『君の心を攫いたい!!』
アルパカ狂信者
君を攫(さら)いたい!!
「
帰り道、やたらと早足で歩く、けれどもギリ追いかけられる、位のそんなスピードで、歩くバイト先の後輩でもあり好きな人でもある、
「ハァ……。あのねぇー、
そう関西弁で喋りつつ、キリリと奈々がこちらを睨む。
「あははは……。不真面目ですいませんねぇ……」
実は、電車の時刻を覚えてないのは笹木と一緒に帰る口実だったりする。
「後、一応にもバイト先の先輩を呼び捨てって、どうなの?」
「……年齢は一緒、やろ。今、バイト中、ちゃうし。それに、なんなら誕生日は私の方が早いし……」
「……へぇ?というか、誕生日覚えてくれててたんだ?」
誕生日を覚えてくれたという事実だけで密かに、胸が高鳴る。
「べ、別に、たまたま見て覚えてただけで……。ほ、ほら、急がないと電車来てまうで……」
笹木が、焦った様にそう言って暫くの間無言でいつも通りの帰り道を少し早歩きで歩くと、駅が見えてきた。私は、リュックサックの中をガサゴソと、探って通学用の定期券を取り出す。ピッ、という聞き慣れた電子音と共に改札を通り、駅のホームまで早歩きで歩く。
「まもなくーー駅行きが参ります」
アナウンスが響き、私達は更に、歩を早めた。
来た電車は、『急行』だった。奈々は私と過ごすのはそんなに嫌、と言う事なのだろうか。
「急行が発車致します」
駅員がそう言って、電車が緩やかに加速を始める。
奈々は携帯を弄っていて、いつもの如く私達の間に、会話はない。やっぱり、奈々は私の事が嫌いなのだろうか。まぁ、二人で黙っているだけの時間も、別に嫌いでは無いし、むしろ特別って感じがして好きだ。というか正直、好きな人と居れるのならば、どんな時でも楽しいというのが本音だった。最近寝不足な事もあってか、イスに座ると共に一気に眠気が襲ってきて、いつしか私は真っ暗闇な夢の中へと堕ちていた。
ーーーー
「田舎駅、田舎駅」
駅員のアナウンスの声に気づいて、私は目を覚ます。
「……ハッ!ヤベッ!乗り換えなきゃ!!バイバイ!バイト、お疲れ様!」
そう言って、私はなんとか、乗り換えの駅に降りる。
「……たっく。起こしてくれれば良かったのに……」
起こしてくれなかったのは、『急行』で奈々が私を攫いたいとか、そんな理由だったりなんだろうか?と、そんな有り得もしない夢物語を夢想しながら、私はいつもの帰路に着く。
「ま、そんな事有る訳が、無いんだけど……」
ーーーー
「あーあ、行ってしもた……。後、ちょいやったんに……」
私は、笹木 奈々は、他人には聞こえない位の声で遂、小さく呟いていた。
君は、しっかり目覚めて、帰路に着いてしまった。急行に乗って、そのまま君が寝過ごして君の事を少しでも
「君を攫うには良い方法や、って思ったんやけど……」
これは、君と一緒に居たいというこの想いは、私には過ぎたる我儘な願い、なのだろうか。
「発車致します」
電車が緩やかにしかし、確実に動き出す。いつも通り、いつも通りの1人の日常だ。
私はハァ……と、溜め息を吐いた。いつか君にこの想いを伝えられたのなら……あわよくば。電車のがたんごとん、という走行音が響く中、暫しそんな夢物語を夢想する。嗚呼、私の心はこんなにも貴女に攫われているというのに。何だかドッ、と疲れが出て来る。そのせいだろうか、ゆっくりと、しかし確実に眠気が襲って来る。電車で眠たくなる理由の一つは『耳の奥にある前庭器官が感じる「前庭感覚」が影響している』とか、なんとかーって、いつか見たTVで言ってたっけ……と、そんな事を不意に思い出す。そして、そんな事を考えていたら、いつしか私は夢の中へと誘われていた、らしい。
ーーーー
「……ん、……さい。……さん、下さい。」
「んっー?もう、食べられへんてー。あと、50杯追加でぇー」
「お客さん、終着駅ですよー。起きてくださいー」
「えー、そんなアホなー。……えっ?」
『終着駅』という、パワーワードに頭が覚醒するのが、解った。
「うわっ!やばっ、寝過ごしてしもたやん!……す、すいません!直ぐに、降ります……!」
君と私を攫うはずだった『急行』の電車が1人になった私を『終着駅』という見知らぬ土地へと、と攫ってしまった訳だ。全く、なんて皮肉な話なんだろう。
「はぁ……。こんな事になる位やったら、『急行』やなくて、『普通』にしとけば、良かったんかなぁ……。乗る電車」
そんなセリフと共に溜息が遂、口から漏れ出る。
嗚呼。貴女の、霧無 ミアの心を
(完)
『君の心を攫いたい!!』 アルパカ狂信者 @arupaka-kyosinzya
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