第15話

沈黙が広がる。もう最初の授業が始まっているだろう。しーんと静まり返った廊下に、わたしたちの呼吸音が溶ける。





「なんで」





それを破ったのは、七瀬君だった。





「なんで……」



「七瀬君は、優しいね」






つい、と七瀬君が顔を上げた。はじめてきちんと向き合った。七瀬君の瞳は、丸くて、ビー玉みたいに綺麗だ。






「わたしのこと、巻き込まないようにしてくれたんでしょう?」



「……違う」



「オジサンに連れてかれかけたなんて、みんなに知られたら嫌だもん。考えてくれたんだよね」



「違う、そういうわけじゃねえ」



「ありがとう」








七瀬君が目を見開く。ゆらり、ビー玉が揺れる。切なげに、揺れる。

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