第21話 安田二号
白金先生が赴任してから一か月ほど経った、ようやく残暑も去り、文化祭を目前に控えた日のことだった。
いよいよ安田先生が二年三組の担任として復帰するらしい。当然、我々歴史部の面々は戦々恐々である。
白金先生と一緒に朝のホームルームに安田先生が登場すると、はたして教室は騒然となった。
「おかえりなさい」「お疲れっす」「元気ですか!」「おめでとうございます」
様々な言葉が飛び交う中、安田先生の第一声は軽薄窮まる挨拶だった。
「おー、皆さん、お久しぶりっこ、おはようさんさん、サンバイザー」
元々にやついたところのある先生だったけど、それをはるかに通り越して吉本の漫才師のようなキャラになっていた。
「先生、頭、大丈夫ですか」
思わず声をかけたアリッサに向かって、「おー、アリッサ、サワディカップ、Fカップ、さわっていいかー」と、漫才師を通り越して不適切にもほどがある下ネタギャグが炸裂した。
クラスメイトは不自然極まりない彼の変化に戸惑いながらも、「まあ、元気になってよかったんじゃない」と受け入れているようだった。
放課後、白金先生が私たち二年部員四名に集合をかけ、部室に参集した。
開口一番、彼女は我々に問いかけて来た。
「ねえ、彼は本当に安田先生なの?」。
私は、彼女の問いを質問で返した。
「それ以前に、白金先生、白金先生じゃないですよね。先生こそいったい何者なんですか?」
彼女の正体を不審に思った私は、図書館にあった昔の卒業アルバムを確認した。確かに四年前に白金唯という女性はいたが、卒業写真を見る限り似てはいるけど別人だ。
「あちゃ、もうバレちゃった?」
悪びれることもなく、彼女は話を続けた。
「同じ公務員でも私は実は警察官なの。ま、そっちの方はおいおい説明するとしてさ、安田先生は以前からあんな感じなの?」
今まで無表情で無言を貫いていた宇宙くんがいきなり核心に触れる発言をした。
「以前の安田明とは同一ではない、彼は二体目」
「え、二体目って?」
「彼はアルファケンタウリ星系第四惑星の生命体が生成した対人類コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイス。我々歴史部と思想的に対立し、攻撃を仕掛けてきたため、やむなく破壊した」
宇宙くんのあまりの話の内容に、さすがの白金先生もたじろいだ。
「ごめん、喜屋武君が何を言っているのか、私にはさっぱりなんだけど」
と、突然、宇宙くんが会話を遮って立ち上がった。
「防御に失敗した。位相が変化している。注意」
きょとんとする白金先生をしり目に、私たちの脳裏にあのゴキブリ事件の記憶がよみがえった。
「またなの!」
宇宙くんが、いつもの抑揚のないことばで、続けた。
「完全に空間を乗っ取られた。警戒」
やがて、部室の隅の床に水たまりのようなものが広がり、中からタコの頭のようなものが現れ始めた。次第に全身を現したそれは、身の丈が私たちほどの、一昔前のウェルズの小説に出てくるようなタコ型の火星人だった。
「撃て!」
八本の足を動かして、さわさわとこちらに向かって来ようとする火星人に、姫乃の 言霊魔法が発動した。椅子が勢いよく火星人に向かって飛びだした。
椅子は見事に火星人に命中し、転倒させたものの、火星人は怯むようすもなく立ち上がった。
「撃て!」
二脚目、三脚目の椅子が命中する。火星人は倒れるもののすぐ起き上がってきて、どうやらダメージは与えられていないようだ。
ようやく我に返った白金先生が、きちきちと手にした特殊警棒のようなものを伸ばすと立ち上がろうとした火星人に殴り掛かった。
私とアリッサも掃除用具箱からモップを取り出して、三人でタコ型火星人をタコ殴りした。
殴るとよろけ倒れたりはするもののダメージを受けている様子はなく、気を抜くと立ち上がってこようとする
腕がだるい、息が上がる。私たちの体力は限界に近づいていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます