時間投資によるオーバー文明開化
ちびまるフォイ
便利で不毛な時間
『この小説なんかを読んでるそこの君!
そんな無駄な時間があったなら、
時間が足りない天才に投資しよう!
レッツ・時間投資!!』
やたらテンションの高い海外の広告が目に飛び込んだ。
バツを押そうとして広告先を開いてしまう。
すぐに戻るつもりが、サイト内の情報に心が奪われた。
「時間を投資すると……見返りにお金がもらえるのか!?」
いつも金欠で地を這いずりながら生きている自分。
願ったりかなったりの内容だった。
「時間の投資先は……誰でもいいか」
どっかの国のすごそうな人に時間投資をした。
将来の寿命が短くなるだろうが、今金が入ればそれでいい。
時間投資によりあっさりお金が銀行に振り込まれた。
こんな桁数の金額を見たことがない。
「時間投資サイコーー! どんどん投資していくぞ!」
お金を使い切ったらまた時間を同じ人に投資。
それを繰り返しては毎日自堕落で最高な日々を過ごしていた。
時間投資の影響もあってか、
自分の投資先であるどっかの天才は大活躍。
すごげな研究をバンバン発表し人類文明は大いに進化した。
「すごい……ついにスマホは食パンサイズまで大きくなったのか」
最新技術の進歩は加速度的に上昇し。
スマホに付属するカメラは蜘蛛の目玉より多い。
今は撮影したら3Dモデルで再現できちゃう。
憧れのあの子の等身大パネルなんてプリンターですぐできる。
まさに文明開化の元年となった。
そんな折、投資先の天才が自分のもとを訪れた。
「〇〇さんですね?」
「あ、え? まさかあの有名な天才さん!?」
「はいそうです」
「マジか!! 時間投資してくれたお礼に?
いやあ、そんな気にしなくていいのに。
俺は時間投資の見返りにお金も受け取ってるし……」
「逆です。これ以上、時間の投資をしないでください」
「……へ?」
「今、私の1日の時間が何時間かご存知ですか?
1日が600時間ですよ。世界から時間投資を受け続け
今や私は1日を終えるのに25日分の時間を消費する必要がある」
「むっちゃ寝れてラッキーじゃないですか」
「バカ言わないでください。他の人は私に研究を求める。
600時間を休まず働かせられているような状態なんですよ!」
「そう言われても……。
こっちだって時間はいらないけどお金はほしいし。
いまさら時間投資を辞めるつもりはないよ」
「でしたら、こういうのはどうでしょうか。
これまで通り時間投資をしても良いです。
ですが、投資された時間はお返しします」
「え!!! いいんですか!?」
「こっちはこれ以上時間はいらないんです」
「もちろん! 時間返してくれるなんて!
こっちには失うものがないじゃないですか!!」
こうして時間投資先の天才と密約を交わした。
自分は時間を投資してお金を得る。
でも投資された時間はすぐにバックされる。
単にお金が手に入るだけの究極の錬金術。
「時間もあって、お金もある!
こんなに人生満喫できるなんて! サイコー!」
貸し切りプールに大量のアヒルを浮かべながら、
トロピカルドリンクを飲む優雅な時間。
なんの努力もせずに勝ち組人生を手に入れられた。
世俗から離れてタワーマンションを買うという趣味に興じていると、
時間投資を受けた世界各国の天才や技術者は
ますます人類文明のレベルを引き上げまくった。
自動車は空を飛ぶのに飽き足らずワープする。
人間の仕事はすべて機械が代替する。
あらゆる不便は解消され、効率化とスピードアップが施された。
現代の歩行速度はジェットブーツにより時速80kmがデフォ。
昔は時速4kmで歩いていたらしい。カタツムリか。
なにもかも手に入れてしまった自分だったが、
世界がどんどん便利になるにつれストレスは貯まっていった。
「暇だな……」
あんなに憧れていた大富豪のパーリーな日々も
持て余した時間をすべて消費するには限界があった。
科学の大進歩により寿命は400歳が普通。
仕事も家事もロボットがやるので人間はやることがない。
趣味も何もやり尽くして時間だけがただ余る。
「うう……。寝ても寝ても、明日が来ない。
明日が来たとしても、まだあと寿命350年以上あるのか……」
自殺は人間の体に搭載されたマイクロコンピューターで防がれている。
死という逃げ道で時間をすべて捨てることはできない。
今となっては時間投資をしたことを後悔している。
「時間投資なんてしなければ……。
こんなに発展することもなかったのに……」
昔は仕事だの通勤だので時間を使えていた。
不便さが時間を消費してくれたおかげで、わずかな時間を大事にできていた。
今となっては時間が有り余ってしまい持て余す。
持て余した時間はもはや有害でストレスしかない。
「もうダメだ。こっそり時間を捨てよう……!」
大富豪だけがアクセスできるディープな裏インターネットにアクセス。
そこではこっそり時間の不法投棄先がリストアップされていた。
自分のように時間を持て余した人は多いのだろう。
深夜2時。
人目の届かない山林に入っていく。
「よし……間違いない。ここが時間投棄場所だ」
使い切れない時間を捨てようとしたときだった。
光が顔に当てられて強い口調があびせられる。
「だれだ!!」
「ひ、ひい!!!」
慌てて時空ポータルで逃げようとするが遅かった。
警察よる視界の捕縛ネットで身動き取れなくされた。
「今時間を捨てようとしたな?」
「許してください! もう1日が長すぎるんです!
ただ捨てるだけなら誰にも迷惑かけないでしょう!?」
「時間を捨てると惑星が時間を吸い込んでしまって、
公転や自転が遅れてしまうんだ!」
「じゃあどうすればいいんですか!
こんな悠久の時間に囚われ続けたら人間はおかしくなる!」
「なんだお前。まさかAUTOモードも知らないのか?」
「おーと、もーど……?」
テレビやSNSなどという娯楽は飽きてしまった。
もう最後に見たのはいつだったのか思い出せない。
現代の技術進歩を知らないのもムリなかった。
「お前のように時間を持て余した人は多い。
だから人間にはAUTOモードの開発がされたんだ」
「どうすれば使えるんですか!」
「左手の人差し指の爪と、右手の中指の爪をくっつけてみろ」
「こう……ですか?」
< AUTOモード起動しました >
体が勝手に動き始める。
脳内は自動的にオフになり、眠っているような状態。
「AUTOは時間をただ浪費するだけのモード。
時間を使いたいときに起動すると良い」
ただ穴をほって、また穴を埋める作業を繰り返した。
約2000時間ほど浪費してくれた後、AUTOは自動消費された。
「こんな便利なものがあるなんて! もっと早く知りたかった!」
< AUTOモード起動しました >
ふたたび穴をほって埋めるだけの時間が始まった。
今は人類のほとんどが穴をほって埋めている状態らしい。
時間投資によるオーバー文明開化 ちびまるフォイ @firestorage
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