第4話 宇宙、歴史部に入部
「喜屋武くんは一体何の目的のために作られたっていうの? あなたのミッションっていったい何?」
「地球人は、ここ100年で、常識では考えられないほどの急速な自律的進化を遂げた。人口は約四倍の80億人になり、それに伴って技術も爆発的に進化した。僕を作った生命体はそんな地球と地球人の強い興味を持っている」
「僕の星系の人口は地球よりかなり少なく、かつその個体数はこの百年の間もほとんど増加していない。現状は地球を凌ぐ科学技術力を持っているが、地球人のこの技術革新のペースがもう百年も続けば、あるいは逆転するかもしれない」
「興味とは良い事ばかりではない。警戒心もある。そんな地球人を監視・報告する、情報活動のために私は生成された」
滔々と続く彼の話に、私はようやく口を挟んだ。
「良い事ばかりではないって、人類が戦争ばかりやっているとその宇宙人とやらに粛清されてしまうとか?」
「私を作った生命体は平和を愛するが、地球人の出方次第では将来的にそういうことが絶対にないとは保証できない。それに我々は一枚岩ではない。同じ星系の別の惑星から来た別動隊のミッションが我々同様に監視と報告だけとは限らない」
「別動隊って? 同じ平和を愛する生命体じゃないの?」と私が突っ込む。
「地球で言うところの国や与野党くらいの意見の違いはある。地球人と違って生命体同士が殺し合いをすることはないが、地球の進化を消極的に阻害する程度の工作は行う可能性はある。また、対抗勢力のヒューマノイドを破損させるくらいのことは十分にあり得る」
「じゃ、もしかして?」
「そう。今朝の轢き逃げもその対抗勢力の差し金の可能性が高い。巻き込んでしまって申し訳ない。久我さんの面は対抗勢力に知られた。久我さんのことは必ず守るから、僕のそばにいて、僕のミッション遂行にも協力をしてほしい」
すべて彼の告白を聞き終わった私は、それでもまだ半信半疑、喜屋武くんの話を全面的に信じることはできなかった。
「分かったけど、喜屋武くんのミッションに協力する云々の部分は、とりあえず返事は保留にさせてもらっていい?」
「いい。久我さんが僕を信じ切ることができない気持ちはよくわかる。ただし、周囲に変に思われずに、久我さんと僕がコミュニケーションをとれる環境を作っておきたい」
「今のままの関係ではまずいかな」
「教室で他のクラスメートに話を聞かれると面倒。付き合っているとか、変な噂が立つことも、久我さんの安全を確保する上で好ましくない」
私は空手の心得があるからそんな心配は無用とも思ったが、彼と教室でこんな電波系の話をするわけにはいかない。
「それじゃ、喜屋武くん、歴史部に入部してよ。そうすれば部室で話ができるわ」
「了解した。入部する」
「それから、私のことは久我さんじゃなくて姫乃≪ひめの≫って呼んで。私は喜屋武くんのことを宇宙≪そら≫くんって呼ぶわ」
「分かった。久我さん…姫乃がそうしたいならそれでいい」
これにて打合せは終了、私は彼のマンションを出て帰路についた。
それにしても、地球人コンタクト用ヒューマノイドって、ということは、彼と恋人同士になることはできないんだ。
「私は別に、彼がヒューマノイドでも構わないんだけどな」
彼の方に恋愛感情や生殖能力がないのでは仕方ない、そんなことを考えながら、私は黄昏時の道を家路についた。
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