型に変形した。一人称が私と言うだけに、柔らかいボディラインの女性型だ。

 格納庫でじっと待っていても仕方ないと考えたら、人の形になることができた。ウロウロするにはちょうどいいだろう。

 意志を持ってしまった飛行機。

 自分は何者で、これから何をするべきなのか、考えるのは後だ。

「飛びたい」

 さっきから本能が疼くのだ。

「飛ぶわ!だって私は好きなように飛べるんだから!」

 人型で飛ぶことが出来るかなんて考えない。いや、飛べない方がおかしいだろう。

 アイリスは格納庫のスライドドアに手をかけると無理矢理こじ開ける。警報が鳴り響き、パトランプが回りだす。


《エプロン》

 海上空港だけど24時間空港ではない。夜にしかできないこともあるため、たくさんの人がいる。

 突然の警報に驚くが、場所はすぐに格納庫と特定された。

「あれは何だ!?」

 誰かの指さす先には、サーチライトで照らされた人間。違う、あそこは格納庫だ、ドアを破壊しながら出てくる人型は人間よりはるかに大きい。

「格納庫……アイリスは!アイリスは無事か!?」

 格納庫はアイリスを保有する航空会社ネビュラエアライン専用だ。航空機の点検整備を定期的に行っており、今週はアイリスの番だったのだ。

 格納庫に押し掛ける整備員達。

 無惨に破壊されたドアからのぞく格納庫の内部には、飛行機の姿は見えない。

「おやっさん!アイリスが……」

「アイリスがガレキの下に埋もれちまった!」

 若手の整備員が、やってきた整備課長に涙目で突っかかる。ちなみにこの会社では機材を愛称で呼ぶことが推奨されている。

「馬鹿どもが、よく見ろ」

 整備課長はすでに滑走路に到達した巨大な人型を指さす。

 その背中に生えた翼の先端にあるウイングレットには、いつも見ている「青いアイリス」のイラストが付いているではないか。

「アイリス、なのか?」

 この2日で隅々まで点検した。

 あんな、指や頭なんて、どこにもなかったぞ?

 間違って胸のパーツを触ってしまわなかったか?

 不思議に思う者、すんなり受け入れる者、様々だ。

 そうしているうちに、人型、推定アイリスは滑走路の末端にたどり着いていた。

 おそらく「眼」だろう。緑に強く光ると、滑走路の灯火全てが点灯する。

 今まさに飛ぼうとしているのだ。

 

「オイ、インカム付けてみろ!……アイリスが喋ってるぞ!飛ぶぞ~って言ってる……!」

 ギラリ。今度は整備班の連中が目を輝かせる。

 我先にと壊れたドアを乗り越え、器具室の壁にかけている自らの装備を取って身に着けていく。

『……ぅしよう。走っちゃうと、滑走路が穴だらけになるな……それは迷惑になるよね……』

 この声だ、こんな感じ。

 整備員の多くのイメージ通りの声で、アイリスは独り言をつぶやく。

『ん~、変形トランスフォーム!』

 変形した!

 もう空港全体のワクワクが止まらない。

 しかし、滑走路の停止位置に待機している小柄な飛行機はなかなか飛ぼうとしない。


《管制塔》

 格納庫の警報に引き続き、今度は滑走路付近への侵入者を検知したとAIが告げてきた。

「雷は落ちるし、警報は鳴るし、いったいどうなってるんだ、今夜は!」

「滑走路の東に向かって移動中!映像出すぞ」

「暗くて見えないわ……人?」

 保安灯のほのかな明かりに浮かび上がる影は、確かに人型に見えた。

「でも、大きさが」

 その時、滑走路の灯火が勝手に点灯した。

 非常事態ではあるが、毎日見ても飽きない綺麗な光景だ。

「誰が点けた?」

「わからん……いや、点いてない事になっている」

「見ろ!」

 管制塔の窓から、灯火に照らされた侵入者の姿が見えた。

「ロボット!?」

 タワーから500メートルも離れた所にいるので、肉眼では詳細は判らない。

 保田はいつも首からかけている双眼鏡、50倍の手振れ防止と暗視サポート付きの自慢の一品、で確認する。

「あれは……アイリスだ!」

 ロボットが背負っている翼の先端のウイングレットに描かれた花のマーク。このマークが描かれた飛行機が初めてこの空港にやって来た時に、保田が着陸からエプロンまで誘導したのだ。忘れるはずがない。

「安田、あんた何を言って……」

 その時、室内のモニターもようやく侵入者の姿を捉えた。

 飛行機っぽいロボットだ。心なしか女性っぽい。古いテレビアニメを思い出すが、特にどこかが強調されているわけではなく、自然とそう見えてしまうだけなのだが。スカート状に展開しているパーツが可愛い。

 それが突然、飛行機の姿に変形したときには、冷静に現状の分析を続けていた管制官たちも黙り込むしかなかった。

 保田が言う通り、ネビュラエアラインのアイリスだった。

 真っ先に動くことができたのは、やはり耐性を持つ保田だ。

 この時のために日頃から厳しい訓練を積んでいたのだから!

 デスク上の、先ほどから何やら音声を拾っていたインカムを引っ掴み、応答ボタンを押し込んだ。

「アイリス。管制の指示がないのに滑走路に入っちゃ駄目じゃないか!」

 管制官保田はアイリスが指示待ちなのにいち早く気がつくと、「友達感覚」で話しかけることに成功する。

「保田!ズルい!」

 ロマンを共有する同僚の高橋が叫ぶ。

 こいつら何を言ってるんだ。何がズルいんだろう?先輩方にとって全ての出来事が謎。

 その疑問も次の瞬間瓦解した。

『保田さん!ご、ゴメンナサイ、私もう飛びたくて……少し浮かれてた』

 保田への応答が、室内のスピーカーから流れた、アイリスであろう、その声で。

 なんだこの感覚?飛行機娘萌?そんなのあるのか?

 職員達は戸惑う。

「帰ってきたら、報告書だ」

『ハイ!』

 なにが報告書だ。誰に書かせんだよ!

 保田はヘイトが全て自分に向いていることに気づかない!

「当空港の西側には航空機は飛んでいない。一番近いのが、福丘を出てすぐの所だ」

『そうだね』

「東は閑西上空が混んでいる」

『すごい、わかる、わかるよ!』

 どうやら、アイリスは空の状況を把握できる能力を身につけたようだ。

「そうか、安全に避けろよ?」

『任せて』

「アイリス、離陸を許可する」



――――――――――

 待ちに待った離陸のへのカウントダウンが始まった。アイリスは溢れるやる気でその身を震わせていた。

 次回、魔法勇者ロボ少女☆アイリス「テイク・オフ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る