第13話 仁義なきお茶会 3

 アレックスから香りの強い飲み物は却下され、紅茶はアールグレイになった。それにフーガスを添えて私たちのお茶会が始まった。


「美味しい! 蜂蜜とシナモンを少し加えるとこんなに変わるんですね」


 ローズマリーお薦めの飲み方。本当に美味しい。アレックスはなにも入れずにストレートで飲んでいるけど。

 

「でしょ。オリエンタルな感じになるでしょ?」


「ええ……オリエンタルな感じで」


「わかってんのかよ?」

 

 アレックスに突っ込まれるけど、ローズマリーがすぐにフォローしてくれる。


「ふふふ、私だって本当はわかってないのよ」


 ああっ、優しっ。

 私は気になっていたテーブルの上の封筒をローズマリーにそっと戻した。もらうわけにはいかない。パンの値段より多い額が入っているわ。


「オーナーにも言われてるんです。私の代わりに無償で働いてもらって申し訳ないと……」


「もう、私が勝手にやったことよ。その話はもうおしまい」

 ローズマリーは私のサコッシュにお金をそっと入れた。

 

「レベッカ、くれるっつんだからもらっとけよ。お前の懐に入れとけばいいんだよ。そいつは狡猾な経営者だからな。引っ張れるところからは、金引っ張ってるから気にするな」


「ちょっとアレックス! あなたはなんの用事があって来たの?」


 アレックスはなにも手伝わず、フーガスを片手に芝生に寝転がった。


「いいのよ、レベッカ……ふふふふ、アレックスって面白いわ。私がレベッカのパン屋を手伝った後、午後はアレックスも来たのよね……お手伝いに」


 アレックスはむくっと起き上がった。

「おい!」


「アレックス、そうなの? 私、誰からも聞いてない」


「張り切りすぎて、パンを練る台を壊したって聞いたけど。ちゃんとお手伝いできた?」


 含み笑いのローズマリーの口に、アレックスはフーガスを突っ込んだ。


「てめえは少し黙ったらどうだ?」


「ふっ、ご……ごふん、あほばせ……まぁ、おいしっ」

 余裕でパンを頬張るローズマリー。


 どうして仕事場の台が変わったんだろうと気になってはいたの……。


 アレックスのせいなの? 申し訳なくて仕事場に行けないわ。て言うか、オーナーも同僚も、私に教えてくれないんですけど!


「ねぇアレックー」

「ところで! 目の前に人気のパン屋があるじゃねーか」


 ビシッとアレックスは通りを指差した。


「そうよぉ、でも違うパン屋さんのパンも食べたくなるのよ……ねぇ」


 同意を求められ、大きく頷く私。


「本当に美味しいわ。定期便でパンを頼もうかしら。レベッカにも会えるし」


「配達屋に頼め」「もちろんです!」


 アレックスと私は同時に言葉を発した。紅茶を一口飲んでローズマリーは微笑む。


「アレックス、あなたにはこれっぽっちも関係のないことでござんす」


「なんだって? 聞き取れねぇ」


 とりとめのない話をしていると、門の向こう側から女性の声がこだました。


「あっ、やっぱり。おーい、アレックスさんーー! あと……ええと……助手さん!」


「え? あの子って……」


「マーゴじゃねえか」

 

 どうしてマーゴが?

 私がカラバーンに引っ越して間もない頃……アレックスに人探しの依頼をした女の子だ。コリーを探してと。

 コリー……あれは忘れられない案件。


「マーゴ……髪を切ったのね」と私。


 栗色の長い髪は短くなって、肩にかかる位置でそろっている。それだけで明るく活発な女の子で、別人のように見えた。


 








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