第10話「魔術研究部③」
「あれでよかったのか?」
「どうでしょう。正直分の悪い賭けでしたね。でも、何故だか僕にはあれが正解に見えた。」
天欠の運転する帰りの車の中で、いつものように2人は談笑している。
「焦る気持ちも分かるが、流石に彼女の前で炎はまずかっただろう。」
「焦りますよ。ゆらぎには自分で自分の身を守れるようになってもらわないといけないですから。」
「まぁ、それもそうだんだがな………ハァ、頭痛の種が増える……」
結果として、ゆらぎは恐怖が顔を出したものの、火ノ宮の炎は魔術への興味に効果的だったらしい。彼女は自分も魔術をやってみたいと口に出し、その後もいくつかデモンストレーションとして魔術を披露したが、楽しそうに見てくれていたと思う。
「炎が彼女の弱点だと教会にバレれば、必ずそこを突かれます。それに魔術によって火を支配下におけると分かれば、少しトラウマも解消出来るかもしれない。魔術を見せるのにインパクトが欲しい。色々考えた結果ですよ。」
「それが失敗して倒れでもしたら本末転倒だろうに。そもそも炎が苦手なことなど既に奴等は掌握済みだ。曙の気持ちも少しは考えろ。………なんて、文句を言い出せばキリがないが、一理あるか…」
「さぁ、どっちが正しいとかじゃありません。たまたまですよ。僕は彼女にトラウマを抱えたまま進んで欲しくない。ただの、エゴです。巻き込んでしまった側の。」
「……後悔だけはするなよ、駿。」
天欠はハンドルを強く握り込み、煙草を窓から放り投げた。
「ハァ…………ハァ…」
昨日と同じグラウンドに、少女が呼吸を乱してうずくまる。
「こんなの、聞いてない……苦しいよ…」
彼女は頬を赤らめ、疲労に弱音が漏れる。
「あぁ、先輩……淫らですよ…っ///こんな場所で……っ!」
「いやお前ら何してんの?」
「だって、魔術研究部なのになんで走り込みから始まるの……!?」
昨日の体験や講義を終え、さぁ実践だと息巻いて参加したゆらぎの2日目の部活だったが、その始まりは坂道のランニングからだった。
校舎で運動着に着替え、山の麓までは車移動し、放り出された結果である。
彼女は息を荒らげながら、膝に手を着いて体力切れに陥っていた。
「昨日伝えただろう。魔力は自分のエネルギーを変換して生まれる力だ。使いこなすには体力は欠かせないぞ。」
かく言う天欠は車で悠々と登ってきており、その様子に火ノ宮からはブーイングが飛んでいる。
「実際、体内のエネルギー全てが魔力に変換される訳じゃない。消費した体力について魔力に置き換わった割合を魔力変換効率と呼ぶが、しっかり訓練した人間でもよくて90%程度だ。月下は50%さえ切ってる。」
「変換効率……そんなに大変なんですね…」
「やると決めた以上しっかりやれ。それが大人になるということだ。」
簡単ではないと思っていたが、不安な滑り出しとなりそうだ。ゆらぎは戸惑いながらもどうにか呼吸を整え、背筋を伸ばす。
「まぁまぁ先生。初めてですから優しく行きましょうよ。ゆらぎ、少し休憩して改めて始めよう。水分は持ってきたね?」
「……うん。ありがとう。言われた通りちゃんと持ってきたよ。」
と、巫の声掛けもあり、一旦10分程度休んだ後、一同は改めてグラウンドに集まった。
「改めて始めよう。曙、昨日の感覚は覚えているか?」
「はい。なんとなくですけど、腕のビリビリした感じは覚えています。」
ゆらぎは昨日の体験を掘り起こす。少し手がひりつくのと、その万能感は確かに残っていた。
「それは重畳。では試してみよう。早速だが、ここに木の板がある。殴って割れ。」
「………えっと、何かコツとか、魔力を流すための授業とかはないのでしょうか……」
いきなり出された課題に、ゆらぎは困惑の色をうかべる。
「結局、誰しも最初の1歩は感覚頼りだ。魔力を感じて自ら作り出せるかどうかは当人の才能次第。故に現代まで魔術師の数は限られている。必死で思い出せ。心の臓を中心にお前の魔力は巡っている、」
「……、分かりました。」
まぁ、何事もやってみる事が大事なのだろう。ゆらぎはそっと目を閉じ、体の内側に意識を向け始める。昨日の体験を感じ取り、自分が強くなる姿をイメージする。
「いきます。」
そして目を見開き、足を前に出して拳に力を溜めて、
「せーのっ!」
掛け声とともに、思い切り力を振り絞る。そのまま目の前の板を━━━━━━━━━━!
ガンッッ!!
「痛っっっったーーーーい!!!!!」
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