第24話 キャラらしさを描く配役
「お兄ちゃんって、演劇をやるんだよね」
翌日の放課後。
校舎の昇降口近くの廊下にて、
「一応ね」
「頑張ってね。私、応援してるから!」
妹の真白は、柊の背中を優しく押してくれるような言葉をかけてくれる。
「練習は今日から?」
「そうだな。今日の放課後までには台本が出来上がるみたいだからね」
「そうなんだ」
「真白はどうなんだ? 参加する感じ?」
「私は全然。私のクラスには演劇をやってみたい人が多くて、私は選ばれなかったの」
「一応は参加を希望した感じ?」
「そうなんだけどね」
真白はちょっとだけ、残念そうな顔をしていた。
「でも、お兄ちゃんには期待してるから。お兄ちゃんなら出来るよ!」
「ありがと。後、もう少ししたら教室に戻らないと」
「じゃあ、私は一足先に帰るね」
「またあとでな」
「うん、そう言えば、お兄ちゃん。今日食べたいモノってある?」
「んー、なんでもいいけど。コロッケを食べたいかな」
「わかった、コロッケね。スーパーのやつでいい?」
「それでお願い」
真白は手を振ってから、校舎を後にする。
柊は妹の帰りを見送った後で、皆が集まっている教室へと向かうのだった。
教室に戻ると、すでに柊を含めた十二人が集まっている。
それから、流星と咲奈などだ。
「では、今日から頑張って行きましょう!」
教室の壇上前にいるのは、演劇部の
事前に持っていた演劇の台本。それを教室内にいる人らに渡す。
全員に渡り終えた台本の表紙にはイラストは描かれておらず――
タイトル、とある少女の物語かっこ仮とだけ記されてあった。
「今から皆には台本の最初あたりのページにある登場人物やあらすじを読んでほしいの。それから配役を決めましょ。一旦、黙読っていうか、自分で演じられそうなキャラを探す時間にしますね。二〇分ほどしたら、もう一回話を再開しますからね」
奈々は壇上近くにあるパイプ椅子に座ると、台本を読み始めるのだった。
柊らが持っている台本は三〇ページほどで構成されている。
最初辺りのページに、登場人物とあらすじ。
その次に、キャラのセリフと、状況の説明が簡単に書かれている。
内容も事細かく書かれており、数日で作ったとは思えない。
最後のページまで一通り読んでみると、以前から演劇部内でアイデアとしてあげられていたモノを軸に構成した台本と記されてあった。
数日で作ったわけではないのか……。
それにしても、クオリティが高いな。
柊は台本を読みながら、物語の内容を把握していく。
物語の流れとしては、シンデレラのような構成である。基本的に、物語の主役の女の子が、意地悪な人らに虐められているところから話が始まるのだ。
色々な人との関わりを経て、人生の勝ち組になるといったストーリー。
柊は台本を何度か読み直した後で、登場人物のページへ戻る。
学校で行う演劇にしてはレベルが高いと思う。
柊は難しい顔を浮かべる。
文化祭といえ、演劇する者として真剣に取り組んだ方がいいと感じていたのだ。
登場人物とかにも一通り目を通したが、柊からすれば、どんな役だったとしても何とかなりそうではあった。ただし、男性キャラのみである。
後は、その人物になりきれるか。それが一番大切な事だ。
「はい。今でようやく二〇分経ちましたけど。皆さんは、大体の流れを掴み終えましたか?」
時間になると、奈々は再び壇上前に立ち、教室にいるメンバーを見渡していた。
「俺は、最後まで台本は読んだけど。そろそろ、配役を決める話にするってこと?」
「そうね。他の人も大丈夫そう?」
陽キャ男子の流星が席に座ったまま返答をした後、奈々がもう一度皆に問いかけていたのだ。
他の人もそれでいいと反応を返していた。
「じゃあ、良さそうね。えっとね、皆がどの役なら演じやすいか、ちょっと聞いていこうかな」
奈々が場を仕切り、現メンバーの中で一番良く話してくれている
「俺、演劇とかほぼ初心者みたいな感じでさ。昔、演劇の舞台公演を一、二回見た事がある程度でさ」
「そうなの?」
「でも、全く知らないわけじゃないんだけど。まあ、小学生の時に学校の行事でちょっと演劇をやったくらいで」
「少しはやったことがあるのね。だったら、自分が出来そうな役とか決められそう? というか、森田さんは昔、どんな役をやる事が多かったのかな?」
奈々は深く考え、右手で頬を触った後で流星に聞き返す。
「俺は確か……主役を演じることが多かったかな」
「主役ね。それはいいかもね。この台本に主要メンバーの男子キャラが出てくるから、その役でもいいかもね」
奈々は台本の登場人物一覧を見ながら答えていた。
「マジですか。このキャラでいいんですかね」
「別にいいよ。その方が、目立つでしょうし。むしろ、森田さんが主要キャラを演じた方がいいかもね。それで、決まりってことでいいかな?」
あなたなら大丈夫だからと、念を押した感じに奈々は告げる。
「別にいいんだけどさ。他の人の意見を聞かなくてもいいのか?」
「いいよ。森田さんは、私のイメージ通りだし。ちなみになんだけど、この台本を書いたのは私なんだよね。丁度いいし、やってくれないかな」
「そこまで言われたら、やってみようかな」
「では、主要キャラの男子は森田さんね」
奈々は壇上机に置いたノートに決まった事を書き込んでいた。
「わかったわ。あなたは、この役ね」
奈々は一人、また一人と、その人に適したキャラを見定めながら役を与えていく。
「次に、長谷部さんは……えっとね、悪役キャラになってしまうんだけど、それでもいいかな?」
「私が?」
「そうなんだよね。残っているキャラが、悪役のキャラしかいないの」
「え……」
「でも、悪役って、物語的に重要な役割があるから結構重要なの。長谷部さん、やってくれないかな?」
「重要な役割? まあ、いいわ。演技すればいいんでしょ? 出来るかどうかはわからないけど、一応やってみるわ」
「ありがと。助かるわ」
奈々は悪役キャラを与えてごめんねいった感じに頭を軽く下げていた。
でも、咲菜に悪役とは、十分適していると思う。
と、柊は心の中で感じていたのだ。
「じゃあ、後は篠原さんね。でも、あと一人分しか枠がないの。その役でもいいかな?」
「はい、俺はそれでもいいです。なんとかなりますので」
「え?」
迷いのない柊のセリフを聞いた奈々は一瞬、目を点にしていた。
「心配しないでください。やるからには成功させてみるので」
柊は、戸惑いがちな奈々に対して、当たり障りのない爽やかな声で返答したのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます