第8話

ぴたり。音が止んだ。





「ねえ、七瀬君でしょ?」





声が出た。はじめて呼んだ。はじめて呼んだ、クラスメイトの名前。





「七瀬君」





金色はじっとそこにいる。振り返らない。暗闇で顔はよく見えないけれど、ぼんやりとしたシルエットと金色は、間違いなく七瀬君のものだった。





わたしは毎日七瀬君の後ろ姿を見ている。見間違えるはずがない。





「あの、」





そう言って声をかけようとすると、金色はふらりと動いた。





驚いている間に七瀬君はゆったり歩いて、遠ざかっていく。







手を伸ばせば届くし、



もう一度声をかけたら止まってくれたかもしれない。






だけど臆病なわたしは何も言えずに、その場にとどまることしかできなかった。

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