第二章、崩れ往く栄光

似合わない英雄

ここは【魔導帝国】首都ゼノラナ。

今日はいつにも増して騒がしい日となった。


対【神聖マヨネーズ】戦争は終結を迎え、【魔導帝国】が勝利を収めたという吉報が国中を駆け巡ったためである。


人々は歓喜に溢れ、【魔導帝国】の安寧を望んだ。


その二日後には祝勝会を執り行うと皇帝は宣言、明日にはその前夜祭が行われるのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ほら、英雄ビールお待ちどうさん」

「……あぁ、ありがとう」

「何だそんなシケた面は、今回はお前や他の英雄の為のお祭りなんだぜ? 主役なんだし、もっとしゃきっとしな!!」

「こういうの慣れてなくてよ」


いや、本当に慣れてねぇんだよ!!

本当に……どうしてこうなったんだ?!


俺の名前は遊田ユウダ 竜胆リンドウ

こっちの名前だと怒羅魂ドラゴンだ。


本来なら荒くれプレイするはずだったってのに、なんでいつの間にか英雄扱いになってんだよ!!


こんなはずじゃねぇっての!!


それによぉ、研露の奴も全然姿現さねぇし。

このゲーム初期スポーンがランダムだから、無茶苦茶遠い所スポーンしたんだろうな。

試しに【魔導帝国】とか【神聖マヨネーズ】とか何とか国の名前羅列してみたけど、あんまりピンと来てなかった様なんだよな〜どれだけ遠くに居るんだよ。


「はぁ……」

「大将、俺も英雄ビール一丁」

「はいよ」


何だ、こいつ急に俺の隣に座ってきやがって。

全然見ねぇアバターに名前、さては最近プレイした勢だな。

もうすぐで夏休みだからシーズンなのか?


「なんで、そんなに暗い表情なんだよ。下戸か?」

「うっせ、おめぇには関係ねぇよ」


そう言いながら俺は英雄ビールをガブ飲みする。


現実ではアルコールのせいで酒なんて飲めねぇけど、ここはゲームだから、いくらでもヤケ酒が出来るってもんだ。

なんかぼやけてる感覚だけが身体にフィードバッグして、現実の身体には何も影響が出ねぇってんだから、技術の進歩は凄まじいな。


「お前、知ってるか。俺の隣に座ったからには愚痴を聞かなくちゃいけないんだぜ」

「おいおい、この国の英雄様がそんな事していいのかよ」

「んな嫌がらずに聞いてくれよ〜実はな――――――」


俺はこいつに愚痴という愚痴をぶちまけた。

こいつが一体どんな奴かは知らねぇが、不躾に俺の隣に座ったのが悪い。

黙って聞きやがれってんだ。


「こら、新人の子に愚痴を聞かせないの!!」

「んぁ? 何だフラーペか」


こいつの名前はフラーペ。

いわゆる良い子ちゃんで分け隔てなく優しい女だ。

フラーペもまた、俺と同じく英雄の一員。

そして、俺と違って英雄を誇りに思ってる事だろう。

俺は埃に思ってるが。


「はじめまて、トロです」

「トロ君、こんな人の愚痴なんて聞かなくて良いのよ」

「八つ当たりの邪魔するなよフラーペ」

「私が代わりにその対象になってあげても良いけど?」

「お前愚痴に真面目に付き合うタイプだろ、めんどくさいからパス」


そんなこんなで前夜祭はお開きとなった訳だが……はぁ。

え、本当に授与式出ないと駄目か?


「授与式を欠席するなんて、私が許さないんだから!!」

「皆の前で凄い凄いって言われるんだろ? 調子狂うんだよそういうの」

「駄目よ、怒羅魂ちゃん。称賛を素直に受け止めなくちゃ」

「うぐぐ…………」


フラーペ、人ってのは褒められ慣れてねぇと素直に受け止められねぇような奴になるんだぜ。

いや、本当は受け止めるべきなんだろうな、こういうの。

成り行きだけど、勝ちは勝ちなんだ。


「…………こんな姿、研露に見せらんねぇよな」


いや、本当に。

もしあいつがこの姿を見たとしたら「英雄? いやいや、似合わね〜」って笑うんだろうな。

俺も似合わねぇと思う。


「その研露ちゃんというのは怒羅魂ちゃんのお友達?」

「リア友なんだが、かなり遠くの場所にスポーンしたみたいでよ。昔はそいつとヤンチャしてたんだよ」

「きっとその子も怒羅魂ちゃんみたいに可愛いんだろうね」

「そりゃ、どういう意味だ?」


全く、俺は似合わない英雄だよ。

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