第16話 塩試合

――闘技場(VSスライム開始直前)


 私、感激!

「いやぁ、アダダさんすごいです。我慢して香水を使っているなんて!」


「フフフそうかなぁ……って、あッ!そういえば、さっきから君、ずっと、アダダさんって呼んでいるしょッ!それは今すぐ止めてくれないかッ!」

「分かりました!」


 アダダさんもとい、ライカンスロープのお兄さんは、

「それじゃあ、良い戦いを頼みますよッ!」

 と、笑顔で言って、


 次に観客に向けて叫びます。

「さぁ!いよいよ初心者バトルが始まるぞッ!みんなーー!!」

「キャーー!素敵ーー!!」


「レッツファイ!!」


 なるほど、やはりこのお兄さんは司会兼レフェリーといったところでしょう。……ん?バトルが始まるぞッ……レッツファイ!!


 と、いうことは……。


「ギペペ……ブジュ……ぺ」

「……」

「ギュペペ……」

 抑制の魔法が解かれたのでしょう、さっきよりも、アグレッシブに動いています!スライムが!こっちに寄ってきたぁ!


 そして、改めてよく見てみますと、うわぁ……、半透明のボディには何かの頭蓋骨が埋まってますよ……牛かな羊かな山羊かなぁ。


「う、うわ、うわ……」

「ギュビィビィギシャア!!」



 私は……、


「ギペッ」

「あわっ……わっ」


 とにかく吐き出される強酸を避けて、


「ギペッ!グチュア!」

「あっ!ちょっと服が、溶けた!」


 がんばって強酸を避けて、


「グペァァ!」


 強酸を避けました。


「うわぁ!」

 たくさん強酸を避けた後、スライムが疲れた?のでしょうか、その隙を突いて、棒で叩きます!


「えい!」

「ギィィィ……」 


 テキドナカタサ杉の棒ヒット!

 

 お……!ちょっとダメージを与えたかも!


 と、いうところで、

「す、ストップ!ストップッ!」


 ライカンスロープのお兄さんが突然、戦いを止めました。ずいぶんと焦っておられます?何故?ちなみにスライムが、またピタリと動かなくなりました。


 すると、お兄さんは小声で、

「ちょ、ちょっと君……何をしているだい?」

「はい?バトルですが……」

「バトルですが……じゃないよッ!もっと積極的に攻撃しなきゃ!全然、盛り上がらないよッ!ほら、見て!客席を!みんな、シーンとしちゃているだろぉ!塩試合だよ!ダメだよッ!」


 いや、私、私なりにベストを尽くそうと思いまして。


 小学校のドッジボールを思い出し、回避に専念して、がんばって戦っていたのですがね……うーむ、これ以上、どうすれば……。


「君、何かないのかい?特技とか?」

「いやぁ、なにせ改造されたばっかりでして……

特技についての説明もありませんでしたし」


ライカンのお兄さん、ますます焦る。

「と、とにかく、思い浮かべてみるんだッ!魔法は、だいたいそんな感じで使えるから!ねッ!」


「うーむ、私、魔法は使えないらしいのですがね……たしかにもしかしたらなんらかのモンスターパワーが発揮されるかもですね……やってみます」


「それじゃあ、今度こそ、頼むよッ!レッツファイ!」


 私は試しに集中してみます……。


「……」


 うん、出ない!

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