この世界には信じられないことばかりだ
煮干しの悩み
第1話 選択肢
朝の日差しを受け、私は朝食にありつく。
今日は祖母が家にくる日だ。
そして、私の今後の人生を左右する大学入試の合格発表の日でもある。
私は、昨日の夜から緊張と不安で寝られていない。
祖母が家に着いてから合否連絡を母、私、祖母の三人で見る事になっている。
私が朝食を食べ終わる頃に母が私に買い物を頼んできた。
「律(りつ)。 律の合格祝いのケーキを買ってきて。もうすぐ、お婆ちゃんが到着するから急ぎで!」
「はーい」
私は食べ終わった食器を台所に持っていき母からお金を預かると、そそくさと家を出た。
まだ、合格しているかなんてわからないのにお祝いのケーキだなんてとてつもなくハヤトチリである。
私は、そう思いながらも自転車のペダルを強く踏んだ。
春の空気全身で受け止めながら自転車を走らせる。
最高の気分だった。
大学受験期の殺伐とした空気から解放され、体が軽くなったことに喜びを感じていた。
ケーキ屋さんに着くとすでに母が予約をしていたらしく、完成されたものが出てきた。
プレートには、合格おめでとうの文字が。
私はため息をつき、お金だけ払って来た道を戻った。
道中、不合格の字が頭をよぎった。
すでに、滑り止め一つとっている。
後は、第一志望校の合否だけ。
それでも、もし不合格だった場合、私は二人にどんな顔をすればいいのだろう。
空気もかなり気まずくなるに決まっている。
そんなことを考えている間に自転車は家の前まで私を運んでいた。
自転車を元の場所に片し、家に入ると玄関には祖母と母がいた。
「律。久しぶり、また背が伸びたかい?」
祖母は私に声をかけてきた。
「うん。多分ね。受験勉強のしすぎで逆に縮んだかも」
私は冗談まじりに祖母に返すと祖母は大きな声で笑った。
「そうかいそうかい。あんたも相変わらず元気そうだねぇ。受験お疲れ様。さぁ、合格祝いをしようか」
「お婆ちゃん。気が早いって。まだ結果すら見ていないのに。とりあえず、パソコン持ってくるわ」
私は急いで自分の部屋からパソコンをリビングへ移動させた。
上に行くと母が待ちきれない様子で私を待っていた。
私は、パソコンのケーブルをコンセントに繋ぎ起動させた。
いよいよ、結果発表だ。
第一志望の大学のマイページを開く前まできた。
私は唾を飲んだ。
母と祖母は私の後ろからパソコン画面を覗き込んでいる。
「行くよ」
私は母と祖母の顔を交互に見た。
二人は声を出さずに頷く。
この結果で私の人生が左右する。
私はもう一度唾を飲む。
カチッ。
私は合否が載っているマイページへ飛んだ。
「え」
私は開いてすぐに絶望した。
そこには大きく書かれた三文字の漢字が。
母、祖母共に言葉を失ってい固まっていた。
しばらくして、母と祖母が空気を読んだかのように話し始める。
「まぁ、律、お疲れ様。ほら今回の合格祝いはさ、滑り止めの合格祝いだし、第一志望校は倍率が高かったからしょうがないよ。ほっほら、ケーキ食べよ!っね!」
「そうだよ。あんたは頑張った!その合格祝いさ!」
さっきまで二人とも合格してるってノリノリだったくせに。
そう思いながら私は悔しい気持ちを噛み殺していた。
さすがに落ち込んでいる私を見て母と祖母は目を泳がせていた。
すると母はケーキの準備をするからとその場を後にし、祖母は私と向かいの椅子に腰を下ろした。
祖母は私になんて声をかければいいのかわからず長い十分間一言も話さなかった。
母がケーキと紅茶を持ってくる頃には私の中で全てがどうでもよくなっていた。
私は無言でケーキを食べ始めると、母と祖母は急に真剣な顔をして口を開いた。
「律。ほんとに受験お疲れ様。律はほんとによく頑張ったよ。こんな時にほんとに申し訳ないのだけどさ、母さんと
お婆ちゃんから律に話したいことがあるの」
申し訳ないと思うなら話すなよと思いながらも私は母さんの話に耳を傾けた。
「私達、離婚する事にしたの。」
「…ん?」
私はあまりに唐突な話に耳を疑った。
「うん、ごめん。何の話?」
聞き間違いだと思い、もう一度母に確認した。
「私達、離婚する事にしたの。それで、律(りつ)に母か父か。どちらの子でありたいのか選んでもらいたいの。」
私の頭の中は真っ白になっていた。
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