第16話

「七瀬君が助けてくれなかったら、どうなってたかわかんない」



「でも俺、いっぱい殴ったし」






焦ったように早口になる彼の言葉を、わたしはじっと待つ。何か伝えようとしてくれている。聞かなきゃ。わたしが聞かなきゃ。






「……昔からこうなんだ。歯止めきかなくて、やり過ぎる。気づいたときにはもう向こうは動いてない。昨日もそうだった。ごめんなさいって何回も聞こえたのに、止められなくて」



「……うん」



「痛かったと、思う」



「うん」



「……お礼なんて言われていいヤツじゃない、俺は」







みんなに恐れられて、1人で、1人きりでいつもいる七瀬君からは程遠い言葉だった。




はじめて聞く彼の声。それが紡ぐ言葉たちは、どれもとても切ない。今にも消えてしまいそうな七瀬君の両手を、わたしは自分の両手でそっと包む。

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