第16話 決着

 宇宙くんは、一人神社に向かって走り出していった。


「大丈夫?」

 アリッサは私を介抱しながら、「あー、最悪」と呟いた。

「過去の人間と一緒にタームワープしちゃったよ。重大な規律違反で、良くて厳重注意と始末書、減俸とかの懲戒処分までいっちゃうかも」


「喜屋武くん、ひどいよ。ペアの私を置いてきぼりにして一人で行っちゃった」

 うずくまる私たち二人に、宇宙くんに置いてきぼりにされた中野葉子さんが怒気を含んだ声で話しかけてきた。

「アリッサ、あんたのせいだよね。あなたたち、付き合ってて、それで私に嫉妬して、喜屋武くんに一人で行くように言ったんだよね」


「え、何言ってるの、私は別に」

 アリッサと中野さんの言い争いを聞きつけたクラスメートたちが私たちを取り囲んだ。味方を得た中野さんがますますエキサイトする。


「アリッサもアリッサだけどさ、姫乃、あんたもあんただよね。あんたたち、喜屋武くんと三人、グルだよね」


 喜屋武くんの親友と思っていた木場淳史がおもむろに口を開いた。

「なんか、お前ら、気に入らなかったんだよね。喜屋武、無愛想で腹の中で何考えているかわかんないしさ」


 彼の言葉が呼び水になって、周囲のクラスメートが口々に悪口を浴びせかけてくる。

「アリッサも、告ってくる男を片っ端から振りまくって、いい気なもんだよな」


「姫乃、あんたもだよ、喜屋武とアリッサと三人で、人に言えないようなプレイ、やってんでしょ」

 根も葉もない悪意を投げ付けられ、私たちは四面楚歌状態だ。


 「操られてる。安田の精神観応だ」とアリッサがつぶやいたその時だった。


「あいたっ」

 石が私たちをめがけてとんできた。 

「なにするの、止めて」


「やっちゃえ」

 クラス全員が私たちに向かって投石を始めた。

 

 今、宇宙くんは安田とたたかっているはずだ。彼が安田を倒してしまえば、クラスメートは正気に戻るはず、それまで何とか時間を稼がないと。

「行くよ、アリッサ!」

 私は正面の木場淳史を殴り倒すと、アリッサの手を引いて囲みを突破し、逃げだした。


「逃げたぞ!追いかけろ!」 

「逃がすな」


 陸上部の男子にアリッサが追い付かれ、背後からタックルを受けて転倒した。

 木の枝や、思い思いの武器を手にしたクラスメートがこっちに向かってくる。もうやるしかない。私はアリッサの前に立ち、クラスメートに向かってファイティングポーズを取った。


 最悪の状況を覚悟したところで、彼らの動きが止まった。

「あれ、俺たち、こんなもの持って、何やってんだろ」


 「アリッサ、大丈夫?」

 タックルをかました男が、心配そうにアリッサに手を差し伸べていた。 


 そして宇宙くんが戻って来た。どうやらすべてが終わったみたいだ。


 安田先生は行方不明になっていた。

 管理人に聞いても、どこへ行ったかわからないとのこと、翌朝、山歩きを中止にして皆で山の家の近所を捜索したが、とうとう彼の行方は杳としてわからなかった。


 後日談になるが、安田先生の親族を名乗る男から、校長先生宛に「重篤な病になったのでしばらく休職させる」旨の連絡があったそうだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る