第26話 無法島の一件 2 到着

 無法島は見捨てられた島。

 時代遅れの島-


 十年前、無法島行きの船はカルバーンの港から毎日出航していた。


 平和な自分たちの暮らしから少しだけ離れ、刺激を求め、人々は猥雑な不夜城に足を踏み入れた。

 真っ赤な灯籠が通りを染め、食欲をそそる屋台が並ぶ。煌びやかな服や土産物。その奥に続く歓楽街や賭博場。


 小さい頃、飲んだくれのおじさんから、ウサギの形をした飴や、光る玉のお土産をもらったっけ。


 でも、自分の意思で自由に動けるようになったときには、無法島の人気は急降下していた。今ではまるでゴーストタウンだと皆が言っている。


****



「あぁ、ドキドキするわ。アレックス」

「黙ってろ」


 数年振りに、人でいっぱいになった観光船。

 それは全てグエンに出された手配書……そこに書かれた金額のおかげとでも言うべきか。

 手配書には生死を問わずの横にさらに、こう記載されている。

 

 危険人物のため早急に捕まえたい。ヌーンブリッジ他、近隣地区も歓迎。

 同額を与える。100,000バレル。


 私たちの住んでいる町、カラバーンは近隣地区ということね。


 青々とした島が目の前に迫って、子供のようにドキドキしてきた。

 そう言えば船で島に渡るなんて、子供のとき以来だわ。


「ねぇ、なにか配っているわ」

「なんかの案内か?」


 港に着くと、船を降りた全員に新しい手配書が渡された。


「なんで? 変更したの?」


「Only Alive」


 アレックスが手配書を指差した。

 オンリーアライブ……条件が変わってる!


「生きて捕まえるってこと? そりぁそうよ。殺していいわけないもの」


 保安部隊、デピュティたちはなにをしてるのよ。あ、この島はノーマンが所有してるから、保安官がいないのか……。


「注意書きを見ろよ。変装している。または顔を変えている可能性があるためだと」


 ええええ!?


 どうやって捕まえるの? アレックスは幼なじみだから有利だと思ってたのに。


「顔がわからなくなっちゃうのね」

「手配書も当てにならないけどな」


「そうかしら、特徴があったと思うけど」


 私は肩がけのサコッシュから手配書を出す。粗野で目つきが悪く、いかにも悪そうな若い男。特徴があるのは右頬の大きなホクロ。めったにない顔だと思うけど。


「アレックス、この手配書、似てるの?」

「さあ……グエンは八歳のときにどこかへ引っ越したからな。顔はもう覚えてない」


「そうなの?」

 アレックスは頼りになるのかしら?


「それより……驚いたな」


港は老若男女、人で埋め尽くされそうだ。女、子供もいる。お祭り騒ぎだ。


 港で立ち止まっている群衆のほうへ、駆け寄ってくる若い男。

「賭博場の方にいたらしいぞ!」


 観光客が叫ぶ。

「え? どこ? あいつ?」

「ああ、グエン・エンバー!」


 私は、アレックスの袖を引っ張った。私たちは声の主を見ていた。帽子を深く被っている。


「賭博場にグエンがいたって!」

 賭博場、賭博場と声が飛び交う。

 港から東に向かっていく浮き足だった観光客たち。

 アレックスはみんなと反対方向に歩き出した。


「行かないの?」

「とりあえず食うぞ」


「ねぇ、さっき賭博場って叫んだ人、嘘でしょう? 自分が見つけたいから出し抜いたのね。こんな昼間に手配書の男がうろうろするとは思えないわ」


「とりあえず、賑わってそうな場所へ行く。情報を仕入れるんだ」


 メインの大通りと思われる、緩やかな上り坂を歩く。濃い化粧をし、髪を巻き上げ、胸元を大きく開けた女性がアレックスに抱きついてきた。

 なにこの人? 胸の谷間が見えてるじゃないの!


「お兄さんー! 何か食べた? 泊まる所は決まったの?」

 甘ったるい声で話しかけてくる。


「泊まるところは大丈夫です」

 私は横から口を出す。


「ガキは引っ込んでなよ」


 はぁぁぁ?!

 甘い声から一転、凄まれる。


「お兄さんー、いい男〜! うちで食べたら、奥の宿に半額で泊まれるから」


「それは助かる」


「あぁ〜本当に好きなタイプ」

 女は体をくねくねさせる。アレックスはぎこちなく微笑んだ。


 なによ! アレックスのあの態度……私が甘えたときは、おえええぇとか言ってたくせに……。

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