ep42.5 【最終話】君に溶ける【※】

※主に性描写です。ご注意ください。




「……言っておくが、私はまだいじけているのだからな」

 口を尖らせわざわざそんなことを溢すと、ヴァンは俺に緩く噛みついた。


 いじらしい構ってちゃんだ。

 

「では、俺は陛下のご機嫌とりをさせて頂いても?」

 そう言って俺はアルヴァンドの上に跨った。


 アルヴァンドの髪を掬って口づける。

 額に頬、首筋をなぞって鎖骨へ。胸からゆっくりと腹筋を撫で、へそへと唇を這わせた。

 キスをしながら堪能するようにアルヴァンドの身体を辿る。


 アルヴァンドは眉を寄せてじとっと俺を観察していたが、俺の唇からの焦らすような刺激に息を乱し、身体をよじりはじめた。


 俺は腰まで辿り行くと、羽織を脱がせてアルヴァンドの内腿を開かせた。

 淫らなポーズになったアルヴァンドの腰で緩やかに熱を帯びはじめた一物が露わになる。


 俺はそれをゆったり眺めながら、優しく口づける。

 先端を舐め、根本から舌を這わせて形を辿り、口に咥え込む。

 アルヴァンドは自分のそれを口に含まれると微かに喘ぎ、足をさらに淫猥に開く。

 俺の頭を両手で緩く掴み、続きを催促した。




 俺は緩やかな口淫をはじめた。

 激しく刺激せず、ゆったりと舐めあげ、音を立てながら啜り、先端を啄む。

 たまに口にもどして深く咥え、唇を上下させた。


 アルヴァンドは天蓋を仰ぎながら小さく喘ぎ、気持ちよさそうに堪能している。

 腰を自ら柔らかく揺らし、みるみる昂らせていく。


 薄いカーテンに包まれたベッドの中は、口淫の艶めかしい音とアルヴァンドの微かな吐息、悶える衣擦れ音だけが静かに響き、ふたりの情欲の高ぶりとともに熱気を帯びていった。


「……、ぁ……気持ちい……」

 俺の動きにあわせて腰を揺らしながら、アルヴァンドは快楽に身を任せる。

 アルヴァンドの身体はしっとりと汗ばみはじめていた。


「……ん、イっていいよ……ヴァン」

 そう囁き、屹立し蜜をたらすアルヴァンドのそれから、丁寧に精を引き出すよう舌を這わせた。

 片方の指で袋を弄びながら、もう片方で優しく扱いて愛撫する。


 アルヴァンドは刺激の波にどんどん腰を浮かせていく。

「ぁー……う、ん……グレイ、イきそ……あっ」


 溢れる寸前を察した俺が奥まで咥えて強く吸うと、アルヴァンドはびくりと跳ね、口の中に精を放った。


 俺の髪をくしゃりと掴んだまま、小さく震える。

 放ち終えると髪に絡めていた指を離し、息を乱しながら俺の顔を覗きみた。


 俺はそんなアルヴァンドを見つめ返しながら、溢さないよう丁寧に舐めとり、こくりと口に放たれた白濁を飲み込む。


 アルヴァンドは少し頬を赤らめ、怪訝な顔をした。

「……飲むなと、いつも言ってるだろう」


「美味しくて、つい」


「その言葉に嘘が感じられないのが、私は恐ろしいよ」

 呆れたようにアルヴァンドは言う。


「ヴァンのものは何でも極上だよ。そう言うヴァンこそ、いつも俺のを飲むじゃないか」


「私はいいんだ。君のものはすべて、私のものなのだから」

 砂漠の王は当然のように暴論を言い放った。


「ふっ。傍若無人な皇帝であらせられる」

 俺はそう言うとアルヴァンドの手の指を愛おしく舐め、甲にキスをして、その手を引き寄せた。


 座っている俺の上にアルヴァンドを抱きあげる。

 アルヴァンドは膝立ちで俺に跨ると、嬉しそうに俺を見下ろしキスをせがんだ。




 俺たちは抱き合いながら深く口づけを交わす。

 アルヴァンドの頭を優しく撫で、腰に手を回して抱きしめると、額を擦り寄せて甘えてくる。


 アルヴァンドはすっかりご機嫌のようだ。

 ……まぁ、俺がベッドに来た時点で言葉とは裏腹に終始ご機嫌だった気もするが。


 俺はアルヴァンドの腰を少し浮かせて、指先に生成魔法を発動した。

 アルヴァンドは魔法の気配を察すると、俺の指先に自分の窄まりを当てがり、欲しがるように腰を逸らす。

 いやらしいこと、この上ない。


 一本指を入れて少し動かしただけで、アルヴァンドの後ろはすぐに解れはじめた。

 くちゅくちゅと音を立てながら中を掻き回すと、さらに熱を孕んだ内側は解れていく。

「……ん……指、もっと」

 アルヴァンドは物足りな気に指をねだる。


 指先からの刺激を腰で追いながら、アルヴァンドは一本また一本と指を呑み込む。その度に甘い声を漏らす。

 先程一度果てたにも関わらず、その先端には蜜が溢れ滴っていた。




 俺はアルヴァンドの胸を舌で転がし、たまに強く吸いながらアルヴァンドの身体が蕩けていくのを愉しんだ。

 アルヴァンドに触れるたびに自分の下半身に熱が昂るのを感じた。


 指が三本まで入ったところでアルヴァンドの後ろはトロトロに解れた。

 顔を見上げると、アルヴァンドは欲しくてたまらないと言わんばかりの顔で俺を見下ろしている。


 俺はアルヴァンドに膝立ちのまま背中を向けさせ、窄まりに自分の先端を当てがう。

 ヴァンは後ろをきゅうと引くつかせた。


 アルヴァンドの腰を引き寄せながら、勢いよくずぐと奥まで突いた。

「っ……んぁっ……!」

 ヴァンはとびきり気持ちの良さそうな嬌声をあげた。


 俺も膝立ちになり、後ろから突き上げる。

 背中に口づけ腰を抱き締め、幾度も強くアルヴァンドの身体を激しく揺らす。


「あっ……ぅあっ……グ、レイ、グレイ……!」


 アルヴァンドは何度も俺の名前を呼び、律動にあわせて腰を前後させ快楽を貪る。

 胸を逸らせて内壁で俺の屹立を強く擦らせた。


「……っ……ヴァン、く、ぁ……」


 あぁ、気持ちがいい。


 アルヴァンドとの情事は、身体も心も蕩けるほどに心地良く刺激的だ。

 愛おしい気持ち、独占欲に庇護欲のようなひとりよがりな感情、アルヴァンドに触れてきた誰よりも彼を悦ばせたいと思う陳腐な競争心まで。


 全部が溢れ出し、快楽とともに膨れ上がる。


 快楽の波はどんどん大きく強く押し寄せ、アルヴァンドは高く甘い嬌声で喘ぎだす。

 俺はアルヴァンドを強く抱き締めたまま前方へ倒れ込み、覆い被さった。


「……やっ、あっ、んっ、ぁっ」

 角度をかえた容赦ない抽挿にアルヴァンドは悶えながら喘ぎ声を上擦らせた。


 ベッドシーツを掻き乱すアルヴァンドの手に、俺も手を重ねて捕える。

 寸前まで膨れ上がった快楽を吐き出そうと、より激しくアルヴァンドと自分の腰を揺らした。




「……ヴァン……っ中に、出していいか?」

 俺のその言葉に、アルヴァンドが驚いた顔でこちらを見上げた。


 アルヴァンドには何度か催促されたこともあったのだが、俺はアルヴァンドの中で吐精したことはない。


 記憶を辿る限り。一夜の相手に自分がしたことも、相手にされたこともない。

 一時の相手しか関係を持たなかった、俺なりのルールだ。


 アルヴァンドはこれまでの経験上、哀しいかなその考えにピンとこないようだったので「相手への責任と許可なく中出しする男はクソやろーだ」とだけ教えといた。


 アルヴァンドは多分、初めて出会った夜から今に至るまで、俺に特別な好意を寄せていたと思う。

 でも、俺なりに線引きをしていたつもりだった。


 だって、アルヴァンドは帝国の皇族だ。

 しがない侍従の俺とどんなに熱をあげようと、本気で恋に堕ちて添い遂げることはない。

 そういうものだと、割り切るようにしていた。




 だけど、もう。

 俺はヴァンのもので、ヴァンは俺のものだ。


「グ、レイ……欲しい。中に、全部ほしい……っ」

 アルヴァンドは止まらない律動に追いつめられながらも、俺の言葉に琥珀の瞳を蕩けさせ、許可をくれた。


 興奮が増したのか、後ろの締めつけがきゅうと強くなる。

 その姿と言葉にそそられ、俺はさらに深くを穿ち上げた。


「ヴァン……! っぁ……くっ……」

 達するのを感じ、自分でも制御できないほど律動はさらに速く激しくなる。


 アルヴァンドは四つん這いで俺に腰を突き出し、背中をしならせ、最奥まで俺を受け入れる。

 その内壁に漲ったそれがぶつかるたびに刺激に喘ぐ。


 アルヴァンドの甘い嬌声と、身体がぶつかりあう激しい律動音とともに、一際強く腰を突いた最奥で俺は精を放った。




 ヴァンは俺の熱いものを奥に感じるのと同時に再び自らも達し、絹のシーツに白濁を飛沫させた。


 俺はヴァンの奥にゆったりと吐精し続ける。

 不規則に吐き出されるそれを、中を満たすように押し込みゆったり掻き混ぜた。

 ヴァンがそれを隅々まで感じられるように。


「あー……、あ……、グ、レイ……ぁ、ふ……」

 俺に応えるように、ヴァンは腰を震わせて奥の熱に感じ入っていた。



+++++



 ベッドに掛かっていたカーテンを開けると、情事のむわりとした熱気は乾いた砂漠の風に流れていった。


 アルヴァンドはもう何度目かの交わりで果てたまま、くったりと眠りについてしまった。

 美しくも愛らしい顔で寝息を立てているアルヴァンドにそっとキスを落とす。




 俺は身体中に情事の充足感と倦怠感を感じながら、しばらく遠くまで続く砂漠と満点の星空に浮かぶ月を眺めていた。


 アルヴァンドはふと目が覚めたのか、琥珀の瞳を開いてそんな俺を見上げ、傍に来るよう俺の手を引く。

 横になって抱きしめると、アルヴァンドは小さな花が綻ぶように微笑み、俺の胸に顔を埋め再び寝息を立てはじめた。



 俺はその姿をみて、胸が苦しくなるほど想いが込み上げた。



 俺が予知に頼りながらメルロロッティ嬢と未来を手繰ろうとしていた時。

 同じように、ヴィルゴやアルヴァンドもそれぞれの願いのもと動いていた。

 ラヴィもレリウスも。

 きっとゼクスだって、願うものがあったはずだ。



 それらが少しずつ噛み合って、繋がった今だ。

 その歪な世界の、なんと愛おしいことだろうか。



 そんな世界で寝息をたてる愛する人を大事に抱きしめ、俺は瞼を閉じて眠りについた。

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