第7話

 ロボットを倒していいのはロボットだけ。というのは、なろう原作でありながらスーパーなロボットの大戦への参戦というシンデレラストーリーを歩んだ、とあるファンタジーロボット作品の主人公の残した名言である。

 おそらく同時期にやっていた孤児達の物語における鉄の弓矢への皮肉と云われているが、それはそれとしてこの名言に対するツッコミもある。

 何故ならロボットアニメという一連のジャンルにおいて、ロボット以外………とりわけ生身の人間が巨大ロボットを圧倒する展開など珍しくないからだ。

 ある時はバイクで、ある時はゲリラ戦法で、ある時は超能力で、ある時は超人的な拳で、彼等は作品の面白さを維持しつつ巨大ロボットと渡り合う。

 人それを「生身ユニット」と呼ぶ。

 

「大人しくしてもらおうか」

 

 落下し、地面に叩きつけられたゼノンカイザーのコックピットをこじ開け、自分とコットン教授に剣の切先を突きつける黒髪のイケメンを前にレージが抱いた感想はそれだった。

 なんとなく某眠れる森の美女に出てくる悪い魔女………をモチーフにした乙女ゲーのぼっち扱いされるイケメンに似た感じで、頭からヤギを思わせる角が生えているのも似ている。

 しかしマントの下に着ているのはシャツに胸当てと二振りの剣を収める鞘のみという簡素な防具であり、一番の違いはマントと背中の間から見える悪魔のような翼と、燃える赤い目。

 なるほど、空を飛んでいたのは翼によるものであり、この国を治めているという竜人とは彼のような種族を指すのだろう。

 

「………軽率な行動によりお騒がせしたのは心の底から謝ります」

「当然だ」

「でも、僕一応あなたの味方なんです」

「だから何だ」

「僕、味方から攻撃されたんですが」

「知らんな」

「ワタクシだって乗ってたでございますよ!?」

「国の平和を脅かすなら誰であろうと斬る」

「………味方で誤解でも、ですか」

「ああ、それが騎士の使命」


 こちらに非があるのは自覚していたが、警告なしにいきなり味方から攻撃され、壁から突き落とされたとなってはいい気分はしなかった。しかも、コットン教授も巻き添えだから余計に。

 これがレージと彼………アウスロス帝国王宮親衛隊隊長「リーベルト・フルーゲル」との最悪の出会いであった。

 

 

 ***

 

 

 その後、一応街の人々の誤解は解けたらしく、中央にそびえる西洋様式の荘厳な城へと連れて行かれる際にゼノンカイザーの姿に驚く人こそいたが、恐れる人はいなかった。

 もっともそれは、ゼノンカイザーの前にこの国の人々にとっての強さと正義の象徴であろうリーベルトが居たからというのもあるのだが。

 

「へっ、イケメンが気取りやがって!ムカつくでございますな!」

「確かにムカつくけど………そこまで?」

「当然!イケメンは全男性共通の敵!それを私は大学で嫌と言うほど見てきたのですぞ!!」

 

 大学に行かず、尚且つ幼少より顔のいい男達がクソデカ感情をぶつけ合う仮面の単車乗りの番組を見て育ったレージはイマイチピンとこなかったが、既婚者のコットン教授が今なお嫌悪をむき出しにする様は大学で受けた"経験"がどれほどのものかを物語る。

 コックピットにてコットン教授の恨み節の数々を聞かされながら進み、レージは王城に到着。

 そして有無を言わせず、謁見の間………よく王様が勇者に使命を命じていたり、プリンセスの結婚式で使われるあの場所に連れてこられた。

 

「これから貴様らはエミリア様とベアトリーチェ殿下に謁見するのだ。くれぐれも妙な真似をするなよ」


 王族の親衛隊らしく、さっきのような馬鹿な真似はするなよと釘を刺すリーベルト。

 コットン教授はリーベルトが心底気に入らないのか、リーベルトが離れると同時にベーッ!と舌を出す。


「………ごめん教授、エミリアとベアトリーチェって誰?」

「エミリア様はこの国のお姫様、ベアトリーチェ様はそのお母様で、この国を統治する女王殿下でございますぞ」

「統治………王様はいないの?」

「随分前に崩御しましたぞ」

「ふうん………」


 気になったから聞いたが、これ以上無駄話をすればリーベルトが怖いので、それ以上はレージも詮索をやめた。

 と同時に「偉大なるベアトリーチェ殿下、エミリア様に、礼ッ!」というリーベルトの号令が聞こえ、親衛隊一同がザッ!と剣を地面に突き立てる。どうやら女王と姫の王族母子が………このアウスロス帝国のトップに立つ女帝がついに現れたようだ。


「(はっ………はうああっ!?!?)」


 瞬間、電流が走った。

 亜人種達のクイーンとプリンセスはいかほどかと思っていたレージであったが、その表情はすぐに驚きで見開かれる。

 

「はじめまして、エミリア・アウスロスです」

 

 まずは娘でお姫様のエミリア姫こと「エミリア・アウスロス」の方だが、こちらは特段おかしくない。

 ふわっとしたピンクのボブカットにぱっちりしたピンクの瞳、そして姫の名に相応しい桃色のドレス。

 なんというか、ストンとしたスレンダーな体型も合わせて、女の子の心を傷つけげきりんにふれないよう配慮に配慮を重ねた日中のアニメ………具体例を挙げるとプリティな癒やし手キュアなアレに出てくるような、そんな女の子である。

 しかし竜人ドラゴニュートのお姫様らしく、頭には小さな角が申し訳程度に生えている。

 

「あなたが召喚された救世主様ですね?私はアウスロス帝国の女王、ベアトリーチェ・ネ・アウスロスです」

 

 問題は女王、前述のエミリア姫のお母さんである「ベアトリーチェ・ネ・アウスロス」である。

 

「遠い所から………別の世界からよくお越しくださいました。この国を代表して貴方を歓迎します」

「は、はいっ!レージ・ヒノデ、ですっ………!」

 

 このベアトリーチェ・ママン、あまりにも妖艶でエロい。娘の女性読者への配慮されたデザインを無に帰してこれは男子の夢と欲望のつまった物語なのだと再確認させるほどにエロい。

 白磁の陶器を思わせる白い肌に、泣きぼくろのある垂れ目がちの目に輝くピンクの瞳。ぷっくりした唇は赤い口紅によってぬらぬらと光り、桃色のウェーブがかかった長髪は娘の「女の子が好きなピンク色」じゃなくて「ドスケベの象徴たる淫乱ピンク」になってしまっている。

 そして何より特筆すべきは。

 

「(おっ、おっ、おっぱい、でッッッッ………かぁっ………!)」

 

 明らかに娘の夢の国なお姫様的デザインラインのそれとは明らかに方向性の違う、ディアンドルをベースに発展したような赤と黒のドレス………どこぞの女魔王のそれを思わせる大きく開いた胸元から覗く、これまた見事な二つの南半球。

 レージが小さな小学生の身体になっている事を考慮しても、そのバストはあまりにも巨大であり、豊満が過ぎた。

 釣り鐘状の顔より大きな乳房により形作られたマリアナ海溝がごとく深いIの字の谷間が、彼女が僅かに動くたびにゆさっ♡ずしっ♡むにゅん♡と質量と柔らかさをこれでもかとアピールしている。

 まさに、男を誘う食虫植物のよう。油断すると吸い込まれてしまいそうになる、固定資産を通り越して抑止力としても使えてしまいそうな超級質量兵器がそこにあった。

 

 ………イメージとしては、某駄々っ子怪獣のお母さんを美熟女擬人化した姿を想像して貰いたい。角のデザインは違うが。

 周囲と比較して一人だけ作画の「圧」が強いように見えるのも同じだ。

 

「(な、なんですかあのママさんは!?おっぱいもそうだけどスカートの膨らみから推測される太ももやお腹は………アニメでヒロインのお母さんがエロいのは常だけど、これはあまりにも段違いが過ぎやしないか!?例えるなら艦◯の中に一人だけバ〇オロイドがいると言うか、プ◯キュアのキャラの中に一人だけ対◯忍がいると申しましょうか。明らかにママさんだけスケベの格が違う!もう爪先から頭の天辺に至るまで全身を取り巻く全てがドスケベで構成されている!こ、こんな人物が異世界とはいえ存在していいのか!?というか俺以外は何故こんな平然としていられるんだ!?インポか?!インポなのか!?この世界の男達は!!)」

 

 それは感動と言って差し支えないだろう。エロ漫画家か同人絵描きの妄想の中でしか存在を許されないようなスケベの化身が、現実に存在する人物として目の前に現れた。

 いわゆる絵で抜くオッサンの蔑称で呼ばれてきた人種であるレージにとって、自分を肯定してもらえた気がしたのだ。

 当然、端から見ればベアトリーチェの豊満なバストに鼻の下を伸ばしているようにしか見えず、見抜いたコットン教授は無言で呆れていたが。

 

「………貴方を救世主と見込み、頼みたい事があります」

「はひっ………な、なんでしょうか?!」

「ふふ、そんなに緊張しなくてもいいんですよ?」

 

 バストの柔らかさと並ぶベアトリーチェの柔らかな微笑みに完全に挙動不審になるレージを、リーベルト筆頭の親衛隊達は冷ややかな目で見ていた。

 彼等は日々王族や市民を守るべく自らを鍛え、美学と団結により牙なきものの牙となる剣士達。こんな目に見えてわかる、何の努力もせずに救世主と呼ばれるような、ましてやベアトリーチェの美貌に鼻の下を伸ばすようなレージを、男として認めるわけにはいかない。

 

 ………が、ベアトリーチェがレージにした「頼み」は、ある意味ではそんな彼等の、特にリーベルトの信頼を真正面から裏切ったとも取れるものだった。

 

「あなたを娘の婿として王族に迎え入れたいのです♪」

 

 レージは唖然とした。

 コットン教授は顎が落ちた。

 いきなり当事者となったエミリアは状況が飲み込めず思考がフリーズした。

 

「なんと!?」

「殿下!何を………!?」

 

 親衛隊がその愚行としか思えない判断に騒然となる中、リーベルトだけが冷静………という訳ではなかった。

 確かに表面上は落ち着いていたが、彼の中でのレージの評価は、鬱陶しい羽虫から駆除対象の害虫に変わっていた。

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