【OOO―スリーオー―】〜人生が反映される異世界オンラインゲームで、デスペナ重複した俺が持てる力は“勇気”という見えないパラメーターだけだった話。〜

you-key

【変換世界2025】

『そうだ、異世界に行こう!!』

第1話『世界は娯楽を求めている』


 今から十七年前にあたる、2013年の春、その現象は突如起きた。

 何の前触れもなく、地球全土に降り注いだ謎の光。

 眩い光は虹のように輝き、流星群が降り注ぐように世界各地で、同時に目撃されていた。

 それに対し人々は「世界の終わりだ……」「何かの吉兆かも……」など、多種多様な憶測で囁かれ、世界中で物議を醸していたらしい。

 当初、自然に消滅すると考えられていたその光は、人々の予想を反し消えることなく、地球に降り注ぎ終わると、その光を数か所に収束させて、やがて小さな無数の門を形成した。


 ……ああ、その通り。現実的に考えたら、まぁありえないよな。

 だけど、その事象は実際に起きたんだよ……。


 そして、今現在では『ゲート』と呼ばれるようになった、その光の集合体。

 粒子が収束し形成されて出来たその門は、世界最大のオープンワールドオンラインゲーム……『オプティマイズ・オルタナティブ・オンライン』へログインするための施設として、現在も世界各地に点在している。


 世界各地、日本だけでも約二百箇所以上存在する『ゲート』は、当初は邪魔な建造物として撤去も考えられていたそうだ。

 しかし今となっては無くてはならない存在として、なんなら世界でもっとも人が訪れる場所として、記録されているだろう。


 そんな地球に降り注いだ謎の粒子は、どこぞの研究者により『アストラル・ボディ・パーティクル』……頭文字を取り、通称『ABP』と名付けられて研究を続けられた。

 『ABP』は人体に影響する……始めはそれが悪影響なのだと考えられていたが、人体を電子情報化するという、なんとも奇妙で特殊な力を発揮する性質は、ある一点への関心として捉えられていた。


 それこそが……まさにゲームへの転用だった。

 VRもまだ発展途上だった時代に、その粒子を使ってオンラインゲームを作ると言い出した人間を、俺は尊敬するよ。

 今でこそ、VRなどを用いたゲームが多く存在する中、人体そのものをデータとしてゲームをプレイさせるなんて、現代の人間じゃ不可能だと思われていたからな。

 だけど、実際にそれを完成させちゃうんだから、人間が持つ娯楽への欲求は本物だと思う。それだけ、世界の娯楽への関心は高いということであり、オタクカルチャーが世界で人気な理由の証明にもなった。


 粒子……『ABP』が発見され、解析され研究され、ゲームへの転用が決められてから七年の歳月が経過した。

 そしてついに2020年、満を持して完成したのが、先も言ったオンラインゲーム――『オプティマイズ・オルタナティブ・オンライン』という訳だ。

 『オプティマイズ・オルタナティブ・オンライン』……通称『OOOスリーオー』。


 え?オルタナティブは“A”だろって?

 その通りだ……なんか当時、カタカナ表記の『オプティマイズ・オルタナティブ・オンライン』の頭文字で、3オ。スリーオ……『OOOスリーオー』となったんだってさ。何故“O”になったのかは、ゴロが良いからだとか?『オオオ』って表記よりは、確かに格好いいけどな……。

 あとは、開発者がオルタナティブを“O”だと勘違いした説もあるが、どっちだろうな。ご表記から定番になったのは、面白いと思うよ。

 因みに、『オッサン』……って呼ぶ人もいるらしい。オが三個だから。


 とにかく、開発から七年、当時の人たちのリアクションは様々で、「ようやくかよ」「忘れてたわ」「なにそれ」「期待してない」「今更」など、現在の熱気が嘘のようなリアクションだったらしい。

 そう……今では手の平が綺麗に返されて、絶賛の嵐を巻き起こしている訳だ。


 そんなゲームの開発と同時期に、俺たちは生まれた。

 『ABP』が降り注いだ2013年、『オプティマイズ・オルタナティブ・オンライン』の開発が開始された年に生まれた俺たちは、頭文字の“オ”三つとBabyの“B”を繋げ、『OOOBスリーオービー』と呼ばれている。そこは“ベ”じゃないんだよな。

 自分たちは、なんの変哲もない一般的な子供だと思っているが、偉い学者か研究者か知らないが、『ABP』……あの謎の粒子と関連があるんだと言い出した。

 その結果何故か、開発が開始されたばかりのゲームの名を冠した子供たちとして生きている。


 そんな馬鹿なと思うだろう?しかし実際、ある特殊な事例も確認されいていた。


 俺たちが十二歳になった年、2025年。

 『OOOスリーオー』は誰でも遊べるゲームであるが、年齢制限もきちんと定められている。満十二歳まで、ログインは禁止なんだ。

 そんな中、初めてログイン出来るようになる十二歳の年、海外勢の少年たちが先んじて『OOOスリーオー』にログインし、そこで高確率で起きた異常な事態。彼等彼女等は、とても高い確率で……ゲーム上における、最上位のアビリティやスキルを所持できる可能性を秘めていることが判明したんだ。

 高確率と言っても、プレイ人数=人口(当然プレイしてない人も大勢いる)であるこのゲームで言えば、数値自体は低いのかも知れないが、それでも、ゲームのサービスが開始されて以来の珍事を、誰も疑うことはなかったとか。


 そしてそれは、ここ日本でも起きている。

 なにせ、俺たちがその当事者なんだからな。日本でも、『OOOスリーオー』のログインは十二歳からだ。

 満十二歳になる年に、政府から贈られてくるゲームのログインIDが記録された、専用の携帯端末……名前は『オーディナル・データカード』。通称『ODC』。

 端末なのに名前がカードなのは、御愛嬌だ。


 そんな俺たちを含む以降の世代は、政府から勝手に発行されてくるが、それ以前のプレイヤーたち(古参プレイヤー)はわざわざ申請が必要だったらしいな。

 全世界の全人類が遊べるとは言え、やはりルールは必要。重犯罪者なんかは、『ODC』を所持することも許されないそうだ。『ODC』は現実での身分証としても機能しているから、経歴なんかはバッチリ反映されるんだよ、これ。


 俺たちが初めてその世界、『OOOスリーオー』の世界に行った時の感動は今も忘れないさ。現実でありながら異世界のような世界に行ける。

 しかも好きなときに、何度でも行き来できる……最高の娯楽であり、子供たちにとっても、大人たちにとっても、最高の遊び場となった。

 『OOOスリーオー』は、簡単に言えばVRゲームだ。現実とは違う姿と名前で、異なる世界を冒険できるのだから、現実に嫌気が差した人たちの逃げ場所にもなっている。


 しかも驚くことに、『OOOスリーオー』内では時間の流れが違う。

 現実時間で一時間、たったそれだけの時間で……『OOOスリーオー』の中では三時間も経過するのだ。遊び放題じゃねぇか。

 『ゲート』に入った俺たちの身体は、『ABP』の影響で粒子化されているらしく、その粒子は『ゲート』内に貯蔵され、なんと現実では身体が消滅しているのだとか。

 最初学校で説明されたときは、頭の上にクエスチョンマークを何個も浮かべたぞ……。


 時間経過は末恐ろしいもので、現実での一日(24時間)が、『OOOスリーオー』では三日(72時間)という時間差を生む。

 それは、子供たちの精神的成長にも一役買った。俺のようなバカは、ゲームで遊ぶことばかりを考えていたが、賢い子供は『OOOスリーオー』内で勉強をしているそうだ。

 なにせ小一時間ゲームをするだけで、二時間の勉強時間を設けられるんだ……そりゃあ遊び以外にも用途を見いだせるというもの。


 しかも上手いことに、ゲームの運営はそれを逆手に取って、『OOOスリーオー』に反映させている。何が言いたいかと言うと……ステータスに反映されるんだよ、現実の行動も、ゲームの行動も全て。

 『OOOスリーオー』では、初ログインの際に現実の身体をスキャンするのだが、『ODC』を用いて詳細な事柄まで数値化される。

 現実での自分が、この『OOOスリーオー』でデータとして変換されるのだ。

 例えば、運動が得意な人間はその数値……ゲーム的に言うとSTRやVITが高く、頭の良い人間はINTやRSTに影響が出やすいのだ。

 影響が出やすいというだけで、アバターなどは完全に現実とは違う。しかし難点は、そのアバターはキャラクリ出来ないと言う点か。


 『OOOスリーオー』に初ログイン時、勝手に三種のアバターが作られるのだが……初ログイン時の適正年齢のアバターに、そのアバターが大人になったバージョンと、更に歳を重ねた壮年期のアバターまで、ご丁寧な用意だと思うよ。

 しかしキャラクリが出来ないのはダメージが大きい。当時の俺は少しポチャッていたし、そういう子供たちは理想のボディを手に入れたいお年頃……というか、大人だって、せめてゲームのアバターはイケメンだったり美女にしたいだろうが!


 更に、プレイヤーネームもランダムなんだぞ。

 一応ゲーム内には“名前変更”、“ボディメイク”が可能なアイテムや施設があるので、大きなディスアドバンテージにはならないって説明されたけどな。


 さて……このゲームの成り立ちは、こんな所だろうか。

 長々と説明をして悪かった。話を聞いてくれてありがとな!!


 次は、そうだな……俺たち、『OOOBスリーオービー』の子供たちが初めてゲームをプレイした五年前。俺、ハヤトこと……鶴木野つるぎの勇十はやとが友人たちとゲームを遊んだ2025年、記念すべきプロローグを聞いて欲しい……。




――用語――

・『オプティマイズ・オルタナティブ・オンライン』 通称『OOOスリーオー』。本来は『OAO』となるはずが、カタカナの“オ”でOとなった。英表記では普通に『OAO』である。

・『オプティマイズ・オルタナティブ・オンライン・ベイビー』 通称『OOOBスリーオービー

・『オーディナル・データカード』 通称『ODC』(そのままオーディーシー)。

・『アストラル・ボディ・パーティクル』 通称『ABP』(そのままエービーピー)。

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