第三章「救世主参上!あいつが噂のゼノンカイザー」
第11話
サウザンナイツによる亜人種への弾圧に誰もが黙っているワケではない。各地には亜人種や亜人種への差別心を持たない人間により結成された反エベークレジスタンスが息を潜めている。
そして、そんなレジスタンス達のネットワークの中心こそアウスロス帝国であり、帝都リバーティア。
もっとも、やってる事自体は他所の反政府ゲリラの黒幕という形のため、流石に公言はしていない。故にエベーク連合も大義名分がないため堂々と攻め込めない。
………表面上は。
そして、そんな帝都リバーティアにも朝日が昇る。
国家の姫とその夫の予定の親衛隊隊長の出発でありながら派手なパレードの類が無いのは、それが極秘の軍事作戦だからだ。
「陛下はあなたに立派にやるように、と」
「お母様も、若い夫が出来たからと羽目を外しすぎないようにとお伝え下さい」
本来はリーベルト一人が反政府レジスタンスとして参加する予定だったが、エミリア姫まで出向かなければならなくなった理由は、彼女が魔術師として優れていた事と彼女の持つ政治的価値に由来する。
これ以上のゲリラ戦を続けていてもジリ貧だと悟ったアウスロス帝国は、勇者召喚に成功した事もありここで一気に勝負に出る事にした。
してエミリア姫は、彼等の政治的正しさを証明するために必要であり、今はまだ伏せるが国力と戦力で劣る亜人種側が逆転勝利するために必要な「切り札」なのだ。
「隊長がいない間も王家は守り抜いてみせます!」
「ああ、俺も姫様を全力で守る」
朝焼けの中、行商の馬車に紛れてリーベルトとエミリアは出発した。この
勇者召喚より二週間ほど過ぎた頃の、後に歴史の大きなうねりを生み出す出来事であった。
………さて、これを読んでる皆様はこう思ったのではないだろうか?
「普通そこはリーベルトじゃなくて勇者であるレージの出番では?」と。安心してほしい、しっかりレージの出番はある。
もっともそれは、おおよその想像するファンタジーRPGの
***
まるで反エベーク政府ゲリラの本拠地とは思えないほどに、帝都リバーティアはその日も平和であった。
『こちらオカシュンから7キロの時点では未だ激しい戦闘が………ああっ!逃げてー!』
「うひゃあ………先週でこれならもう陥落してんじゃないか?」
街をよく見れば気づくが、鏡屋だと思って入ると売っているのは各地の報道が見れる魔法の鏡。
「くうううっ!!ビールがキンキンに冷えてやがる!!」
「真っ昼間から酒盛りしてんなよ………」
雑貨店にある木箱の中は氷魔法でキンキンに冷えており、瓶詰めの飲料が売っている。
「えーケンタウロスタクシー、ケンタウロスタクシーは………」
車が見当たらないのは、おそらく亜人種の身体能力を持ってすれば"作る必要がない"からだろう。
パッと見の街の様子がよくあるファンタジーRPGで見る物のため分かりにくいが、パンタジア世界の文明レベルは我々の世界とかなり近い。携帯電話の類が見当たらない事を見ると、おおよそ80〜90年代の日本が一番近いかも知れない。
電力のポジションに魔力、電子機器のポジションに魔法があると思ってもらえばいいだろう。ジャンルとして名付けるならスチームパンクならぬ「マジックパンク」か。
そして人と亜人種が共存するその街では、其々が其々の長所を活かした仕事につき、物流と経済を回している。
………しかし現実の世界がそうであるように、絶対なる平和などあり得ない。どんな国にも事件は起きる。たとえば「犯罪」とか。
「いらっしゃいま………せええ!?!?」
あるエルフ達が営む宝石店にて来客があった。と思いきや次の瞬間、入り口が巨大な拳で吹き飛ばされ、店内に破壊の嵐が舞う。
「な、何だ!?何があった!?」
「て、店長!!ごごご、ゴーレムがぁ!!」
騒動を聞きつけた宝石店の店長が見たのは、破壊された宝石店の玄関からこちらをのぞき込むリバーティアではまずお目にかかる事はない、重機に手足を生やしたような………某公国の象徴たるザクザク歩く一つ目のアイツの最初の試作機のような、3mほどの鉄の巨人。
「殺されたくなかったら店の宝石を全部よこせ!!」
土木作業用ゴーレム「ドボック」を操る人間の青年は、コックピット越しに宝石商のエルフに対して脅しをかける。こいつがあればお前らなんか三分でイナフだと。
説明しよう!
パンタジアにおけるゴーレムは、確かに最初は我々の想像するような魔術で動く石の人形であった。
しかし時が経つに連れて鉄で動き、内部に術者を乗り込ませる………所謂ロボットのような姿を取る事が増え、いつしかこのような乗り込み式のロボット重機の総称となった。
アウスロス帝国のような亜人種の国では重機のポジションはオーガのような大柄の種族が、精密作業はドワーフのような手先の器用な種族が担当する為まず見る事はなく、人間技術の象徴のような認識をされている。
いくら亜人種と言えども、ゴーレムに殴られればひとたまりもない。そしてエルフ達も取り扱う宝石に対する愛情はあったが命は大事。
「へっ、生意気なんだよ亜人種が宝石なんぞ!こいつは俺が有効活用させて貰うぜ」
泣く泣く、ゴーレムの持つ大きなケースに宝石を詰め込むエルフ。ケースが満杯になった事を確認した青年は、ドボックを走らせて去ろうとする。
白昼堂々と行われる蛮行、だが忘れてはいけない。
この帝都リバーティアには勇者がいる事を。
「おい、あれを見てみろ!!」
先程まで町中で暴れるドボックに怯えていた亜人種や人間達が、この場に迫る何かを見つけて騒ぎ出す。
青年もそれに気づき、ドボックを操作して人々が見つめる方に目をやる。そして見えたのは、ホバー走行でこちらに真っ直ぐ向かってくるなんとも言えない乗り物………そう、ゼノンランダーだ!
「チェーンジ・ゼノンカイザーーッ!!」
飛び上がったゼノンランダーが起き上がり、腕が飛び出し足が飛び出し、最後に頭が飛び出した。
ビークル状態のゼノンランダーは瞬く間に変形し、正義のスーパーロボット・ゼノンカイザーとなり悪党の前に降り立った!
「おおっ!ゼノンカイザーだ!!」
「勇者が来てくれたぞ!!」
暴虐の嵐に待ったをかけるかのように現れたゼノンカイザーに沸き立つリバーティア市民だが、ドボックを操る青年としては全く面白くない。
「そこの強盗犯!盗んだ宝石を今すぐ返せッ!」
「何を気取りやがってガキが!ガキはガキらしく
喋るたびにビカビカと目を光らせるゼノンカイザーの姿も青年の神経を逆撫でしたらしく、ドボックは戦闘用に取り付けた鉄球の腕を振り上げて向かってきた。
「ベアトリーチェ様のおっぱいと言ったか!?おのれぇ!!」
「おっぱいをおっぱいと言って何が悪い!?」
街のど真ん中でドボックとゼノンカイザーの取っ組み合いが始まる。
放たれる言葉こそ感情をむき出しにした罵倒の応酬だが、よく見ればゼノンカイザーは周囲に被害が出ないようにドボックを取り押さえている。
「お前みたいな奴を見ていると吐き気がするんだ!お前みたいな………」
「どーーーん!!」
「わああ!?腕がああ!?」
うるさい!と言うようにドボックの鉄球アームが握り砕かれた。バラバラになった鉄球を前に、青年はゼノンカイザーの持つ
「どりゃああ!!」
「ひいいっ!?ほ、宝石がぁ!?」
間もなく、今度はゼノンカイザーの拳がガキィン!!と叩き込まれる。
殺される!と思った青年であったが、ゼノンカイザーが貫いたのは逆の方の腕………宝石を入れたケースを持っていた方だ。
ケースと一緒に腕が地面に落ちる。だが、そこで終わりではない。
「はあっ!!」
「わああ!!今度は足ぃ!?」
今度は回し蹴りでドボックの脚部を粉砕!
三分もしない間に手足を破壊されたドボックは、そのまま地面に倒れ込む。衝撃の走るコックピットで青年は揺さぶられ、あちこちに頭をぶつけてしまう。
「あでっ、いでで………ひいいっ!?」
コックピットハッチがベリベリと剥がされ、青年は仁王立ちするゼノンカイザーと目が合った。
更に言うと騒ぎを聞きつけた警邏隊が、身動きできないドボックを青年を取り囲んでいる。視界に映る全てがゲームオーバーだと、青年に突きつけているようであった。
「た、頼む!見逃してくれぇ!俺には病気の家族が………」
「なら取り調べで全て正直に話して、釈放される日が一日でも早くなるよう勤めるんだ。もっとも、その病気の家族がホントに居ればの話だけどね」
そんな
「チェーンジ・ゼノンランダーーッ!!」
ガシャガシャと手足が折りたたまれ、ゼノンカイザーは再びゼノンランダーに変形し、走り去ってゆく。
「ありがとうゼノンカイザー!!」
「勇者様ありがとうー!!」
「ああっ!これでまた宝石店が再開できる!」
称賛を浴びながら去ってゆく姿はまさに正義のヒーローであったが、そのコックピットに座るレージの顔には疲労感が浮かんでいた。
勇者らしい格好をと言われて身につけたシャツにズボンに簡素な青い胸当ての鎧の勇者レベル1セットであるが、それさえも少々寂しそうに見える。
「ヒーローらしくって言われてたのに怒っちゃった………精進しないとなあ」
何故なら、今回のようなヒーローをやる事こそ、レージに課せられたミッションなのだから。
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