第15話

 前提として、MGメタルゴーレムは基本的に陸戦兵器である。

 大元のゴーレムが岩の巨人だった事もあり、その運用、戦術は地上戦を基本に形成されている。

 が、エベークでは近年「空中から相手を一方的に攻撃する」事を目的とした、飛行機能を持つMGの開発が進んでいる。

 おおよそは戦闘機のような高速化による強襲・一撃離脱戦法ヒットアンドアウェイの方向にまとまりつつあるが、このマーチン・ドックは三次元軌道による遊撃を提案。

 その思想で完成したのが、ティルトローター機への変形機構を持ったこのベルジャイラーなのだ。


 バラララと二つプロペラを鳴らしながらベルジャイラーを滞空ホバリングさせ、呆然としているゼノンカイザーを見下しマーチンは爆笑した。

 

「見たかぁっ!!MGメタルゴーレムによる三次元飛行の確立を!!これぞ我が才能!!我が科学!!天才マーチン・ドック様の大発明だァァ!!」

 

 下部の二連装ビームカノンが火を吹き、ゼノンカイザーを狙う!

 

「ぐうわああ!?」

 

 回避行動を取ろうにも、着弾する度に大爆発を起こして発生する衝撃波は、ゼノンカイザーを四方八方から苦しめる。

 

「はははははっ!!貴様の性能も弱点もハットマン軍曹との戦闘データで解析済みよ!その装甲の強靭さもな!!」

 

 警邏隊を蹴散らした時もそうだったが、立場的には極秘の任務なのにハットマンの名を出す=自分の所属を断言レベルで匂わせるのはセーフなのか。

 

「だが動かしているのはあくまで人間!!勇者だの救世主だのと崇め奉られようと貴様は所詮疲労も溜まれば腹も減る人間よ!!」

 

 いや、セーフなのだ。少なくとも彼らサウザンナイツにとっては。

 証拠を握ったとしても、エベーク連合よりも遥かに国力で劣るアウスロス帝国は強気に出られないというのもあるが、正体を知った所で相手を今から始末してしまえば問題ない。


「そして吾輩がいるのは空中!!空を自由に飛べるベルパンツァーに、地上を駆けるしかない貴様の攻撃は届かん!!」


 精鋭部隊たるサウザンナイツには自身があるのだ、敵対した相手をこの場で必ず始末できるという絶対の自信が。

 

「このまま貴様が疲弊して息果てる様を、吾輩はここからテレビゲームで遊ぶように楽しませてもらうぞ!!はーっはっはっは!!」

 

 今のゼノンカイザーはさながら、息もつかせぬ連続攻撃によって倒れる事すら許されない「死のダンス」を踊っているようなものだ。

 倒れかかった所を別の攻撃によって吹き飛ばされ、それで倒れそうになれば別の攻撃により吹き飛ばされ。

 反撃しようにもゼノンカイザーには飛行能力も無ければ空中の相手を狙い撃つ銃のような飛び道具もない。

 

「どうする!?このままじゃジリ貧だぞ!?」

 

 自身に言い聞かせるも、勇者的な打開策にも汚い手段も思いつかず苛立つレージ。

 

「(ああせめて、あの時考えた追加武装があれば………!)」

 

 過去の玩具としてのゼノンカイザーとの空想遊びブンドドの中で考えた強化装備さえあればという、ないものねだりな上に現実逃避に走りそうになったその時、援軍が現れた。

 

「撃てーーーっ!!」

「たわばあっ!?!?」

 

 ノリノリでゼノンカイザーをいたぶっていたベルジャイラーが、突如飛来した火線によりまたも横に吹き飛ばされる。

 何だ?と見上げるゼノンカイザー。何をする?と飛んできた方向を睨むヘルジャイラー。して、そこには。

 

「ふっふっふ!助けは遅れて来るものでございますぞ〜!」

「コットン教授!!」

 

 そこにいたのは久々の登場となるコットン教授と、彼に率いられて援護にかけつけた街の警邏隊だった。

 しかし疑問が一つ、彼等はどうやってヘルジャイラーに一撃お見舞いしたのか?

 

「さ、さ!警邏隊の皆様、引き続きお願いします!」

「お任せください、教授!」

 

 コットン教授の指示により警邏隊が構えたもの、それは剣でも槍でも弓矢でもボウガンでもなく………。

 

「じゅ………銃!?」

 

 説明しよう!

 魔法の基本は魔力と魔術回路であり、簡単な魔法ならあらかじめ記された魔術回路と宝石等の魔力充填機関があれば詠唱を簡略化して発動できる。

 これを応用し、魔力を充填する宝石を中心に基本攻撃魔法であるファイアボールの魔術回路を組み込んだ銃身を持ち、引き金を引く事で魔導師でなくとも攻撃魔法が発動できる、魔法の杖ならぬ「魔法の銃」が完成した。

 それがこの、アウスロス帝国軍試作兵器「マジックガン」である!

 外見は持ち手に赤い宝石を埋め込んだ某魔法少女のマスケット銃を想像してほしい。

 

「マジックガン隊、構え!」

「撃てーーーっ!!」

 

 横一列に並んでズダダダンと一斉に放たれる火線は、さながら関ヶ原の鉄砲隊のよう。

 ファイアボール自体は初歩的な攻撃魔法のため威力は低いが、十数人から一度に放たれるとなればMGを吹き飛ばすなど容易である。

 

「こっ、この亜人種ゴキブリどもが調子に乗りおって!!ビームカノンで吹き飛ばしてくれる!!」

 

 マジックガンの一斉掃射を受け、今度は自分が「死のダンス」を舞う事になったベルジャイラーのコックピットで吠えるマーチン。

 しかし彼が警邏隊を下部のビームカノンで吹き飛ばそうとした時、彼は自らが作ったこの機体の弱点を思い知るが事になった。

 

 ………さて、ベルジャイラーは試作機である。もっと言うと、制式採用が見送られた試作機である。例えで言うと日本一有名な量産機に対する自爆エンジン付きのアレみたいなやつである。

 不採用の理由としては、マーチンの提唱した空中戦における三次元機動が実戦において有効的とは言えなかった事。

 そしてもう一つは、その三次元機動には圧縮された高エネルギー固体=宝石を山のように用意した量と同じ電力が必要な事。つまり燃費の悪さ。

 そんなベルジャイラーが死のダンスだなんて格好をつけるためにビームカノンをバカスカ撃てば、当然………。

 

「博士………」

「何だこんな時に!」

「ガス欠です………」

「そんな事………へ?」


 おそらくプロペラ部が反応したのだろう、バスンッ!と音を立てて回転が止まる。そうなれば機体を浮かせる事はできなくなるので、ベルジャイラーの巨体は重力に従って地上に落下していく事になる。


「おわばぁああああ〜〜〜〜!?」


 ズドムッ!!とベルジャイラーは地面に叩きつけられた。

 プロペラはひしゃげ、まともに戦う力すら残っていない。


「あで、ででで………ひいっ!?」


 そんな状態で、ベルジャイラーは再びゼノンカイザーと対峙する事になる。因果応報による形勢逆転だ。


「弱き立場の人々を罪に走らせ、あまつさえ発電所を破壊して国を脅かした報い………受けてもらうぞ!」


 ゼノンカイザーが胸の発光体が輝き飛び出した柄を掴み、引き抜く。すると一振りの実体剣が現れた。


「ゼノンブレェェーーードッ!!」


 これぞゼノンカイザーの得意武器にして必殺武器・ゼノンブレード!

 勇者のメインウェポンが剣なのは、人もロボットも同じである。

 

「ひいいっ!どうにかしろ!」

「無理です博士!動けません!!」

 

 動けないベルジャイラー向けて、ゼノンカイザーは背中のバーニアを噴射してベルパンツァーに真っ直ぐ斬り掛かかる。

 そして!

 

「ライジング………ぁぁーーーーーん!!」

 

 ベルジャイラーは剣の一撃によって斬り伏せられる、悪役機に相応しい末路を迎え、内部機能の誘爆により大爆発を起こした!

 

「わ、吾輩の頭脳が負けるとはぁぁ〜〜っ!?!?」

 

 そしてマーチンと部下の兵士達もまた自機の爆発の中から飛び出した脱出カプセルに乗って空の彼方へと吹っ飛んでいき、三流の悪役のようにキランと星になった。


「ふう………あっ」


 勝利を収めたレージはモニター越しに見た。

 遠く、城壁の中から空へと柱のように伸びる、魔法による美しい光を。

 あの光の一つ一つの中に命があり、生活がある。

 そう思うと、レージの心は熱くなった。


「レージさんが守った光でございますよ」

「僕が守った光………」


 美しい夜景は、レージの勝利を称えているようであった。

 

 

 ***


 

 ………この後、アウスロス帝国は社会福祉と弱者を狙った犯罪幇助詐欺、すなわち闇バイトへの摘発を強化。

 弱者を騙し、悪の道に走らせようとする不届き者は段々と姿を消していった。これでもう、マーチンのような悪党が付け入る隙はないだろう。

 

 が、その前に。

 

「………ただいま、ママ♡」

「ふふ♡待っていたわぁ、僕ちゃん………♡」

 

 今日の戦いを終えたレージは言いつけ通り就寝までに帰ってきた。

 しかし、彼に個人的な寝室は与えられていない。

 パジャマに着替えて向かうは女王ベアトリーチェの寝室。

 部屋に入った途端、お香の甘い香りと共に、屋根付きのベッドの上で誘うベアトリーチェの姿が目に飛び込んできた。

 

「ああっ♡僕ちゃんもこんなに滾って………♡」

「あっ、ま、ままっ………♡」

 

 戦いの後という事、お香に含まれる媚薬成分。

 そして日中来ていたネグリジェとは別のレースの透けるタイプのそれから覗く特注の下着からむちぃぃっ♡と誘う爆乳とぶっとももが、まるで食虫植物がごとく、ズボンにテントを立てたレージの小さな身体を吸い込んだ………


「ままっ♡まますきぃっ♡」

「ママも好きよ僕ちゃあん♡♡♡」

 

 ………この後、偶然見つけたらしい消音魔法の綻びから「おほぉおおおっ♡♡♡」という何かのモンスターが唸るような咆哮を聞いた者がいたとか、いなかったとか。

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